軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王宮の乱(4)(ルートヴィッヒ視点)

僕と母上、イーリス様は、王宮内の謁見室へと急いで向かった。

国王への謁見室の控室は、身分によって部屋が細かく分かれている。王族専用の控室には、まるで宇宙人に拉致された一般人のような表情のテオドーラ妃が座っていた。テオドーラ妃の側には女官長と、その家来共がふんぞり返って立っている。

先代の女官長は、三年前雪白妃であったナディヤ妃が失脚した時一緒に失脚した。女官長の職を辞し、前非の数々を悔いる為自ら修道院に入ったと言われている。

現職の女官長は、やはり王妃派の人間なのだから後宮に巣食う王妃派の闇は暗くて深い。ただし王妃派の中でもいろいろと派閥があるらしく、今の女官長は典礼大臣エーベルリン男爵の系統なのだそうだ。エーベルリン男爵が息子の罪に連座して処罰されたら、女官長も一蓮托生の身である。だから尚更、目を血走らせているのだろう。

女官長は僕と母上の事は忌々しそうな目をして見たが、イーリス様を見るとニヤリと笑った。イーリス様が息子の放免を請願しに来たと思っているのだろう。

「第二王子殿下が何の用でいらっしゃったのかしら?」

と女官長は失礼な言葉をぶつけて来た。嘘をついても何にもならないので、僕は正直に

「司法大臣と、クラウスとフィリックスが登城したと聞いたので会いに来たんだ。」

と言った。

「何ですって!わたくし、そんな事聞いていないわ。」

と女官長が叫んだ。

誰も報告に来なかったのか。という事にむしろ驚いた。部下の躾がなってないだろう。と思う。あるいは、グラウハーゼの情報収集力が異様に優れていたのか。

「フェルディナンドは中でしょうか?」

とイーリス様がテオドーラ妃に聞いた。

「わたくし達の方が先に来たのに、先に中に入って行ったのですよ!」

と女官長が言った。おまえには聞いていない。

こんな所で情報を切り断たれているのは、結局この女官長に政治力が無いからだ。先先代の女官長ならここへ来る前に十分に手回しをしておいた事だろう。女官長が交代する度に下位互換していくのは当たり前なのかもしれないが、こんなのが女官長だなんて王妃派もいよいよ人材不足になって来ているようだ。

そう考えていると、謁見室へ向かうドアが開いた。

父上の侍従長、アルステッド伯爵が

「ルートヴィッヒ殿下、芳花妃殿下、蛍野妃殿下、アーレントミュラー公爵夫人。どうぞお入りください。」

と言った。

当たり前のように女官長も入って行こうとしたが

「陛下がお呼びになられたのは四人だけです。」

と言って女官長の入室を拒否した。女官長は伯爵を睨みつけたが、伯爵は微動だにしなかった。

謁見室の中には、フェルディナンド叔父上以外に宰相と司法大臣、そしてクラウスとフィルがいた。民部大臣や典礼大臣はいない。

誰もが 厳(いかめ) しい顔をして、部屋全体に怒りのオーラが充満している。ただ一人、クラウスだけが目を真っ赤に腫らして俯いていた。

「エーレンフロイト侯爵。今、一通りの話は聞いたが、ルートヴィッヒ達にも今と同じ話を聞かせてくれるか?」

侯爵に同じ話をさせるのは無論僕達に聞かせる為だろうが、侯爵の話に矛盾点がないかを確認する為だろう。話に嘘があれば、内容に 齟齬(そご) が生じるはずである。

そう言う父上の声も珍しいくらいに不機嫌だ。感情をあまり面に出さない父上にしてはとても珍しい。

問題は『誰』に対して不機嫌なのか?という事だ。

エーレンフロイト侯爵は話し始めた。

侯爵は時系列ではなく、自分の所に報告が入った順に話した。

始まりは、レベッカ姫から届いた手紙だ。同時にフィリックスがエリザベートに届けた手紙が届いている。

そして、女子寄宿舎に行きエリザベートから話を聞いている。侯爵は、司法省文書課が筆記した書面を見ながら話をしているので、嘘や抜けは無いだろう。

その後、秘密の地下通路を使って男子寄宿舎に潜入。秘密の通路が食糧庫に繋がっているという事を僕は今初めて知った。

そしてまず、クラウスとコンラートを保護。

クラウスの話からイシドール・フォン・エーベルリンを拘束。後にイシドールとフィリックスから名前を聞いた生徒を拘束。責任を持つべきはずの大人である教師、従僕、門番を拘束した。

そして司法省内でコンラートを除く全関係者から話を聞いた。

以上。

侯爵の話は、以前領地内の天然痘の対策を聞いた時も思ったが非常に聞きやすくてわかりやすい。

混乱や疑問を覚えなくて済むから、脳内とハラワタは秒で煮えたぎった。

民部大臣や典礼大臣の話と何から何まで違うじゃないかっ!

僕の背後でガタッ!という音がした。内容のあまりのひどさにテオドーラ妃が立ちくらみを起こしたらしい。母上とイーリス様が慌てて支えていた。

「僕が聞いた話と違い過ぎる!。だいたい僕はジークレヒトの事もコンラートの事も聞いてなかったぞ!」

「父上が何を聞かされていたかは、教えてもらったけれど、ルーイがどう聞かされていたのか教えてもらえるか?」

怒りの為だろう。ひっくい声でフィルがそう聞いてきた。

ので、僕はグラウハーゼに聞いた話を皆の前で繰り返した。

「僕とクラウスは逮捕されてなんかいない。司法省内で、詳しい話を聞かれただけだ。話なら寄宿舎でもできただろうが、あの寄宿舎内の空気を一秒たりとも吸っていたくなかったから司法省へ行ったんだ。」

「そうか。」

「保護された少女が売春婦だったのかそうでないのかは僕にはわからない。それについてはエリーゼの方がよく理解しているだろう。僕もエーレンフロイト侯爵も少女とは直接話してないからな。だが、寄宿舎の個人の部屋に女性を入れるのははっきり禁止されているし、イシドールがジークレヒトと少女を本気で殺そうと火かき棒を全力で振り下ろした所ははっきりこの目で見た。ジークレヒトは自ら飛び降りなければ確実に殺されていたと思う。火かき棒が振り下ろされた場所は石が抉れていたからな。」

イシドールは 膂力(りょりょく) を誇る巨漢だ。女性を横抱きにしていたジークレヒトに「抵抗しろよ」とか「逃げる方法なら他にあったんじゃないの?」とはとても言う事はできない。

「女性に対する暴力は勿論許せない。でも、僕は教師共が一番許せない。奴らはイシドールやイシドールと一緒にジークレヒトを追い回した連中を放置し、ジークレヒトを助けにも行かず、大怪我をしたコンラートを殺す為に懲罰室に入れ、王子であるクラウスまで閉じ込めた。ジークレヒトの事はよくわからないけれど何かの事故、コンラートはただの喧嘩、女性の事は最初からいなかったという事にして事実をもみ消そうとしたんだ。あいつらを絶対に僕は許せない!騒動が起きてる物音を聞いたのに、関わるのを面倒に感じてすぐに様子を見に行かず、部屋でお茶を飲んでいた事が僕の罪だったというのならおとなしく罰を受けます。しかし、陛下!あの教師共にも罰を与えてください!」

フィリックスがそう叫ぶと、クラウスの目から一筋の涙が伝い落ちた。

「目が合ったんです。ジークが飛び降りる瞬間ジークと。僕はどうして、彼を助けられなかったのだろう。」