軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王宮の乱(1)(ルートヴィッヒ視点)

その日は夕方から雨が降り出した。

そのせいで、冬のように薄暗い夕方だった。暗い中で書類仕事をすると目が悪くなる。僕は早くからランプに火を灯し、目の前の書類と格闘をしていた。

僕の名前はルートヴィッヒ。そして、今いる場所は芳花宮内の僕専用の書斎である。芳花宮は、ヒンガリーラントの王宮にある宮殿の一つで、国王の側妃の一人である僕の母が賜った宮殿だ。つまり、僕はこの国の王子なのだ。

普段の僕はアカデミーに通っていて、アカデミーの寄宿舎に住んでいる。

だが、三日前。父である国王に王宮に呼び出され、夏に我が国を訪問する隣国ヴァイスネーヴェルラントの王太后カサンドラ陛下の接待を命じられた。

その命令を受けた時から、僕は芳花宮の書斎にこもって接待の準備をしている。夏までまだ数ヶ月あるなら、そんなに急いで準備しなくても。と思われそうだが、準備は出来得る限り早く済ませておかねばならない。なぜなら、絶対邪魔をしてくる奴がいるからである。

僕と不仲の異母兄と、その後見をしている『王妃派』と呼ばれる貴族達だ。

僕は、手元の資料を見つめた。目の前にあるのは貴族名簿だ。これを元に歓迎舞踏会の招待状の名簿を作らなければならないのだが、これが大仕事なのだ。

我が国では三年に渡って恐ろしい伝染病が流行し、その結果として、新しく爵位を手にした貴族が何十人も増えた。そして死んだり、あるいは別な理由でいなくなった貴族もたくさんいる。ゆえに新しいリストを作り直すのが大変な手間なのである。

だが、この仕事は部下に任せず自分でやれと父に指示されている。

その理由も一応わかっている。

僕が主宰の舞踏会で、僕が招待した貴族の名前を覚えていないなどという事があってはいけないからだ。特に新しく貴族となった人達は、どのような功績をあげて貴族に任じられたのかよく覚えておかねばならない。わかってはいるが、さすがに資料の眺めすぎで目がしょぼしょぼして来た。

そろそろ夕食の時間だし、今日はここまでにするか。と思って伸びをした時、執事が来客を伝えに来た。

「来客?今日は誰とも会う約束はしていないが?」

「これを渡して頂ければ、わかって頂けるはずだ。との事でございます。」

そう言って差し出されたのは、灰色の毛並をしたウサギのぬいぐるみだった。

「・・・通してくれ。」

五秒後。書斎に現れたのは『森影』の 灰色兎(グラウハーゼ) だ。父上が僕につけてくれた、僕専属の諜報員である。

「どうした?珍しいな。」

珍しいも何も、彼が自分から僕を訪ねて来るのは初めての事だ。

グラウハーゼは、僕が呼ばなければ僕の前には現れない。そして、僕が質問した事にしか答えない。僕が聞いていない事まで教えてはくれないのだ。

「今、王宮内で騒ぎが起きております。アルステッド伯爵が、第二王子殿下のお耳に入れておいた方が良いだろうと、私に指示を出されましたので、伺いました。」

アルステッド伯爵は、父上の侍従長だ。そして、僕がグラウハーゼを呼び出したい時は彼に依頼をする。つまり彼が『森影』のリーダーなのだ。

僕は緊張した。こんな事は初めてだ。つまり、それだけ重要な情報なのだろう。父上の身に何か起こったのだろうか?それとも、兄か王妃に?

伝染病が流行っていた間、南部の離宮に引きこもっていた王妃と異母兄は、一ヶ月ほど前に王都に戻って来た。二年半ぶりに王都へ戻って来た二人に人々の視線は冷たかった。王都に伝染病が侵入したかも?という噂を聞いた途端、国母として、王太子としての責任の全てを放り出し、国王に無断で人の少ないど田舎に逃げたからである。

王族や大臣、有志のボランティアが熱心に伝染病と戦っていた中でそんな行動をとったのだから、白い目で見られるのは当たり前だった。

田舎の離宮でおとなしくしていたら、まだマシだったのだが、兄は王都から愛人(人妻)を呼び寄せた。更にお気に入りの芸術家達を呼び寄せ毎日のように享楽的で退廃的な遊びに耽っていたという。

もう、おまえ達は永遠に戻って来るな!というのが王都民の本音だっただろうが、二人は一ヶ月前に戻って来た。そして、王妃は平然とこう言い放ったという。

「二年ぶりに戻って来たのに、歓迎の宴も開いてくれないのね。陛下も貴族達も冷たいわ。」

あれだけ空気が読めなかったら、人生幸せだろうな!と思う。

父上は

「長旅で疲れているだろうから、王妃宮から出ずにおとなしくしているように。」

と、二人に言ったらしいが、これは事実上の軟禁である。

その意味を察せず、何かろくでもない騒ぎをまた起こしたのかもしれない。

僕はお茶を飲みながらグラウハーゼに

「何があった?」

と聞いた。

「司法大臣である、エーレンフロイト侯爵が反乱を起こした。という訴えがなされました。」

飲んでいたお茶を鼻から吹かなかった僕の事を誰か褒めて欲しい。

貴族は、感情を顔に出してはいけない。と父上や側近達にいつも言われている。

だけど、感情が抑えられなかった。むしろ爆発した。

「誰がそんなとぼけた事を言っていやがるんだーーーっ!」

「民部大臣のバルナバス男爵と、典礼大臣のエーベルリン男爵、それと元司法大臣のガルトゥーンダウム伯爵です。」

「コテコテの王妃派貴族達じゃないか!何を考えて、そんなホラを吹聴しているんだ!」

「エーレンフロイト侯爵が、司法省の省員達と侯爵家の騎士団を動かしたのは事実です。」

「・・・何があったんだ?」

「その前にまず、グラちゃんを返してください。」

と、グラウハーゼに言われた。僕は興奮するあまりウサギのぬいぐるみを全力で握りつぶしていた。

「グラちゃんとやらを無傷で返して欲しかったら、とっとと答えろ。」

「それ、悪役が言うセリフですよ。まあ、民部大臣や典礼大臣の中ではルートヴィッヒ様も悪の一味ではあるようですが。」

「何があったんだよ⁉︎」

「あくまで、民部大臣達の言い分ですよ。」

とグラウハーゼは前置きした。

「典礼大臣の息子と民部大臣の親戚の子達からなる数人の男子が、アカデミーの寄宿舎に売春婦を連れ込んだそうです。褒められた話ではありませんが、これ自体は法に触れる話ではありません。なのにエーレンフロイト侯爵が寄宿舎に突入し、その少年達を女性の略取及び強姦の罪で逮捕したのだそうです。」