軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不帰川(7)(フランツ視点)

さっき、コンラートを懲罰室から運び出していた時、ナターリエは他の懲罰室のドアを全部開けて中を確認していた。もしかしたら一緒にさらわれたのかもしれないミュリエラ嬢の妹を探していたのかもしれない。

「ひもうひょ?」

ティムが、涙と鼻水と鼻血でこの世のモノとは思えないほど醜くなった顔をぽかんとさせた。

「ひもうとなんか知りゃない。あひゃいリボンのちゅいたボンネッチョを被った五しゃいくらいのまいごのおんにゃの子を見なかったかきかれて、こっちの通りにひゃいって行った、と言ってひとけのぬわい通りにさほいこんだけど、ほんちょはしょんな子みてなかったから・・。」

「この(自主規制)野郎がっ!」

ナターリエが、ものすごく汚い言葉を吐いた。

私はティムの話す言葉が聞き辛すぎて、理解が一瞬遅れたが、理解した途端脳内が沸騰した。

さっきイシドールは、『男にふらふらついて行く女』と被害者少女の事を語ったが、少女は迷子になった五歳の妹を探していたのだ。

もしも旅先の街でヘンリクが迷子になったら、レベッカやヨーゼフは血眼になって探すだろう。よく似た子供があの通りに入って行った、と言われたら、怪しげな道であっても入って行くはずだ。

そんな家族の当然の感情を利用してこいつらはひと気の無い道に少女を誘い込み、アトマイザーで痺れ薬か何かを吹きつけて拉致したのだ。

本当の本当に(自主規制)野郎共だ!

その頃になると、司法省本部に待機していた夜勤組も応援に駆けつけて来た。

「門番も共犯だ。拘束しろ!」

少女曰く、必死の思いで門番に助けを求めたのに無視されたそうだ。そもそもたとえ少女が何も言えなかったとしても、男子寄宿舎の中に女の子をこっそり入れるなど、門番として失格である。

「フィリックス殿下。コンラートと殴り合いをした者は誰ですか?」

と私は聞いた。コンラートとジークレヒトに対する殺人未遂。及び、監禁の共犯だ。

「ベルント・フォン・イェリネク、ゲーアハルト・フォン・キルヒホフ、オットー・フォン・アードラー。それにエマヌエル・フォン・カルステンス・・・。」

フィリックスが一人一人を指でさす。

ある者は逃げ出そうとし、ある者は「僕は知らない。関係無い!」と叫んだ。

一瞬思った。

フィリックスが悪意を持って、無実の者の名前を紛れ込ませても司法省にはわからないな。

冤罪を生まない為に、怒りや思い込みを捨てて公正な心で取り調べをしなくてはならない。

ただ、フィリックスが名指しする者達は大なり小なり体のどこかに怪我を負っているので、フィリックスが嘘をついているとは思わないけれど。

その時。出口のすぐ側にいたイシドールが、振り返って大声で叫んだ。

「ハルトヴィッヒ・フォン・オーヴァーベックとディートヘルム・フォン・エッティンガー。それにアウレール・フォン・オズワルドもだ!」

・・・怪しい。

と思った。無実の者に濡れ衣を着せようとしているのではあるまいか。だが、そう『思った』というだけの理由で無罪にするわけにはいかない。そもそもティム、フォン・ルイトボルトを逮捕したのも、イシドールがティムを犯人だと言ったからなのだ。

「今、名前が出た三人も一応連行しろ。話を聞く。」

「はい。」

「それと。」

私は、ヘルフリートを振り返って言った。

「教師全員と従僕達も拘束しろ!」

「わ・・私が何をしたと言うんだ!」

ヘルフリートが叫んだ。

「何もしなかったから逮捕するんだ!」

「・・・は?」

「貴様は、司法省に通報しなかった。運河に落ちたジークレヒトを助けにも行かなかった。コンラートの怪我の治療もしなかった。それがおまえの罪だ!」

「・・・。」

「それだけでなく門を閉ざして誰もジークレヒトを助けに行けないようにした。コンラートの事は懲罰室に閉じ込めた。」

「懲罰室に入れたのは、シュテルンベルクが喧嘩をして、何人もの人間に怪我をさせたからだ!アカデミー内では、教師が罪を犯した生徒に罰を与える権利がある!」

「ならば、何故クラウス殿下までも閉じ込めた?」

「我々は閉じ込めてなどいない。殿下が勝手について入ったんだ!」

「ああ、そうか。その理屈が通るかどうか、国王陛下の前で弁明すれば良い。貴様は貴族だ。どちらにしても裁判は陛下の御前で行われる。」

「嫌だ、離せ!これは反乱だ。エーレンフロイト侯による権力の暴走だ!」

ヘルフリートが暴れたが、騎士達に腕力で敵うわけもない。そのまま、ずるずると引きずられて行った。

「何があったの?」

と背後から話しかけられた。ヨーゼフだった。

「おまえ無事だったのか?」

怪我一つ無いヨーゼフの姿に私はほっとして息子の肩を抱いた。

「どういう意味?」

「おまえ、騒ぎに全然気がつかなかったのか?」

「騒ぎ?夕方になんか大きな物音がしたけれど。その後、生徒は全員部屋の外に一歩も出るな。って先生達に言われてさ。おかげで、夕食がまだで、お腹空いたよ。で、今またすごい大声とか聞こえて来たから様子を見に降りて来たんだけど。何でお父様がここにいるの?」

「・・・それはね。父が司法大臣だからだよ。」

我が子ながら、のんきだな!と驚いた。それとも危機回避能力の高さを喜ぶべきか?どちらにしても、この息子から聞き出せる事件の情報は絶無だろう。

「お父さんは、これからまだ仕事があるからおまえは騎士達と一緒に家に帰りなさい。」

「何で?」

「いいから言う事を聞きなさい。帰ったら、夕ごはんが食べられるぞ。」

「だったら帰る。」

今は詳しい事を説明している暇がないし、それに辛く苦しい話を伝えるのは親として少しでも後にしたかった。クラウス殿下は、友人達の苦しみにずっと涙を流している。ヨーゼフだって真実を知れば、悲しむだろう。

というか、クラウス殿下が泣いている姿を見て、教師が連行されて行く姿を見て、非常事態だとわからないのだろうか⁉︎我が子ながら空気が読めない子だな!

ヨーゼフの友人のエリアスはきちんと空気が読めているらしい。

騎士達がヨーゼフを連れて行こうとすると

「待ってえ。置いてかないで!何かわからないけど怖いよ。行かないでえ!」

と言って、ヨーゼフの服を掴んで泣き出した。

エリアスは情報大臣の愛息子だ。もし「置いて行かないで」と言うのを無視して、置き去りにして、エリアスの身に何かあったら私が情報大臣に殺される。

私は騎士達に

「エリアスもうちに連れて行ってあげてくれ。」

と頼んだ。

「クラウス殿下とフィリックス殿下は、更に話が聞きたいですので司法省に来て頂けますでしょうか?」

と私は言った。

長い夜はまだ始まったばかりだった。