軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嵐の始まり

社会全体が不況なのと、治安が悪化しているのはお互い様だった。

「さっきのアレすごかったですよねえ。」

クラリッサがしみじみと言う。

さっきのアレとは、カレナと元婚約者のアレである。

「まあ、アレも不況が生んだ騒動と言えるかもね。」

銀行が倒産しなければ起きなかった騒動なのだ。

だが、お互いの国で一番問題になっているのは、革命が起きたブラウンツヴァイクラントからの難民問題だ。特にヴァイスネーヴェルラントは吹けば飛ぶような小国である。国土が狭く人口は少ない。大量の難民が助けを求めて来ても、食料や衣類が用意できない。

だけど、ヴァイスネーヴェルラントの王妃様はブラウンツヴァイクラントの王女様なのだそうだ。だから、押し寄せる難民を無碍にはできない。

「ヒンガリーラントでも大変なのですか?」

「難民の方が騒ぎを起こす事もあるし、難民へのヘイトもあるみたい。ヒンガリーラント人でも困窮している人が多いのに、難民に援助するのは贔屓だ!ずるい‼︎って言ってる人も多いみたいでね。」

「悩ましい問題ですよね。難民の方々も好きで難民になっているわけではないですのに。」

それこそ『明日は我が身』な問題なのだ。自分の暮らす国が明日も『平和で安全』である、という保障はどこにもないのである。

他にも、グラハム博士の近況とか聞いてみた。彼女が書く医学書は飛ぶような勢いで売れているそうだ。

ふと、私の書く絵本に絵を付けてくれる『ジークハルト氏』の事を聞いてみたくなった。今、どんな風に過ごしているのだろう?

だけど、やめておいた。彼が自分の情報をどれだけ開示しているかわからないし、私が余計な事を言ったせいで彼に迷惑がかかってはいけない。バタフライエフェクトというものは確かにある。何がどのような影響を及ぼすかはわからないのだから、余計な事は言わない方がいい。

私は、飛び出す絵本以外にも何冊かの本を買った。グラハム博士の医学書も買ってみた。今晩、ゆっくり読むのが楽しみである。

私は、レーベンツァーン亭に帰って行くクラリッサに

「気をつけてね。」

と言った。

「お父様が言っておられたけれど、本当に治安は悪化しているらしいから。何か、困った事や怖い事があった時は遠慮なく頼って。」

そう言った時、私は社交辞令を言っているつもりだった。

その後私は、夕食の時間まで買ったばかりの本を読んで過ごした。それから夕食の時間になり、私とユーディットは階下に降りて行った。一階に着いてすぐ、ユリアとカレナに出会った。私がユーディットと二人なのを見てユリアは小首を傾げた。

「コルネ様はどうされたんですか?」

「頭が痛いらしくて、医務室に薬をもらいに行ってる。」

「あら。雨でも降るのかしら?」

コルネは低気圧に弱く、雨が降る前には必ず頭痛を訴える。正直、天気予報代わりで助かっている。本人には絶対言えないが。

「今日の夕ご飯は何でしょうね?」

「何だろうねえ。そういえばさあ、今日うちでお父様の部下の人達を呼んで食事会をするんだって。お父様やお母様はご馳走を食べてるんだろうなあ。」

天然痘が終息した後、世の中が不況になったからか、寄宿舎の食事のレベルが少し落ちたような気がするのだ。・・悲しい。

玄関の近くでエリーゼとエリーゼの侍女のクーニグンテに会った。エリーゼは玄関ドアの側の窓を開けて外を見ていた。

「雨が降り出したわ。どおりで冷えると思った。クーニグンテ。部屋へ戻って暖炉に火を入れておいてくれる。それと、ストールを持って来て。」

「承知致しました。」

と言って、クーニグンテは三階へ戻って行った。

「お嬢様にもストールを持って参りましょうか?」

とユーディットが聞いて来た。

「私は平気だけど・・・。」

声が途中で止まったのは雨音に混じって人の大声が聞こえて来たからだ。

「入れて欲しい」「部外者は入れられない」「このままじゃ凍死する!」

そんな声が聞こえるような気がする。

まさか、さっきのストーカー⁉︎カレナを追いかけて来たの?

私はドアに手をかけ、ドアを開いた。間違いない。確かに、声が聞こえてくる!

寄宿舎の門には二十四時間、門番が立っている。親族ではない男を中に入れる事はないだろう。だけど妙に胸騒ぎがした。様子を見に行くべきだろうか?

「・・この声。」

私の側にいたユリアが呟いた。

「ええ、間違いないわね。」

何故か、エリーゼがそう言った。エリーゼが、外に出て雨の中門の方へ歩いて行く。私とユリアは慌てて後を追った。

それが、始まりだった。