作品タイトル不明
新しい絵本
帰りの馬車の中で
「申し訳ありません。レベッカ様、ユリア様。」
とカレナに頭を下げられた。
「いや、カレナは何も悪くないし。」
と私。
「そうよ、あの人の方があらゆる意味で非常識だったわ。」
と、珍しくユリアもお怒り顔だ。
「とゆーか、カレナ、良かったの。一応、元婚約者でしょう?大商会の奥様になれるチャンスではあったよ。私やユリアや、ついでにラヴェンデルに遠慮しているのだったら・・・。」
と私は聞いてみたが、カレナは首を横に振った。
「いいんです。もう、顔も忘れていたような人ですよ。わずかに残っていた良い思い出も、あの身勝手さを見たら綺麗さっぱり消えました。あんな奴の為に今の生活を手放したりできません。だって、私今とても幸せですもの。」
そう言ってカレナは微笑んだ。
エリーゼは「結婚相手を選ぶなら相手の良い所ではなく悪い所を見ろ」と言った。そして、その悪い所を許せるか許せないかで結婚するかどうか考えろと言った。
そして、カレナは許せなかったのだ。子供を捨てた事も、漆黒のサソリ団事件が起きた時かばってくれなかった事も。
「そうよ、あんな人と一緒になってもろくな事にならないわ。ヘルムス商会はディッセンドルフ銀行とズブズブの関係だったから、きっと今潰れる寸前よ。グラハム博士の救出の件も声をかけなかったから、王様からの報奨金も出ないし。」
とユリアが言った。
そんな状況でプロポーズとは、神経の図太い男だ。昨日、結婚式に出席したそうだから、瞬間的にボルテージが上がっていたのかもしれないが。
ガタゴトガタゴト。馬車に揺られ私達は予定よりも早く寄宿舎に戻って来た。
クラリッサもすぐ来てくれたので、私は応接室で彼女を迎えた。
「あっちこっち呼びつけてごめんね。イザークさんにも悪い事したなあ。」
商人にとって『時は金なり』だ。最初から私に約束をキャンセルされるとわかっていたら、違うお得意先の所に顔を出せたのである。外国からはるばる来ているのだし、時間は貴重なはずだ。
「大丈夫です。叔父はアカデミーに行きました。アカデミーの図書館がかなりの数の本を買い上げてくださったので、社員が何人か搬入と、ついでに図書館の掃除や整理の手伝いに行っていて、その応援に行ったんです。それに、レベッカ様をお訪ねするより重要な仕事はありません!」
いや、どう考えてもアカデミーでの仕事の方が利益率が高いだろう?
と思うけど。
とりあえず、向かい合ってお茶を飲み、それから新しい本のプレゼンを受けた。今回の目玉は『飛び出す絵本』だ。
実は、これを最初に作ったのは私である。
弟のヘンリクが生まれた時。私はまた、ユリアやコルネ、ヘレンと一緒に絵本を作った。お母様はプレゼントされた本が一冊で、しかも題が『王様の馬』だったので「ありがとう」と口では言いつつも、少し残念な顔をしていた。
そして、本を開き
「きゃあ!」
と声をあげた。
護衛のビルギットやゾフィーが慌ててお母様の側に駆け寄り本を見て目を丸くした。
気持ちはわかる。
私も文子だった頃、絵が飛び出すグリーティングカードを初めて見た時めっちゃびびったもの。
お母様もびっくりしたようだが、それは最初だけで
「面白い。すごい!」
と、とても喜んでくれた。
その反応を見た時、これクラリッサに提案したら売れるかも。と思ったのだ。
なので、クラリッサに手紙と一緒に絵が飛び出すグリーティングカードを送った。クラリッサなら、それだけで更なる研究と改良を試みてくれるだろう。
そして、二年がかりでクラリッサは、一点ものでなければ難しかった飛び出す絵本の量産化に成功したのである。
今までに私が作った『数の絵本』が、絵が飛び出す作りになっている。他にも『ドングリを探しに』みたいなショートストーリーの絵本でクラリッサは飛び出す絵本を作っていた。紙を本来の本より厚めにしなくてはならないので、まだ『勇者ブラウンシュガーの冒険』みたいな長編の絵本では難しいらしい。
でも、感動だわ。
何が感動って『数の絵本』がまたものすごく売れて、私の懐に出版料が大量に転がり込んでいるところが。
「レベッカ様は本当にすごいです!」
とクラリッサがヨイショしてくれる。
私は「えへへ」と曖昧な微笑みを浮かべておいた。
それから、お互いの国の情報交換を行った。