作品タイトル不明
或る少女(3)
「ところで。」
と言って、エリーゼは話題を変えた。
「この度、私の妹達そして弟がアカデミーに入学します。貴女達に妹達を紹介したいと思うのだけれど、この場に呼んでも良いかしら?」
良いのかも何も、ここはエリーゼの自宅でお茶会の主人はエリーゼだ。駄目だ。と言える人がいるだろうか?
「エリーゼ様って、妹や弟がいたんですか⁉︎」
その方に驚いた。
ところがみんな、私のその発言に驚きギョッ!としたようだ。ミレイやヘレンなど、なんか蒼ざめている。
「ええ。上の妹が10歳、下の妹が9歳。弟が8歳です。妹達はもっと早くアカデミーに通う予定だったのですが、伝染病のせいでアカデミーが休校になっていたので今まで入れなかったのです。」
そう言ってエリーゼは侍女に、妹達を連れて来るように。と指示を出した。
そこで私は少し悩んだ。
その、妹さん達はどこに座るの?
現在、私達は長机の側に座っている。エリーゼがお誕生日席で、階級順にエリーゼの近くに座っているのだ。エリーゼの最も近くに向かい合って座っているのは、私と伯爵令嬢であるアグネスだ。でも、公爵令嬢である妹さん達が来るなら席を譲るべき?
こういう場合どうしたらいいのだ⁉︎
答えがわからない私は、逃げる事にした。
「私、手を洗って来ますね。」
と言って立ち上がったのだ。
これは「トイレに行って来まーす」という意味である。いくら気のおけない仲とはいえ、こういう時には婉曲表現を使うのが貴族間のルールだ。それでも、何故かなんかざわっとしたけど。
「お供します!」
「私も。」
と言ってユリアとコルネが立ち上がる。そしたら半瞬遅れて
「私も!」
とリーシアも立ち上がった。
「いや、アーベラがいるから別にいいよ。」
心の中で、なんでこんなに付き人がトイレ行くのにいるんだ。ここは大奥か!と言いたくなった。
まあ、しかし私がトイレに行っている間に問題は解決するはずだ。皆が一席ずつずれるのか?私とエリーゼの間に無理矢理席を設けるのか?その、どちらかだと思う。
私は護衛のアーベラと共に、ブランケンシュタイン家の侍女さんに案内されて御手洗いへと向かった。
侍女さんは、私をトイレまで案内したら戻って行った。
その後、ハンカチで手を拭きつつトイレから出て来ると廊下で待っていたアーベラに
「お嬢様、お腹でも痛いのですか?」
と心配された。
「別に痛くないけど。」
「でしたら、どうして後五分、いえ三分でもいいので我慢なさらなかったのですか?」
「生理現象を我慢して病気になったらどうすんの!トイレを我慢したせいで死んだ天文学者もいるんだよ。」
地球の天文学者だが。デンマーク人のブラーエという人だ。
「でも、あのタイミングで席を立たれると『エリザベート様の妹達に会いたくない』というメッセージだととられますよ。」
「え?・・そんな、まさか。」
「だから、エリザベート様よりもお嬢様に近い方々が慌てて一緒に席を立とうとしたのではありませんか。」
「・・・。」
やばい・・。エリーゼに正面から楯突いてしまったようなものではないか!死亡フラグが高々と上がってしまったっ!
「急いで戻ろう!」
私は廊下を小走りで駆けた。そのせいで廊下を右折した途端、人にぶつかりかけた。
「ごめんなさい・・って、エリーゼ様!何でここに⁉︎手洗いですか?」
何と、エリーゼが一人で廊下に突っ立っていたのである。
「私がいると、妹達も緊張して本音で話ができないでしょう。だから、少し席を離れる事にしたの。」
緊張して本音で話ができない、って、姉妹仲が悪いんですか?
でも、仲が悪いのだったら、友達に紹介しないよね。
「知らない人ばかりだと逆に緊張しませんか?大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。妹達が、場に応じた淑女の振る舞いができるかどうか、誰が妹達に気を使って会話をリードしてくれるか、意地の悪いセリフを言ってくるか、侍女に後から報告するよう命じてあるから。」
怖い、怖い、怖いー!
でも、それでこそエリーゼ様だ。
私は慌てて言った。
「あの!あんなタイミングで席を立ったのは本当にトイレにすごく行きたかっただけで、他に何の意味も含みもありませんから!」
「わかっているわ。席順をどうすればいいのか悩んでいたのでしょう。そのままで良かったのよ。妹達は公爵家の者とはいえ、貴女達は『デイム』です。貴女達の方が立場は上なのだから。」
そうだったのか。
しかし、わかっているわ。って何でわかるんだ?エリーゼ様の洞察力が半端ないのか、私が分かりやす過ぎる人間なのか・・・?
そういえば。
さっき気になった事があったのだった。今聞いてみようかという気になった。
「先刻の会話の中で『アカデミーに通いたいと心の底から願っていたのに、その願いを遂に叶えられなかった人もいる』って言っておられましたけど、どなたの事なんですか?」
エリーゼは一瞬遠い目をした。
「私の従姉のアレミリューラです。」
私は少し考えこんだ。エリザベート様は『国王陛下の唯一人の姪』と言われている。という事は母方の従姉ではないよね。
「宰相閣下の姪なのですか?」
「ええ、父の妹の娘です。」
「どうして、アカデミーに入学されなかったのですか?」
「アカデミーが共学になる前に死んでしまったの。」
「・・そうなんですか。お若かったのでしょう?何故亡くなったのか聞いても構いませんか?」
「ハーゼンクレファー公爵夫人レティーツァ様を殺して死刑になったのです。」
「・・・。」
「冗談よ。」
フリーズしてしまった私に、エリーゼ様は微笑みかけた。
「ハーゼンクレファー公爵夫人は生きてるでしょ。」
「・・そ・そうですね。」
声がかすれた。
エリーゼ様はこんなタチの悪い冗談を言う人なんかじゃない。
なのに何故、こんなすぐバレるウソを?
ハーゼンクレファー公爵夫人レティーツァ様という人は不思議な人だ。一周目にはいなかった人なのだ。
もしかして一周目では私が幼い頃に殺されていたとか?
だけど、二周目では殺されなかった。だから今も生きているのでは。
もしも、そうだったのだとしたら。
私は手が震えた。
エリーゼ様には、一周目の記憶があるという事だ。