作品タイトル不明
宰相室にて(4)(フランツ視点)
「どういう事ですか⁉︎私は、司法省の省員ではありませんよ。」
「省員の中に相応しい人材がいない場合、外部から有識者を招いて大臣に据えた例は幾らでもある。」
「相応しい人材がいないんですか?」
「陛下が納得する人材はいない。司法省内で力を持っているのは、ガルトゥーンダウムの息がかかった者ばかりだ。ガルトゥーンダウムに逆らった者やガルトゥーンダウムよりも優秀な者は皆、左遷されるかクビになった。優秀な者を遠ざける一方で、自分の一族の者や自分におもねる者には、入省試験で不正を行わせて入省させ要職につけている。司法省は組織として、もうまともに機能していない。陛下は君にトップに立ってもらって大ナタを振るって欲しいようだよ。」
「何で、私なんですか⁉︎」
「他に誰が出来ると言うんだね。爵位を持つ貴族で、国際弁護士の資格を持っていて、13議会のメンバーで、常識があって前科が無い。君以上に相応しい者などいないだろう。」
「私の祖母は『アレ』な人間ですよ。」
と私は言った。だが宰相閣下は
「それが何か?当人が『アレ』でなければ問題は無いよ。」
と答えた。
「既に司法省に対して、平民の間ではかなりの不満が噴出している。平民人気の高い君をトップを挿げ替えて不満を抑える必要もあるんだ。」
面倒くさい事になった。権力は所詮黄金の鎖だ。美しく見えても自由を奪う物で無駄に重く力を吸い取っていく。
それでも、誰かが繋がれなければならない。そうでなければ国家はまわらないというのも事実だ。
それに、これはもう陛下の中では決定事項のようだ。嫌だと言ったら、内臓出るほど話し合いをする羽目になるだけだろう。
『宰相室』は密室だ。頑なに拒否すれば、文字通りの意味で内臓出ささせられるかもしれない・・・。
「承知しました。」
と私は答えた。こうなった以上は仕方がない。引き受けるしかないのだから引き受けよう。その代わり、大ナタを振るわせる気でいるのなら振るえる環境をきっちり整えてもらわねば。こちらの要求もできる限り叶えてもらいたい。
この段階で、お茶が運ばれて来た。
お茶を運んで来た従僕が下がった後、私は
「ガルトゥーンダウムの後任の13議会員は誰になるのですか?」
と聞いてみた。陛下の事だ。ガルトゥーンダウムを辞めさせると決めた時点で、次をもう考えておられる事だろう。
「第一候補は、ヒルデブラント侯だよ。彼はこの数年、常に筆頭候補に挙げられる。いつも断られているが・・。」
なんと!
彼には『拒否権』があるのか⁉︎私には無かったのに。
「第二候補は、オーベルシュタット公だ。彼は、今回の伝染病禍で名を揚げたからね。そして、第三候補はアイヒベッカー侯だ。」
クッキーをつまんでいたリヒトの手が止まった。
「彼は、随分と若いでしょう。まだ20代半ばでは?」
「四捨五入すれば30だ。あの一族はこの三年間、王都の城壁の側で無料でパンや果物を配る活動を続けたんだよ。そのおかげで餓死せずに済んだという人が数えきれないくらいいる。陛下は、中心になって活動したカーテローゼ嬢にデイムの地位を授け、アイヒベッカー侯爵には領地を下げ渡されるおつもりだ。物乞いのように、王室や他の領地から食料をゆすり取った領主達より何倍も立派だよ。」
「三年間ずっとですか。意外に金持ってたんですね。」
感心したようにリヒトが言う。
「最初は苦しい中から身銭を切ったんだ。デイム・クリューガーが随分と支援したようだね。しかし、長く続けていけば賛同者が現れる。善行を長く続けて欲しいと寄付が集まる。アルト同盟の商人達がかなりの寄付をしたという話だし、小さな子供が硬貨を握りしめて『使ってください』と言って来たりもしたそうだ。エーレンフロイト侯も寄付したんだろう。」
「ええ、まあ。」
「本当に正しい事はそういうものさ。持つ者が始めるんじゃない。たとえ持たざる者でも始めれば、誰かが後に続き誰かが助けてくれる。
アイヒベッカー家は身を持ってその事実を証明したんだよ。」
「立派ですね。」
「君達も君達の子供達も立派さ。それに、僕の娘もね。ささ、遠慮なく褒め称えなさい。」
「・・・こんな打ち合わせをしているなどと、ディッセンドルフ公爵やガルトゥーンダウムは知らないのでしょうね。」
リヒトが遠い目をして言った。
「奴らは奴らで、きっと顔を突き合わせて打ち合わせをしているよ。もっと良いお茶や酒を飲みながら、もっともっと深刻な顔をしてね。」
そう言って宰相閣下はエリザベート姫とそっくりな表情で笑った。