作品タイトル不明
この赤ちゃん、誰の赤ちゃん(2)(アルベルティーナ視点)
『「素晴らしいです。裁判官殿。よく、どちらが母親なのか判別なさいましたね!」
興奮して領主は言いました。
「わかりませんよ。」
と裁判官は言いました。
「本当の事は誰にもわかりません。ただ、あの赤ん坊は青い目の娘の側で育った方が幸せだろうと思っただけです。」
裁判官はそう言って微笑みました。
「そうですね。」
と領主は言いました。赤ん坊を大切そうに抱いて、裁判所を去って行く青い目の娘の上に、ぽかぽかと明るい太陽が輝いていました。』以上です。」
その通りかもしれない。と私は思いました。
自己中心的な母親もいるし、自己犠牲的な他人もいます。私の周囲にもそういう母親がいます。ミレジーナを悲しい気持ちにさせないよう、最後をそういう文章にしたのだろうと思いました。
私がますます泣いていると、コンコンとノックの音がして旦那様が入って来られました。
「どうしたんだ、アルベル⁉︎」
「い、いえ。なんでもありませんわ。旦那様こそどうされましたの?」
「レベッカが新しく作る絵本の下書きがここにあるって聞いて、私にも読ませて欲しいなと思って。」
旦那様が心配して、なぜ泣いていたのか何度も聞いて来られますので、結局正直に話しました。
「そんな良い話なんだ。」
旦那様は嬉しそうに笑って『王様と馬』を読み始められました。
とても、短い文章です。旦那様は二分ほどで読みおわられました。
「うん。すごく面白い話だね。興味深かった。」
「え?」
「数学の問題を、わかりやすい言葉で説明している。こんな本を、子供の頃から読み聞かせてもらったら、数学好きの頭の良い子が育つだろうなあ。」
「・・わかりやすいですか?というか、どうしてこんな分け方になるかわかるのですか?」
「2分の1と4分の1と6分の1を通分して足したら、12分の11になるからね。」
「・・・。」
「それは、まあ、財産は年齢や性別に関係無く公平に3分の1づつ分けるべきだとは思うけど、それを言い出したら絵本にならないから・・。」
「・・そうですね。」
つまり。私には全くわからない事が旦那様にはわかるという事です。そしてレベッカにも!
アーレントミュラー公爵夫人がレベッカの事を「本物の天才だ」と言った時、この人は何を言っているのだろう?と思ったものですけれど、実はレベッカって本当に賢いのでしょうか?
「そちらも、見せてもらえるかい?」
と旦那様がゾフィーに言われました。あんな、訳のわからない短編で感心されるなら、もう一つの話を読まれたら涙が止まらなくなられるのではないでしょうか。
旦那様は、無言で読み進め、無言で読み終わりました。
「これはちょっと・・。いくら作り話とはいえ、あまりにも非現実的過ぎる。」
「そうですか?」
「本当にこんな事案があったら、出産に立ち会った助産師を探すよ。で、特徴的なアザやホクロがなかったか確認する。それと、子供の私物を探し出して指紋を確認する。あとは、血液型の調査だな。親の血液型がわかれば・・。」
「旦那様。絵本ですから。子供向けの作り話ですから、法科大学の試験ではないのですから。」
「だいたい、何でお父さん死んじゃっているんだ。子供が生まれたばっかりなのに!お父さん可哀想じゃないか⁉︎」
「作り話ですから。旦那様。父親のいない、ラヴィの子供を励ます為に書かれた物語ですから!」
「・・それはそうだけど、なんか納得できない。」
それは、私のセリフですよ!
正直、びっくりしました。私と旦那様の感想がここまで食い違うなんて。
私が、訳がわからないと思った話を旦那様は「面白い」と言い、私が泣くほど感動した話を、旦那様は「納得できない」と言っておられるのです。
夫婦である私達でさえ、そうならば、他人とは尚更感想が異なるでしょう。
私は『職業作家』という仕事は大変な仕事なのだな。と気がつきました。世界中の人達全員が面白いと思い、感動する。そんな話を書くのは至難の業です。いえ、事実上不可能でしょう。
旦那様が
「悲しい。」
と言っておられるのを見て、ずっと側に控えていたユーディットが
「申し訳ございません。旦那様。」
と、頭を下げました。
「お嬢様は最初、母親が死んで、二人の男が『自分が父親だ!』と言い張る話を書こうとされたのですが、わたくしがやめるよう強硬に申し上げたのです。」
・・・。
そんな話を書いていたら、焼き捨ててやります!
あの子は、本当にもうっ!
あの子が戻って来たら少しばかり説教をして、それから本を作る許可を出してやりましょう。と、そう思いました。