作品タイトル不明
王都の攻防戦(22)(フランツ視点)
翌日。クマ肉が欲しい人にはあげるから、家族に聞きに行きなさい。と言って、子供達を実家に帰らせた。リーシアとヘレーネ、ミレジーナ以外の全員が帰って行くのを見て、ミレジーナは少し寂しそうな顔をしていた。帰れる実家、優しい家族がいる友人達が羨ましいのだろう。そんなミレジーナにレベッカが
「エリーゼ様にクマ肉がいるかどうか聞いてきてくれない?後から知られると、めんどくさい事になりそうだから。」
と頼むと、ミレジーナは喜んでヘレーネと一緒に出かけて行った。
残ったリーシアとレベッカは二人で、孤児院に出かけて行った。子供達がクマ肉を食べたがるかどうかは不明だが、一応クマを駆除した事だけは報告しておこうという事になったからだ。
「食べたがると思いますけれど。」
とリーシアはレベッカに言った。
「見た事も食べた事も無い肉は、食べたくないって人は一定数いるよ。」
「孤児院の子供にとっては全ての肉が『見た事も食べた事も無い肉』ですよ。肉が日常的に食べられる人はごくごく一部ですし、野生のクマは勿論、野生のシカやイノシシも自分の目で見た事はないでしょうから。だからこそ、おいしかったらどんな肉だって食べますよ。」
リーシアの方が正しかったようで、子供達は喜んで食べると言ったらしい。
他の子供達の実家でも皆、ぜひクマ肉が欲しいとの事だった。クマが出ないエーレンフロイト領では知らなかったが、クマ肉は他の領地では普通に食されるジビエ肉らしい。
そうして、肉の一部は友人知人に配ったが、ほとんどの肉は我々で食べる事にした。シュテルンベルク騎士団に感謝を込めて私は、シュテルンベルク騎士団とエーレンフロイト騎士団の皆を晩餐会に招待した。私の家族達。アルベルにレベッカにヨーゼフ、引き取っている子供達に家庭教師達にオルヒデーエ夫人の家族が一緒である。後はリエ殿とメグ殿だ。
晩餐会の席順を見てアルベルが不思議そうな顔をした。
「レベッカの席が私達から遠いのね。」
席は上座から、私とアルベル、リエ殿メグ殿、オルヒデーエ夫人と家族、家庭教師の先生となって、子供達になり、更にその下座を騎士達にしている。子供達の中で一番上座に座るのはヨーゼフとエリアスで、一番下座なのはレベッカとリーシアだ。
「せっかくだから、食の細い子よりも、よく食べる子を騎士達の近くにおいた方が騎士達も喜ぶのではと思ってね。」
「確かに、この二人はなんの肉でもおいしそうに食べそうだものね。」
翌日の夜。晩餐会を開いた。
クマ肉の赤ワイン煮込み、クマ肉のローストに、熟成させたシカ肉のカツレツ、イノシシのバラ肉で作ったベーコンを使った料理だ。それに加えてレベッカの畑でとれた野菜や芋の料理である。
席順は正解だったと思う。胃腸の弱いコルネやヘレーネはあまり肉が食べられない。肉料理はつつく程度で野菜や芋の方を多く食べている。これでは騎士達も肩を落とすだろう。
それに比べてレベッカとリーシアは、満面の笑みで料理を見た後、拳骨が入りそうなくらい大きく口を開けて、大きな肉の塊を口の中に放り込んでいた。
「とってもおいしい。もっと硬くてスジっぽいのかと思っていたけれど、柔らかくてクセも無いし、すごくおいしい!」
レベッカのコメントにシュテルンベルク騎士団はデレデレだ。エーレンフロイト騎士団はちょっと悔しそうな顔をしている。
さて、リーシアの感想はどんなかな?と思ってリーシアを見て私はぎくっ!とした。
リーシアはフォークを口にくわえたまま泣いていたのだ。もしや、ケガでもしたのか⁉︎
「おいしい。クマさんおいしい。ベーコンさんもおいしい。私・・この家に来て、今までの人生で食べた以上のお肉を食べました。お肉って、どれもこんなにおいしいだなんて、知らなかった。とてもおいしい。すごく嬉しい。クマさんありがとう。騎士の皆様。本当にありがとうございます。ううぅっ!」
「リーシア様!淑女が物を食べながら泣くものではありません!」
家庭教師のモニカ夫人が、厳しい声で叱りつけた。しかし、リーシアの涙は止まらない。
「夫人。今日は正式な晩餐会ではなく騎士達に感謝しての忌憚なき会だ。今日は、あまり厳しくマナーを言わないであげてほしい。」
と私は言った。アルベルは控えていたエイラにハンカチを渡し、リーシアに渡すよう指示していた。
そんなリーシアを見て、シュテルンベルク騎士団は感動のあまりもらい泣きしていた。
それはそうだろう。騎士達は、大きな宝石を女性にプレゼントする事はできない。流麗な詩を贈る事もできない。彼らが貴婦人や令嬢に贈れるものといえば、狩ってきた動物の肉や毛皮くらいだ。
その肉を、若く美しく幸薄い少女が泣くほど喜んでくれているのだ。これほど、騎士にとって嬉しい事はないだろう。イノシシを仕留めた私もあやうく泣いてしまうところだった。
「我ら、騎士団一同、姫君方の為に森の獲物をたくさん捕らえてお捧げ致します。」
とシュテルンベルク騎士団の支団長が言った。騎士団員達もこくこくとうなずいていた。
「あの、別邸の側の森からウサギ一匹いなくなるわよ。」
メグ殿が隣の席のアルベルにそう囁いていた。
「さあさあ、ロースト肉で泣いてしまうようでしたら、これを食べたらもっと涙が止まらなくなりますよ。」
と言って料理長のセナが大皿を持って来た。のせられていたのは、クマの手だ。たくさんの人に食べてもらえるよう。指一本一本が切り離されているので、あまり『獣の手』という感じはない。
「うわー、おいしそうだね。お父様。」
と、ヨーゼフが笑顔で言う。私は
「私は良いから、子供達で食べなさい。」
と言った。
実は私は、豚足やアヒルの水掻きが食べられない人間なのだ。見た目もだがあの独特の食感が苦手なのである。そして、アルベルに確認したところ、クマの手もトゥルン、ぷにぷにとした食感をしているらしい。苦手な食材を無理して食べるより、食べたい人が食べた方が良い。
クマの手を食べたリーシアが、「キャー!」と歓声をあげ、モニカ夫人にまた叱られていた。
そうして、楽しい晩餐会の夜は更けて行った。