軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都の攻防戦(21)(フランツ視点)

日も完全に沈み、星が瞬く頃、私とヨーゼフはエーレンフロイト邸に戻って来た。

私達の姿を見るなり、レベッカが玄関から飛び出して来た。

「ヨーゼフ。遅いから心配したよ!」

ヨーゼフの肩をつかんで揺らす、レベッカの手が震えていた。

「心配かけてごめんね。みんなに行軍食の説明をしていた時に、外にクマが現れてさ。屋敷の外に出られなくなっちゃった。」

「無事だったらいいの。誰もケガとかしてない?」

「大丈夫だよ。ふふふ。姉様、これ見て。」

ヨーゼフは、私が持っていた大袋を指差した。

レベッカの後から出て来たエリアスとアグネスは、後ずさりしている。大袋に血が滲んでいるからだろう。

「もしかして・・・。」

と言いつつレベッカは、袋を覗き込んだ。

「おお!リーシア、見て見て。あ、他の人は、勇気がある人だけ見て。」

リーシアが出て来て袋を覗き込んだ。

「まあ!」

と言ってリーシアの目が輝く。

「これ、『クマの手』ですか⁉︎クマ、仕留めたんですか?」

「そうだよ。」

と私が言うと、レベッカとリーシアは手を取り合って飛び跳ねた。

「貴女達、中に入りなさい。もう、夜遅いのですよ。お帰りなさいませ、旦那様。」

アルベルが中から出て来て言った。

「はーい。」

と言いつつ、レベッカが袋を持ち上げようとする。

「重っ!」

「はは、そりゃそうさ。300キロ以上あるクマだったんだ。たとえ脚だけでも、四つあれば数十キロだよ。」

「お父様は軽々持ってたのに。」

「そりゃあ一応、普段から鍛えているからね。」

私はレベッカの手から袋を受け取り、袋を持ち上げ屋敷の中に入った。

中に入ると、リエ殿とメグ殿もエントランスに出て来た。外で話していた声が聞こえたのだろう。二人共満面の笑みだ。

「お帰りなさい。」

「お疲れー。」

「残念ながら疲れてないよ。全て、シュテルンベルク騎士団がやってくれて私は見ていただけだから。」

「彼らはお役に立てたかしら?」

おどけた口調でリエ殿が言う。

「それはもう。彼らがいてくれなければどうなっていたか。」

「すごかったんだよ!あのね。まず最初にね!」

ヨーゼフが身振り手振りで説明を始めた。

支団長がクマにトドメを刺した時、私が一番に感じた感情は

「ああ、良かった。」

だった。無事にクマを駆除できた。人間の方に被害はない。心からほっとした。ほっとし過ぎて、腰が抜けそうだった。

エーレンフロイト騎士団の人間達も、一部の気の荒い者以外は同じ心境だった事だろう。

シュテルンベルク騎士団は凄いな。まあ、慣れているって言ってたし。

と思ったが、彼らはクマが完全に動かなくなった後数秒黙り込み、一斉に

「うおおおおーっ!」

と凱歌を揚げた。

ご近所から「迷惑」と、苦情が来そうな程の大声だった。

それを聞いて、本当は彼らも緊張していたんだ。クマを狩るのは彼らにとっても特別な事なんだ。と気がついた。

実際、コンラートと同じくらいの年頃の騎士が私に

「実は自分は、クマ狩りは初めてで、緊張していました。」

と声を震わせて言った。

彼らも私達と同じ普通の人間で、エーレンフロイト家の為、レベッカの為、勇気を奮い起こしてくれたのだと思うと胸が熱くなった。

「他の騎士団員のみんなは?」

とレベッカが尋ねてきた。

「クマを解体中だよ。一部の肉は茹でてから持って来てくれるそうだ。その方がかさが減るから。」

「歩留まりが三分の一だとしても、百キロ以上だもんね。そんな量の生肉を運んでいるのを見られたら、通行人に『キャー』って言われそう。」

「巡回騎士に職務質問されそうではあるな。」

と言って私達は笑いあった。

「でも、仕留められて良かった。けど、一頭だけで他にいないのかな?それが心配。」

レベッカが不安そうに言う。

「私が畑を作ったから、シカが寄って来て、シカが寄って来たからクマが寄って来たんだよね。私が畑を作らなければ。」

「レベッカが畑を作ってくれたから、私達も孤児院の子供達もおいしい野菜やお肉が食べられるのさ。レベッカが差し入れしてくれた食事ものすごくおいしかったよ。感動して泣いてる騎士もいたからね。」

「本で読んでおいしそうだなって思っていた料理なんだ。」

「また作ってくれるかい?当分の間、エーレンフロイト騎士団とシュテルンベルク騎士団と合同で森の徹底調査をするつもりだ。他にクマがいないか確認の為にね。ご飯がおいしいと、モチベーションが違うからね。」

「わかった!任せといて。と言っても、野菜を刻んでくれたのはコルネとミレイだし、カモを捌いてくれたのはアーベラだし、油で揚げてくれたのはカレナなんだけど。私はご飯炊いて丸めただけ。だから、またみんなと頑張るね。」

「ありがとう。」

「こちらこそ本当にありがとうございました。お父様。」

レベッカが嬉しそうに笑う。この笑顔を守る為なら、何とだって戦ってみせる。そう思った。