軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい家族達(29)(アルベルティーナ視点)

それは、ある日突然起こりました。

司法省の省員が、邸宅に押しかけて来たのです。

予告もアポイントメントも無しにです。

それは犯罪者に対する行いです。

実際、司法省の省員達は犯罪の告発状を持って来たのです。

罪状は、旦那様の『ハインリヒ・フォン・ガルトゥーンダウムに対する殺人未遂罪』でした。

13議会の使者としてエーレンフロイト領に使わされたガルトゥーンダウム卿を、旦那様とジークレヒトが殺そうとしたという訴えが司法省になされたのです。

「会う必要なんかありません!」

とゾフィーは怒り狂いました。

「奥様は、今大事なお体なんですよ!」

怒ってくれるのはありがたいですが、会わないわけにはいきません。各省は、国王陛下直轄の組織ですので、彼らは王室の使者と同じ存在なのです。彼らは、司法大臣の認印のついた告発状を持っていますので、事実上国王陛下が遣わされたのと同義なのです。

抵抗すれば反逆罪に問われかねません。国民に対する逮捕権を持つ彼らの前では、平民も侯爵家も同じ存在です。

しかも罪状は『殺人未遂罪』です。連座制が適用される犯罪なので、抵抗すれば私だけでなくレベッカやヨーゼフも逮捕の対象になります。

私は、応接室へ向かいました。

私も貴族家当主の妻として、陰謀に対する心構えは出来ています。今はとにかく冷静になるべきです。

旦那様が『殺人未遂』などするわけがありません。

旦那様は一流の騎士です。『殺す』と決意されたなら、とっくにハインリヒは死んでいるはずです。未遂で済むわけがありません。

このような騒ぎになるような事件が現実に起きたなら、私に連絡をくださらないわけもありません。

逃げるなり隠れるなりするよう、必ず連絡をくださるでしょう。おそらくこの訴えは旦那様にとっても、青天の霹靂なのです。

ただ、エーレンフロイト家は『紅蓮の魔女』に連なる血族です。突然逮捕される可能性がゼロではない家門であるだけに、旦那様は私に急に逮捕されそうになった時どのようにすれば良いかを常に教えてくださっていました。旦那様は、その為に法科大学に通い国際法を学ばれたのです。

まずは、何と言っても弁護士に相談です。このような事態の時に助けになってくださる、人権派弁護士の知り合いが旦那様にはたくさんいます。私は、従僕達をその人達の元へ急いで使いにやりました。

更にリエとメグに頼み、シュテファリーアラントとアズールブラウラントの大使館にも連絡を頼みました。いざという時大使館に逃げ込みそのまま亡命する為です。その為に普段から両大使館の全権特命大使とは、親交を結んでいます。

ただ、持って来たのが『逮捕状』ではなく『告発状』であるという事は、即刻逮捕するつもりは無いという事でしょう。

私を怯えさせて、何らかの物、例えばお金などを差し出させるのが目的ではないでしょうか?逮捕されたくなかったら、慰謝料と和解金を払え!というわけです。

何を要求してくるつもりなのかは、会ってみなくてはわかりません。

私は執事と十数人の騎士達を率いて、応接室へ向かいました。

押しかけて来た代表の男は、司法省の事務次官でした。大臣に継ぐNo.2の職責の人間です。書記官を二人同行させ、更に七人ほど部下を引き連れていました。総勢九人です。

事務次官の男は、尊大に告発状を掲げ

「侯爵は王都に戻り次第、司法省に出頭するように!逃げ隠れするような真似をすれば反逆とみなされる!」

と、ダミ声で宣言しました。

やはり、まだ逮捕命令は出ていないようです。

「もっと、ゆっくり喋りなさい。あなたの発言はこちらの方でも一言一句書きとめます。」

と私は言い、執事の方を振り返りました。筆記具を手に持った執事がうなずきます。

「礼を失した態度は、家門にとって不利になりますぞ、侯爵夫人。」

と事務次官が、口ひげをピクピクさせながら言いました。

「礼を失した事になるか否かは、其方の発言次第です。其方は、司法大臣の指示で来たのね?其方の独断ではなく?」

「当然だ!私は司法省の指示で動いている。」

言質はとりました。後から、しらばっくれるような真似はさせません。

「人の家に押しかけて来るような真似をするのなら、後ろにいる者達も名を名乗りなさい。」

と私は言いました。何人かの人間に動揺が走りました。この集団は、必ずしも一枚岩ではないようです。後々、責任をとりたくない者もいるのでしょう。でも、結局全員名を名乗りました。

一人聞き覚えのある名前の者がいました。

ペーター・フォン・ローマイアー。

オルヒデーエ夫人の長女、ラヴェンデルの夫の名です。

こいつが『真実の愛男』か⁉︎と思うと、脳がピキ!っとなりました。

不安や恐れを感じているなど、絶対に司法省員達に気づかれたくない!と思っていましたが、その思いがますます強くなりました。

この男の前で弱気な姿など、絶対に見せたくありません!

「侯爵夫人。ご自分の態度をわきまえられたらどうだ。あなたの夫は、罪を犯したのだ!」

と事務次官が大声を出します。私の背後の騎士達が殺気立ちました。

「私は夫を全面的に信じているわ。なぜ、わきまえる必要があるの?くだらぬ中傷を気にかける事ほど、時間の無駄な事はないわ。」

「くだらぬ中傷だと!司法省を愚弄する気か⁉︎」

「愚弄しているのは、司法省ではなくってよ。」

「夫人。そのような態度は後々、後悔する事になりますぞ。」

「そのような態度?どの態度の事かしら?」

「自分だけが正しい。と勘違いした態度です。そのような態度は見苦しく人を不快にさせるだけですからな!」

「その通りね。」

と私は言ってやりました。

「本当に。自分だけが正しいと勘違いしている役人の態度は見苦しく人を不快にさせるわ。」

事務次官の額に青スジが浮かびました。

でも、別にどうでも良いです。段々わかって来ました。コイツ、嫌味を言いに来ただけなのだわ。

大人数で押しかけて恫喝し、こちらを怯えさせて、失言や対価を引き出すのが目的なだけ。本当に逮捕や家宅捜索をする気はないのです。

私や旦那様が、恐怖からパニックを起こし、逃げ隠れしたり、ハインリヒにとにかく謝罪するのを期待しているのです。

だから、こちらを怯えさせるような事を言っているのです。

実際20年前の、気弱な少女だった私なら、怯えて彼らの言いなりになっていたでしょう。司法省はそれだけの権力を持っている組織ですから。

その時、ドアをノックする音が聞こえて来ました。

「奥様。お茶をお持ちしました。」

オルヒデーエ夫人の声です。

声と同時に夫人が応接室に入って来ました。

入って来た夫人の顔を見て、ペーター・フォン・ローマイアーの表情が凍りつきました。夫人の方は、わかっていたのか涼しい顔をしています。

露骨にそわそわしだした、ローマイアーを見て、ああこの男はあったかい血の流れていない人非人なのではなく、小心で卑劣な小物なのだと思いました。私は先生の事を『オルヒデーエ夫人』と呼んでいましたが、この時は

「まあ、先生ありがとうございます。」

と『先生』という風に呼びました。ローマイアーがますます挙動不審になり、司法省員達も怪しい物を見る目でローマイアーを見ています。

オルヒデーエ夫人が、にっこりと微笑んで私の前にカップを置き中にお茶を注ぎます。カップは一つだけです。

急に押しかけて来て、無礼な発言を繰り返す者に出してやるお茶は一滴たりともありません。

それに、出してあげなどしたら

「うぅっ!毒を盛られた。」

と自作自演で騒ぎかねません。

コイツら、いつ帰るのだろう?と私は思いました。

告発状を持って来て嫌味を言う、という目的はもう終了しています。震え上がった私が「何でも致しますから、お許しください」と言うまで、省内に帰って来るな。とでも指示されているのでしょうか?

そろそろレベッカとヨーゼフが畑から帰って来る時間なので、帰って欲しいと思いつつ私はおいしそうにハーブティーを飲みました。一緒に出てきたレモンの果皮入りのシフォンケーキも本当においしいです。

「戻り次第、司法省に出頭されるよう侯爵に伝えるように。やましい事が無いのなら逃げ隠れなど決してされない事ですな。」

そう言って、事務次官はやっと部屋を出て行きました。九人の腰巾着もぞろぞろと後に続きます。ドアが閉まると

「アルベル様。お具合は大丈夫ですか?」

とオルヒデーエ夫人が、すぐに聞いてくださりました。

「私は平気よ。」

むしろ、ラヴェンデルが心配です。動揺していないでしょうか?動揺し過ぎてお腹の子供に何かあったりしたら・・・。

「全く、なんて無礼な連中でしょう!『ギャアア』と叫ぶような目に遭わせてやりたかったですわ!」

ビルギットが、怒りに震えながら言います。

次の瞬間。

「ギャアアアアアッ!」

という悲鳴がエントランスの方から聞こえてきました。