作品タイトル不明
新しい家族達(12)(アルベルティーナ視点)
「マレーネ、やめなさい。あなたの綺麗な爪に傷がついてしまうわ。」
とベロニカ夫人が言いました。手に乗馬用の鞭を持っていました。
「腕を出しなさい、リーシア。身の程知らずにもマレーネを馬鹿にした罰よ。」
「・・・。」
「さっさと出しなさい!出さなければ、エイラを代わりに打つわよ。」
そう言われるとリーシア嬢は、おとなしく手を出しました。
「やめてください、奥様!」
とエイラは叫びました。
「黙っていなさい。おまえも打たれたいの?」
バシーン!バシーン!と恐ろしい音が響きました。
ものすごく痛いに決まっていますが、リーシア嬢は歯を食いしばって耐えています。
「悲鳴くらいあげたらどうなの?可愛げのない子。」
「ベロニカ、君が優し過ぎて手加減してやっているからだろう。もっと力を入れて打ちなさい。」
と父親が言いました。
がたがたと震えながら、エイラにはただ見ている事しかできませんでした。
それから、ベロニカ夫人はリーシア嬢を屋根裏部屋に閉じ込めるようにと侍女達に命令しました。
「水も食べ物も与えてはダメよ。」
次の日になっても、夫人はリーシア嬢を閉じ込めたままでした。既に夏が来ていて気温はかなり蒸し暑いのです。食べ物はまだしも、水が与えられなければリーシア嬢は死んでしまうでしょう。
誰かに助けを求めるしかない。とエイラは思いました。そして、その相手は一人しか思いつきません。
エーレンフロイト家のレベッカ様!
家族から虐待を受けていたコルネリア様を、レベッカ様は命をかけて救い出されました。だったらきっと、リーシア様の事だって助けてくださるはず。平民の自分が、王城特区内に入れてもらえるかわからないけれど、でも行くしかない。そう思ってエイラはデューリンガー邸をこっそり抜け出しました。
そして門を出てすぐ、ばったりとカレナに出会ったのです。
話を聞いたカレナは、エイラと一緒にデューリンガー邸に行きました。そして手紙を差し出し
「必ずお返事をもらって来るよう言われております。返事が頂けねば、エーレンフロイト家に帰る事ができません。」
とカレナは執事に言いました。
「うるさい小娘ね。」
とそれを聞いたベロニカ夫人は、忌々しげな口調で言いました。
「エイラ。おまえが適当な返事を書いて、あの小娘に渡しなさい。」
「リーシア様とレベッカ様は、度々お手紙を交換しておられましたので、筆跡が違ったらすぐバレてしまいます。それよりも、リーシア様がご自分の手で『病気が発生した領地の方からの手紙なんて気持ち悪い。もう二度と手紙を送ってこないで』と書いて渡した方が、面倒がなくて良いと思います。」
とエイラは答えました。
「それもそうね。」
と言って、ベロニカ夫人は屋根裏部屋の鍵を、エイラに投げて来ました。
エイラは屋根裏部屋に走り鍵を開けました。
「リーシア様!」
リーシア嬢は壁にすがってぐったりとしていました。
「今、カレナさんが来ています。逃げましょう。エーレンフロイト家へ!」
リーシア嬢は弱々しく首を横に振りました。
「・・ベッキー様に、迷惑と思われたら。」
「思われるわけないじゃないですか!外国に売られた孤児達や、コルネリア様の為に貴族達と戦われた方ですよ!」
「でも・・それにあなたの家族にも迷惑が。」
「ああ、もういいから!行きましょう。後の事は、行ってから考えたらいいんです!」
エイラはリーシア嬢の手を引っ張りました。
ベロニカ夫人やマレーネ嬢に見つかったら大変な事になります。エイラは使用人用の通路を通って屋敷の外に出ました。
そして、カレナと三人で逃げ出したのです。
空腹でヨロヨロしているリーシア嬢の手を引いて、エイラとカレナは王城特区の特区門までやって来ました。
特区門の控室では、倒れ伏したへレーネ嬢の看護を門番の騎士達がしていました。
門番達は近衞騎士であり、へレーネ嬢は近衞騎士団の副団長の娘です。貴重な砂糖も使って経口補水液を作り、少しずつ飲ませてあげていました。
リーシア嬢がもう歩けそうになかったので、カレナ達も門の中で迎えの馬車を待つ事にしました。騎士達は経口補水液をリーシア嬢にも飲ませてくれました。
「・・・門番達には御礼をしなくてはね。」
と私は言いました。
それにしても・・・。
聞いているだけで、胸が苦しくなりました。いくら、為さぬ仲の娘とはいえ、『貴婦人』と呼ばれている人達がこんな残酷な真似をするなんて。この国はいったいどうなっているの?と、思わずにいられません。
「奥様。どうか、リーシア様とエイラさんを助けて差し上げてください!」
「勿論よ。心配しないでちょうだい。カレナ。」
と私は言いました。
というか、もしも「嫌。」とか言ったりしたら。はらわたが煮えくりかえっているだろうレベッカが何をしでかすか、わかったものではありません。
「エイラさんとやらの、家族が働いている商会ってどこかわかる?」
とリエがカレナに聞きました。
「いえ、わかりません。聞いておりませんので。」
「聞いておいてちょうだい。私が手をうっておくわ。」
「ありがとうございます!」
「時間をとらせて悪かったわね。昼食を食べて来てちょうだい。」
と言って私はカレナを下がらせました。
「二人揃って、親がろくでなしだったわね。となると三人目も気にならない?」
とメグが言いました。そういえば、まだドロテーアが戻って来ていません。手紙を届けに行っただけなのに遅過ぎです。何か、トラブルに巻き込まれてしまったのでは?と心配になりました。
なぜなら、私は正直言って三人の中で一番、ヴァネッサ夫人が性根が悪いと思っていたからです。
「ビルギット。後十分経ってもドリーが戻って来なかったら、迎えに行ってあげてくれない?」
「承知致しました。」
とビルギットは言ってくれましたが、五分後にドロテーアは無事に戻って来ました。
「どうでした?ミレジーナ嬢は変わりありませんでしたか?」
と私はドロテーアに質問しました。ドロテーアは、恐縮して答えました。
「申し訳ありません。令嬢にお会いしたい、と随分ねばったのですが、お会いする事は出来ませんでした。」
「夫人が合わせてくれなかったの?」
「いえ・・一応、ミレジーナ様が誰にも会いたくないとおっしゃったそうなのですが。」
「そう。」
「でも、おかしいです!ミレジーナ様はレベッカ様の事が大好きなんです。なのに、手紙を無視するなんて絶対おかしいです。何かあったのかもしれません。そうだとしか思えません!」
私もそう思います。レベッカやドロテーアの勘を信じているのではなく、ヴァネッサ夫人の性格の悪さをよく知っているからです。
メグも
「私は、ヒンガリーラントの社交界の事はよく知らないけれど、そんな私でもあの母親の悪評は耳にしているからね。」
と言いましたし、普段シュテファリーアラントで暮らしているリエは
「キューネ家の長男って、シュテファリーアラントの音楽学校に留学してるんだけど、評判悪いのよ。同国人として恥ずかしくなるくらい。」
と言いました。
とにかく、問題の多い家なのは間違いなさそうです。二人続けて、ひどすぎる話を聞いたので「生きているのかしら?」と不安になってくるくらいです。
「申し訳ありません。お役に立つ事もできず・・。」
ドロテーアは謝りますが、平民であるドロテーアではどうにもできなかったでしょう。一筋縄ではいかない相手ですから!
「気にしなくて良いわ。」
「ですが、ミレジーナ様の事が心配で。・・絶望し過ぎてしまうと、誰にも会いたくなくなってしまうのです。何かあったのではと不安で。」
「そうね。」
私にも経験のある感情です。昔、ブランケンシュタイン夫妻の婚約披露パーティーに招待された時、義姉にひどいドレスを用意され、私は泣いて部屋に閉じこもってしまいました。
「ブランケンシュタイン夫人に相談してみましょう。キューネ家はブランケンシュタイン家の分家なのですから。」
と私は言いました。
「ありがとうございます。奥様。」
そう言って、ドロテーアは部屋を出て行きました。
「姉様達は、今日は畑に行かないだろうから僕が行って来るよ。行かないと孤児院の子供達が心配するだろうから。」
と言ってヨーゼフが立ち上がりました。
「まあ、ありがとう。ヨーゼフ。お願いするわね。」
「じゃあ行って来る。ルオも一緒に行かないかい?」
「行くー。」
大人達がピリピリしているのがわかるからでしょう。ルオは喜んでついて行きました。