作品タイトル不明
新しい家族達(6)(アルベルティーナ視点)
「嘘おっ!」
と思わず叫びそうになりました。
しかし、ゾフィーが私に嘘をつくわけがありません。
いったい、たった10分ほどでどうやって説得したのでしょうか⁉︎
「どう言って説得したの?」
「家庭教師の方々の説明をして、下級貴族の現実をお伝えしました。」
「?」
「領地を持たない下級貴族というものは、平民と大差のない生活をおくっているのです。人によっては、平民よりつましい生活をおくっております。そして、今回家庭教師に推薦されている方々は非常に困窮した生活を強いられているだろう事をお伝えしました。」
「そうなの?」
「ネーフェ夫人のご夫君は大学勤務の教師です。そして今、大学は閉鎖しています。ご夫君は休職中か、あるいは仕事をクビになっていると推察します。」
「そうか・・。そうね。」
「リールクロイツ夫人のご夫君は、演劇ホールの演出家です。しかし、国王陛下が大規模集会を禁止されたので、今は全ての演目が上演中止になっています。ご夫君は今仕事が全く無くなっている状態のはずです。」
「そうね。」
「そのようにして、社会全体が困窮状態に陥ると、人は贅沢品を買わなくなります。そしてジュエリーという物は、贅沢品の筆頭です。ミレッカー令嬢は、仕事を失っていると予想されます。資産家の親でもいてくれれば良いですが、ミレッカー令嬢は両親も祖母も亡くしておられます。」
「・・・。」
「ネーフェ夫人にも父親はおられません。リールクロイツ夫人も、この夫婦関係で離婚もせずに我慢しているという事は、ご両親が既にいないか、頼る事ができないかのどちらかでしょう。とにかく御三方共、生活にかなり困窮しておられる事が予想されます。そうなったら、先祖から相続した家宝や家を売るしかありません。それすらも無くなってしまえば売る物は・・。」
ゾフィーは一瞬言葉を詰まらせました。
「自分自身か子供です。」
「・・・。」
「お嬢様には率直にその事実をお伝えしました。恐らくどの女性方も、収入の手立ては模索しておられると思いますが、今は王都全体で仕事が無い状態です。芳花妃様もご友人方の窮状には心を痛めておられるでしょうが、今王宮は新規の使用人の採用を控えていますので、芳花宮で雇うというわけにも参りません。裕福な上級貴族の家に家庭教師として雇って欲しい、とお願いするしか出来る事が無いのだと思います。勿論、この状況は一時的な物であり、社会が安定すれば状況は元に戻ります。そうすれば売った家や家宝は買い戻せるでしょう。しかし、娼館に売られた子供の人生だけは絶対に買い戻せないのです。
とお嬢様に申し上げました。
そしてお嬢様は、『子供達の為です!』とさえ言いさえすれば、おにぎりの中の鮭のように丸め込める方なのです。」
見事です。
母親の私よりも、レベッカの事をよく理解しています。
というか、全く同じ資料を見たのに私は全然女性達の、そしてステファニー様のお気持ちがわかっていませんでした。
なぜ今なの?と思いましたが、『今』だからだったのです。自分の思慮の無さが情けなくなりました。
「凄いわ。ゾフィー。」
「私も、貧しい下級貴族の生まれですから。」
と言ってゾフィーは微笑みました。
「ただ、家庭教師を受け入れるのに一つ条件がある。とお嬢様は言われました。」
「何かしら?難しい事?」
「・・そうですね。難しいかもしれません。」
「まさか、食用蛙を飼いたいというのではないでしょうね。」
「違います。御家族から虐待を受けている可能性がある友人を、屋敷に引き取りたいとの事です。」
「虐待?」
「はい。『芳花妃殿下の命令で、三人も礼儀作法の家庭教師を雇う事になった。得意でもない事を三人から延々と言われるなんてやってられない。生徒の数が増えると私へ向けられる視線と時間が減るので、どうか一緒に勉強してくれないか?こんな世の中で屋敷を出たり入ったりするのは世間の目が厳しいので、出来れば我が家に泊まり込んで欲しい』と、連絡すればカドが立たないのではないかと。その方達の生活費はお嬢様が全額負担すると言っておられます。」
「『その方達』って、何人に声をかけるつもりなの?」
「三人です。ただ、子供を虐待する親というのは、一筋縄ではいかない方達ばかりです。虐待している事を外部には知られたくないとも思っているはずです。ゆえに、こちらで迎え入れたら大きな騒動になる可能性もございます。それこそ、ハイドフェルト家と揉めた時くらい揉める可能性もございます。」
あの時は大変でした。司法省や王家を巻き込んでの大規模な裁判に発展しました。
レベッカは、何度も事情聴取されましたし、司法大臣のガルトゥーンダウム伯爵は我が家を敵視していますのでレベッカやコルネが理不尽な目に遭わされるのではと、不安に思ったものです。あの騒ぎがまた繰り返される事になったらと思うと恐ろしくなります。
しかも、今はあの時と違って法律の専門家である旦那様がいらっしゃいません。そしてガルトゥーンダウム伯爵が我が家に向ける敵意はあの時以上です。
だけどもしも、レベッカの友達があの時期のコルネのような虐待を受けていたら?到底見過ごす事は出来ません。虐待は命に関わる問題だからです。私は
「その三人って誰?」
とゾフィーに尋ねました。
「お一人目は、へレーネ・フォン・アードラー令嬢です。」
納得しました。
かの令嬢は、確かに虐待を受けている可能性が高いでしょう。私もそう思います。