作品タイトル不明
罪と罰(3)
「えっ⁉︎それなのに王室や司法省は知らなかったの?何で誰も報告しなかったの!」
「平民には侯爵家を訴えるなんてできません。司法省の役人もほとんどは平民の方ですし、侯爵家には遠慮があったのではないでしょうか。それに、こういう『貴族家の噂話』というのは、数え切れないくらいあるそうです。どこどこの男爵家は密輸をやっている。どこどこの子爵家は隠し銀山を所有している。どこどこの伯爵家は、第一種輸入禁止草木に指定されているマジックマッシュルームを庭で栽培している。どこどこの侯爵は、死体しか愛せない人で若い女性と結婚しては殺して剥製にし、地下室に飾っている。どこどこの公爵領には宇宙船がしょっちゅうやって来て、家臣の半分は宇宙人に体を乗っ取られた人達だ。みたいな。」
「へええ。」
「本気で言っているわけではなくて、おもしろがって噂しているだけなんですけれど。で、アイヒベッカー領は旅人を拉致しては雨乞いの儀式の生贄にしているって噂があって。ただ内容が残酷なうえ非科学的過ぎるので、みんな噂しているだけで全然信じてはいなかったそうです。」
その噂が本当だったと知って、平民の皆さんは震えあがったそうだ。
そういえばマルテが言っていたなあ。
「田舎には変な因習や謎ルールがある。フミコみたいな若い子には聞かせられない、怖い話がいっぱいある。」って。(『マルティナとデリクとレント・2』での話です)
そういう噂の事だったんだなあ。
というか、今聞き逃せない噂が一個あったぞ。どこどこの伯爵家は、第一種輸入禁止草木に指定されているマジックマッシュルームを庭で栽培している。って。
『マジックマッシュルーム』を『夾竹桃』に変えたら、まんまシュテルンベルク家の話じゃん。怖い。平民の皆さんの情報力。
「まあ、どこの貴族家もいろいろ噂されるのは仕方ないね。うちだって、何を言われているやら。実際いろいろあったからな。」
とジークが言う。お兄さんの従僕だった、ギルベルトさんの事を思い返しているのかもしれない。
「そうねー。」
と相槌を打ってみたけれど。はた、と思った。
「もしかしてうちも何か噂されてる?」
ドロテーアにそう聞くと、ドロテーアは目を逸らした。嘘の苦手な人だよなぁ。
「何て言われてるの?もしかして、死体の剥製が地下室にゴロゴロある侯爵家ってうちの事?」
「違います!あの・・エーレンフロイト家は、領主の館の離れが孤児院になっているのですよね。領主の館の敷地内に孤児院があるのは、孤児達の数が減っても気づかれないようにで、騎士団が子供達に獣の仮面を被らせて森に放って、人間狩りをしているって・・・。」
「それを本当にやっていたら、騎士団員全員まとめて生きたまま森に埋めてやるからっ!」
私の怒鳴り声でガラス窓が震えた。
一緒にお茶を飲んでいたユリアとコルネが「ひっ!」と言って、首をすくめる。
私はガチャンッ!とカップをソーサーに戻した。
「なんか不安になって来た。本当にやっていたらどうしよう⁉︎お父様と今から話をしてくる!」
「落ち着いてください、お嬢様。」
と背後に控えていたアーベラに言われた。
「その噂は自分が子供の頃からありました。実際、抜き打ちで司法省が調査に来た事もあります。でも、孤児院の子供達はちゃんと戸籍があって、行方不明や不審死があったらすぐわかりますし、領主の館の外にある学校にも通っているんです。人間狩りなんて絶対にありません。侯爵様や騎士団長はそんな事を許す方ではありませんし、司法省はきちんと仕事をしています。」
エーレンフロイト領の孤児院育ちのアーベラがそう言った。
なら大丈夫なのかな。私は気を落ち着ける為に、カップを手に取ってぐびっとお茶を飲んだ。
「そうですわ、レベッカ様。庶民は適当な事を言っておもしろがっているだけですから。そういえば、エーレンフロイト領は蜂蜜の密造をしているなんて噂もありましたよ。本当にそんなデマばっかり噂して困ったものですわねえ。」
ドロテーアのセリフにお茶を吹き出しそうになった。
蜂蜜の密造はやってない。でも『水蜜』はこっそり作ってる。
まさか、それが噂になってるの!
「どうした?ベッキー、さっきと全然テンションが違うじゃないか?」
ジークが鋭い事を聞いてくる。
「・・・え?だって、人命が関係している噂じゃないし。」
「蜂蜜の密造は死刑の重罪だぞ。」
「まさか、お姉様。甘い物が好きなのは知っていたけれど・・。」
ヨーゼフが怪しいモノを見る目で私を見てくる。いかん!何か別な物に話題を変えねば。
「宇宙船が飛来して来る公爵家ってどこなんだろう?ロマンだなあ。」
「ホラーだろ。アイヒベッカー家の一件があったからこれから司法省の取り締まりが厳しくなるぞ。人間狩りや蜂蜜の密造をもし本当にやっていたら、もうやめておけよ。」
ジークが言った通り、それから一ヶ月後、某男爵家が金の密輸をしていた事がバレて取り潰しになった。