作品タイトル不明
光輝会(6)(ルートヴィッヒ視点)
・・・。
しーん、とした空気が流れる。
頭脳集団とか気取っているくせに、さては光輝会の連中ガラティナ国の事全然知らないな?
その中でエレナローゼが堂々と言い放った。
「まあ、そんな聞いた事もないような弱小国の機嫌なんか、我が国ヒンガリーラントがとる必要なんかないでしょ。ふふふ。ルーイ様ったら。」
歓迎の晩餐会に、てめえは絶対に呼ばねえよっ!
と思った。国交を何だと思っているんだ。それが、国を代表する立場である貴族のセリフか⁉︎
だけど、エレナローゼのセリフを聞くと光輝会員達は急に調子付きだした。
「確かに聞いた事ないな。よっぽど小さい国なんだろうな。そんな小国が何しに来るんだ?お願いだから植民地にしてくださいってか?」
「我が国と歴史的に結びついている国なら、僕は全部知っているよ。そうでないって事は、よっぽど小さいか、よっぽど役に立たない国って事さ。そんな国、興味無いね。」
「きっと、民度の低い野蛮な国よ。ちゃんとマナーを知っているのかしら?私、あまりにも無知な人を見ると鳥肌がたつのよ。変な病気を持ち込んでこないかとか不安になるわ。」
今、僕が怒りのあまり鳥肌がたちそうだよ!
今日一日、今日一日の辛抱だ。もう絶対、こいつらとは縁を切る。二度と顔を合わさない。僕は深呼吸して、何とか頭を冷やそうとした。
その時、フィリックスがレベッカ姫に質問した。
「エーレンフロイト令嬢は、ガラティナの事知っているのか?」
「いいえ、知りません。『オーソン動物記』の著者、オーソン医師の出身地という事くらいしか。」
いや、それは知ってるという事ではないのか?
「『オーソン動物記』ってどんな話なの?」
と僕は聞いてみた。
「騎士団の従軍獣医であるアイゼアー・オーソン氏が、様々な動物達の民話や自分自身が経験した物語をまとめた実話集です。悲しい話や怖い話もありますし、心温まる話もあって、とても感動的な物語集です。」
「どんな話があるのだい?」
「そうですね。私が特に好きなのは、山岳救助犬チェスナット大佐の話ですね。あと、狼王と呼ばれたヴァンの話とかでしょうか。狼王ヴァンは100匹以上の群れを率いて王都を襲い、400人以上の人間を食い殺したそうです。王都の騎士団が立て続けに討伐に出たのですが、兵力を分散させた事が裏目に出て、蒼春、紅夏、黒冬3つの騎士団が壊滅しました。最後に、白秋の騎士団が討伐に出たのですが、白秋の騎士団長は騎士としてのプライドに固執せず、平民のベテラン猟師に教えを乞い入念に罠を仕掛けました。結果、命令に従わなかった騎士3人以外の犠牲を出さずに、狼達を退治したそうです。白秋の騎士団の団長は、どの国の将軍や盗賊の頭目よりも、一番強く恐ろしく美しい敵だったと、残りの生涯ずっと後輩騎士達に語っていたそうです。」
すごい話だ。そういう歴史がある国だったのか。
王族として、もしも我が国の王都でそのような事が起こったら僕はどう対応するだろう?と考えた。我が国では絶対にそんな事は起こらない。なんて事は思わない。ヒンガリーラントにも狼はいるし、伝染病や災害が原因で自然界のバランスが崩れれば、動物災害は簡単に起こり得る。
狼は非常に知性の高い動物だ。王と呼ばれる狼に率いられた100匹以上の狼の軍団だなんて、想像するだけでぞっとした。
のに。
ダーヴィッドが声をたてて笑い出した。
「ガラティナの騎士団ってのは、ずいぶんと情けない騎士団なんだな。3つも壊滅するなんて、弱小国の騎士団はろくな武器も持っていないのか?木の枝で槍とか作って戦っていたんじゃないのか。」
「頼もしい意見だな。ヒンガリーラントで狼100匹出たら、ぜひとも君に討伐してもらおう。」
とジークが言った。するとダーヴィッドがにやりと笑って言った。
「ああ、もちろんさ。俺は今年の建国祭の狩りで、体重が100キロある大鹿を仕留めたんだ。なんて事ないさ。」
・・・。
しらー、とした空気が光輝会メンバーではない者の間に流れた。
草食動物じゃん。
一匹を複数人で追い回したんだろ。
狩場に前もって放つ大型獣は、参加者が怪我をしないよう前もって弱らせておくって知らないのかな?
「チェスナット大佐のお話とは、どういうお話なのですか?」
とユスティーナ嬢がレベッカ姫に質問した。
「山で遭難したり、事故に遭った人達、274人を救出したという山岳救助犬のお話よ。別に特別な訓練を受けた犬ではなくて、山のふもとにあるホテルで飼われていた普通の雑種犬だったの。でも、泊まり客が行方不明になったりすると、枕やスリッパの匂いを嗅いで山の中に探しに行き、すぐに山の中から見つけだしたのだそうよ。そんなに大きな犬じゃなくて30キロくらいの体重でね。一般的に犬が引っ張れるのは体重の半分の重さくらいといわれているのだけれど、滑落して意識を失った体重25キロの子供を引っ張って戻って来た事もあるらしいの。チェスナットの活躍があまりにも素晴らしかったので、チェスナットの死後騎士団に『山岳救助犬』の部隊が作られて、亡きチェスナットに大佐の階級が贈られたそうよ。チェスナットが暮らしていたホテルの横にはチェスナットの銅像が建っていて、今も子孫の犬達が暮らしているのですって。いつか、できることなら見てみたいわ。」
良い話だ!
というか、使節団との雑談にピッタリの内容だ。
向こうも、国の『英雄』を褒められて悪い気はしないだろうし、僕も犬好きなので話を盛り上げられる自信がある!
「とても感動的な物語集だね。その本、エーレンフロイト家にあるの?貸してもらえないかな。」
公式の場で話す事なら、又聞きの話題より、自分でちゃんと本を読んでおいた方が良い。それに、本の貸し借りをするというのは、エーレンフロイト邸を訪ねる絶好の口実だ。
「いえ・・借りた本なんです。シュテルンベルク家に。」
「コンラートに?」
ついつい声が尖ってしまった。
「いえ、おじい・・じゃなくて、先代の伯爵様です。」
「そうなんだ。」
「えっ?先代のシュテルンベルク伯爵って10年以上前に亡くなっているわよね。」
とアデリナが言い出した。
さっきまで、メソメソ泣いていたのに、すっかりもう涙が乾いている。
というか、たぶんまだ10年は経っていないぞ。
「10年以上も本を借りっぱなしなんて、それって泥棒じゃない!」
「アデリナ嬢。そんな言い方はないだろう。」
「それは泥棒よ!レベッカ様は泥棒だわ!」
聞けよ!人の話をっ。
「泥棒といえば泥棒よね。」「そうだ泥棒だ!」
『泥棒』という、パワーワードがあっという間に、会場中に広がっていく。まずい。このままでは、光輝会の連中が社交界中に「レベッカ姫は泥棒だ。」という噂を広めるだろう。更にどんな尾ひれをつけて中傷するか。
話題選びに失敗した。僕のせいだ。光輝会の連中の底意地の悪さを甘く見ていた。
「そういう事を言うな!」
と命令しても、悪意のある中傷は裏で広まっていくだろう。貴族社会では、付け入る隙を与えた方が悪いのだ。
どうしよう?と僕は焦った。
レベッカ姫の方を見ると、レベッカ姫は落ち着いて微笑んでいた。
これだけ悪意を向けられて、まるで『悪役』のように責めたてられても、それをどこか面白がっているようにみえた。
何か、リバーシの局面を一気にひっくり返すように、逆転の一手があるのだろうか?
ただ、一つわかる事は、コンラートとアデリナの婚約は絶対に成立しないな。という事だ。
僕がコンラートでも絶対に拒否する。
その時、僕はある事に気がついた。今日の主役のはずのカーテローゼ嬢がいない。
「あれ、カーテローゼ嬢は?」
と僕は聞いた。会場の中にいなかった。