作品タイトル不明
帰宅(1)
最初に思ったのは。
幻覚!!!
だった。
最後に会ったのは、芳花妃ステファニー様を王宮図書館の隠し部屋からお助けした時(第一章、事件(2))だから、もう2年近く前の事である。
背は伸びているけれど、顔は変わっていなかったので「誰?」とは一応ならなかった。
ならなかったが、あまりにも非現実な光景に思考回路がフリーズしてしまった。
だってここは、とってもとっても下町な庶民街。貴族のアンネリエが歩いていただけでもかなり驚いたのに、なんで王族がこんなところにいるのか!
「良かった。心配したんだよ。レベッカ姫。怪我が無いようでホッとした。」
そう言いつつ、いい笑顔で微笑み、私の手をとって手の甲に口づけした。
今私は、不時着した宇宙船の中に招き入れられてコーラを出されるよりも動揺している!
「王子様が、この家にいるらしいよ。」
「え!王子様が。」
と外の方から声が聞こえてきて、それを聞いたマルテやデリクがアワアワし始めた。
「ルーイ殿下あ。せっかくの親子の久しぶりの対面、邪魔したらいかんと思って僕ら遠慮してたのに乱入しないでくださいよ。」
と声がした。誰かと思ったらジークだ。ユリアとコンラートも一緒だった。
「どうして婚約者である僕が遠慮をしないとならないんだ?だいたい、僕の方がよっぽど久しぶりだ!」
「婚約者って事はやっぱり、第二王子殿下なのか!」
とデリクが呟く。
「こ・・こんなボロ屋に王子様が。」
とマルテも震えていた。
私はレントの視線が気になっていた。レントは画家なのだから、人体の作りとかには詳しいだろう。服の上からでもジークが女性だって事に気がつくんじゃないか?しかも、デリクが「ヒルデブラント家のジークルーネ姫は、栗色の髪に紫色の瞳」と言っているのだ。ジークの正体にレントは気がつくかも。
と現実逃避している場合じゃない!
「ど・・どどどうして、殿下が。」
「レベッカ姫が、田舎貴族と争いになったという話を聞いて駆けつけて来てしまった。姫に無礼を働いた者は厳罰に処してあげるから安心してほしい。」
法に則した処罰をお願いします。と心の中で思った。
「少し離れた所だが馬車が停めてある。さあ、館へ帰ろう。」
それは、王家の馬車なんでしょうか⁉︎そんな高級車、突然は無理!
と言いたくても言えずにいると
「旦那様。私とヒルデブラント様は二人乗り用の鞍をつけた馬に乗って参りました。その馬は家の前にとめてあります。その馬に乗ってベッキー様とお戻りください。目の前の道路は今群衆でごった返しており、歩くのは危険です。どうか安全の為に。」
とユリアが言い出した。
ありがたいけど、王子の言い分に真正面から反抗すると不敬罪に問われるよ!
でも、お父様は
「助かるよ。ユリアーナ。」
と言って、ユリアの意見に乗っかった。一瞬「ふっ」とユリアが勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そんなユリアをルートヴィッヒ王子は、むむっとした表情で睨みつけた。
私はルートヴィッヒ王子の意見に逆らうなんて、そんな恐ろしいマネできないけれど、ユリアはそれができるくらいすっかりルートヴィッヒ王子と、気のおけない仲になっているのね。すごいなあ。
「私が乗って来た馬車で、ハイドフェルト家の令嬢をうちに連れて帰って来てくれ。」
とお父様はユリアに指示し
「さあ、帰ろう。」
と私の肩を抱いた。
「マルテさん、デリクさん、レントさん、ありがとう!」
と私は振り返って叫んだ。
たった1日の付き合いだったけど、彼らは私にとって忘れられない人達になった。
私とお父様は、パカラパカラっと走る馬に乗って王都内の道を走っている。今私はスカート姿なので、お父様の後ろに横座りで座っていた。
高い視線から街の景色を見ていると、初めて馬に乗った時の事を思い出す。エリーゼ主催の乗馬クラブの会員になって、生まれて初めて馬に乗ったのだ。
馬にまたがって一番最初に思ったのは、けっこう股を開かないといけないのだな、という事だ。メリーゴーランドのお馬さんと違って、本物のお馬さんはけっこう胴周りが太い。ただ、またがっているだけでも、普段開かないくらい股関節を開かないといけないのだ。案の定、翌日一番筋肉痛になったのは、股関節周辺の筋肉だった。もはや普通に足を前後に出して歩く事もままならない。今激痛が走っている場所に筋肉があるという事も私は知らなかった。それくらい普通の生活で使う事の無い筋肉を乗馬で使用したのだ。
お馬さんが出てくるマンガには、お馬さんに乗ると、お尻が痛くなるとかお尻の皮がむけるとかよく書いてあるけれど、こんな場所が筋肉痛になるなんて書いてなかった。何事も経験してみなければわからない事がある、と思った。もしも、一度も馬に乗るという経験をしないまま、将来急に亡命しなければならない状況になって馬にまたがって一昼夜走ったら、たぶん2日目に股関節周辺の筋肉が死ぬだろう。
勉強になった。と思いつつ、今も時々乗馬クラブに顔を出している。
馬は王城特区の門を抜けエーレンフロイト邸にたどり着いた。
玄関から中に入るとお母様とヨーゼフが駆け寄ってきた。
「すみませんでしたあっ!」
と私は先に叫んだ。
「内臓出るまで叱られる覚悟はできています。さあ、どうぞ。どうぞ!」
「・・もういいです。」
とお母様は疲れ果てた顔で言った。
「内臓出されても困りますから。とにかく、部屋へ戻りなさい。」
「あ、ちょっと待って!部屋へ戻る前に。今から、ハイドフェルト令嬢が来るけれど、その子の事は怒らないであげて。家族から虐待を受けていて、もうスタミナポイント尽きる寸前みたいなひ弱な子で、お母様の迫力で怒られたら、たぶん死んでしまうから!」
「いいから、おまえはさっさと部屋へ戻りなさい!」
お母様に怒鳴られ、私は部屋に戻った。部屋に戻ってみると、窓は5センチ以上開かないよう釘が打たれていた。私は肩にかけていたカバンから、豚様達のぬいぐるみを取り出し机の上に置いた。
部屋の中にあったロープも本も没収されている。私は、する事もなくベッドに横になった。