作品タイトル不明
マルティナとデリクとレント(2)
「な・何かな?」
「ヒルデブラント家のジークルーネ姫様って事はねえよな?」
「違うから。」
一瞬正体がバレたかと思って焦った。
「そうだよな。ジークルーネ姫様は栗色の髪に紫色の瞳って話だし。あんたは黒髪だし、目も紫じゃなくて紺色だもんな。しかもジークルーネ姫様は、蘭の花のように美しいご令嬢だって話だ。うん、うん。」
・・それは、いろんな意味でどういう意味かな?と聞きたくなるんですけど。
「あーあ、道でバッタリジークルーネ姫様とかに会えたら大スクープなんだけどなぁ。」
とデリクは言っている。
栗色の髪に紫色の瞳の女の子を探しているんだったら、見つけ出せる可能性はゼロだね。
「なぜ、この辺りを歩いていたんだい?お嬢さん。」
と今度はレントに聞かれた。
「友達に会いたくて。」
「友達?」
「うん。クラリッサっていって、ヴァイスネーヴェルラントに住んでるだけど、ヒンガリーラントに来た時はいつもレーベンツァーン亭っていう食堂兼宿屋さんに泊まってるんだって。だから、そこで待ってたら会えると思って。」
「クラリッサって、まさかクラリッサ・バウアー?イザークの姪の?」
「えっ?デリクさん、クラリッサを知ってるの?」
「おう。イザークは俺の友人だよ。こっちに来てるたんびに一緒に飲んでるぜ。」
なんてこった。世界は広いようで狭いな。
「友達という割にクラリッサと年が離れているな?」
とレントに言われた。
「私、小説家になりたいの。もちろん簡単になれるものじゃないし、食べていける人なんて一握りだってわかってる。でも、クラリッサに相談に乗って欲しくて。」
「相談って?」
「主に仕事の事。都会で働きながら小説家を目指すか、それとも、物価の安い田舎で暮らして働くか?どっちが暮らしやすいか。」
「田舎はやめとけ。」
とデリクに言われた。
「そうだよ。フミコみたいな若い子には田舎は危険だよ。」
とマルテも言う。ん?と思った。旧日本人の感覚だと、都会の方が物騒な気がするけど?
「さっき、あんな目にあったあたしが言うのもなんだけど、大都市は、騎士隊とか常駐していて、法律もちゃんとしてるからね。田舎は変な因習とか、謎ルールとかあるから。法律よりも村の掟が上みたいな。あたしの旦那は、植物学者で、いろんなとこ行って、草とか花とか集めてるんだけど、フミコみたいな若い子にはとても聞かせられないような怖い話、いっぱい旦那から聞いてるよ。」
都会の人間の田舎への偏見、というわけではなく、リアルガチな何かがあるらしい。中世の魔女狩りとか、西部開拓時代の時代劇とかみたいな、無法な場所とかあるのかもしれないなあ。
「というか、今レーベンツァーン亭閉まってるぞ。」
とデリクに言われた。
「確か、姪の娘が結婚するっていうんで、他の街でやる結婚式に行くから、当分店閉めるって聞いてるぞ。」
「えー!」
と思わず叫んでしまった。そんな、私の唯一知ってる、安心安全なお宿が!
「そんなあ、どこか、女1人でも安心で、リーズナブルに泊まれる宿って知ってます?」
「それなら、うちに泊まりなよ。ちょうど屋根裏部屋が一部屋空いているから。」
「え⁉︎いいんですか?ありがとうございます。宿代はいくらですか?」
「宿代はいいよ。あんたはあたしの恩人なんだから。どうせ、何日かしたら、レーベンツァーン亭の主人も戻ってくるだろうし。」
「いえ、そんな。じゃあ、私いっぱい働きます。料理も掃除も得意です。皿洗いだってするし、洗濯だって。縫い物はちょっと苦手だけど。」
「マルテさん。」
咳払いをしながら、レントが言った。
「私は反対です。面倒ごとに巻き込まれたら大変な事になります。」
「こんな、若くて可愛い子を放りだした方が危険じゃないか。」
「腕っぷしだけなら、ここにいる4人の中で最強と思いますが。」
あんたはともかく、デリクさんにゃ敵わねえよっ!
「だいたい働こうにも、まともに働けるわけがないでしょう。自分の着替え一つ畳んだ事の無さそうなタイプですよ。」
「真顔で失敬な!服くらい畳んだ事あります。」
と私は言った。文子の頃の話だけどさ。
「そうかい。本気で料理が得意だというのなら、何か作ってみてくれないか。ちゃんとおいしい物が作れたら、私もこれ以上マルテさんの判断を反対したりしないよ。」
口調と表情から、絶対にできるわけが無い。という空気がビシバシ伝わってくる。
しかし、おっさん!失敗したな。私は料理は家事の中で一番得意なのだ。これが「洗濯をしてくれ」と言われたのだったら、文子だった頃いつも洗濯を洗濯機にお任せしていたので、自信が持てないところだったが、料理だったら問題ない。ブルーダーシュタットで、それは確認済みだ。
ただ。
「ちゃんとおいしくできたのに、マズいって嘘つくのは無しだからね。」
「俺も食って、公平に判断してやるよ。安心しな。」
とデリクが言ってくれた。
「でも、今うちにろくな材料は無いよ。これから市場に行くところだったんだから。」
とマルテが言った。
「かまいません。ある物で適当にぱぱぱっと作る。それが真の料理上手っつーもんです。」
と、私は言った。
そして、いきなり。私は、今夜のお宿をかけた料理勝負をする事となった。