軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

推理

「行方不明って、いったいなんで?2人揃って離岸流にでも攫われたんですか⁉︎」

「さあ、私も詳しくは・・。その数日前にも、近くの村の若い男女が行方不明になったのだそうです。まあ、その2人の方は『年上の未亡人との結婚なんて許さない』と男性の母親が反対していたので、2人で逃げたのでは、なんて話もあったんですけど。でも、女性には3歳になる子供がいたんです。その子を置いて逃げるなんておかしい、と言っている人もいて。汽水湖で心中したカップルの呪いなんじゃないかなんて言ってる人もいるんです。2人はその日汽水湖に行っていたので。」

「カップルの呪い?」

「昔、汽水湖で心中したカップルがいたらしくて、それで汽水湖にカップルが近づくと湖の中に引きずりこまれるって言い伝えがあるんです。」

「なんで、そんな湖にそのカップルはわざわざ行ったの?」

「湖でワタリガニをとる為です。その女性は、夫が死んだ後家も畑も夫の兄弟にとられてしまったので、罠猟をしたり湖で魚やカニをとったりして生計をたてていたんです。その日、女性が湖に行ったままなかなか帰って来なかったので、恋人が迎えに行ったんです。それで、そのまま2人共・・・。」

詳しい事情はわからないが、なんか幸薄そうな女性だな。女性もだが、残された子供がかわいそうだ。

「グートハイル夫妻は、その村の宿屋に泊まってその話を聞いたみたいです。それで、子供に同情して『汽水湖に行ってみる』と言っていたそうです。そして、そのまま・・。」

そう言ってカレナは、ブルリと肩を震わせた。

「呪いねえ。」

ティアナとイェルクが任務を放り出して遊びに行っているというのよりかは、まだ呪いの湖に引きずりこまれたという話の方が信じられる。

ただ、その湖が『汽水湖』というのが気になった。

『汽水湖』とは、海と繋がっている湖の事だ。海水と淡水が混じり合い、海から魚やカニや海賊がやって来る。2人は『漆黒のサソリ団』に攫われてしまったのではないだろうか。

「カレナさんは2年前に雇われたんですよね。この家で1番古くから働いている人は誰ですか?」

「執事さんと侍女のジビラさんは、もともとご夫妻にお仕えしていて、一緒にこの館に来られたんです。私と御者のテアさんが同じ時に雇われて、その時料理人の女性も雇われたんですけど、詮索やおしゃべりが好きな人で、あまり働かなかったので半年で解雇されました。今の料理人は、その後雇われたんです。」

「前のご当主の時代から働いていた人はいないの?」

「ええ、前のご当主と旦那様はあまり関係がうまくいっていなくて、なので前のご当主を慕っていた使用人は、ちょっと難しかったみたいです。」

歩いているうちに日本の公園のトイレくらいの大きさの建物の側に来た。ドアはあるけど窓は無い。

「ここですか?」

「いえ、ここは旦那様の星の観測部屋です。高価な望遠鏡とかあるので、旦那様と執事さん以外は立ち入り禁止なんです。お手洗いはあちらの建物です。」

同じくらいの大きさの建物が塀のすぐ側に見えた。こんな庭の外れにあったら夜中にトイレに行きたくなった時困るだろうなあ、と思った。あと、それとお腹壊して一刻を争う時とか。

「案内してくれてありがとう。帰り道はわかるから、ちょっと離れててもらえるかな。近くにいられると恥ずかしいし。それにユリアの事が心配なの。アーレンスって奴にまた虐められてるかもしれないから。あの男がユリアになんか言ってたら、一言残らず教えて。私が反撃してやるから。」

「承知しました。」

カレナはクスリと笑って一礼し戻って行った。

私は、塀の方へ歩いて行った。

「お嬢様、お手洗いはこっちですよ。」

とアーベラが言う。

「いや、トイレに用はない。」

私は塀を見上げた。けっこうな高さがある。ジャンプ力に自信のある私でも上まで手が届きそうにない。

「アーベラ。手をちょっとこういう風にして。」

私は、バレーボールのレシーブのようなポーズをとった。

「もうちょっと、腰を落として。足しっかり踏ん張って。・・はあっ!」

私はアーベラに向かって走り出し、アーベラが組んだ手に右足をかけてジャンプした。手が塀の上にギリギリ届いた。そのまま懸垂の要領で塀の上に上がる。

「何をしているんですか、お嬢様!」

「ヨアヒムに会ってティアナ達の話を聞いてくる。館の門をくぐる時めっちゃ小鳥の声が聞こえたでしょ。あれ、ヨアヒムだよ。鳥の鳴き真似超うまかったもん。」

「待ってください!私も参ります。」

と言って、アーベラはピョンピョンと跳ねるが塀の上まで手が届かない。

「すぐ戻って来るから待ってて。」

「ダメです!私から離れないって約束したでしょう。戻ってください。それが嫌なら手を貸してください。」

「手を貸せって言われても、私の腕力じゃアーベラを引き上げられないよ。」

「お嬢様!そこで何をなさっているのですか⁉︎」

塀の外から声がした。振り返るとヨアヒムと20人以上の騎士達がいた。

「ヨアヒム!ティアナとイェルクが行方不明になったって本当?」

「・・はい。2人は昨日から消息不明です。騎士団で、2人を必死に捜索しております。」

「最後に2人を見た人は誰なの?」

「2人が泊まった宿屋の主人です。その日の午後我々と合流するはずでした。」

ヨアヒムの話によるとこういう事だった。

ヨアヒムとイェルクとティアナは、ブルーダーシュタットの貸し馬屋で馬を借りてラーエル地区へやって来た。そしてイェルクとティアナは周辺の調査をし、ヨアヒムはエーレンフロイトの領都からやって来る騎士達を迎えに行く為別行動をした。騎士達は船でやって来る。港で待っていれば、騎士達とは合流できた。ヨアヒムとイェルク達は、シュヴァイツァー邸から1番近くにある宿屋で待ち合わせをしていた。

しかし、イェルク達は朝その宿を出た後戻って来なかった。イェルク達が乗っていた馬は、帰巣本能でブルーダーシュタットの貸し馬屋へ戻って来たという。イェルク達の事は心配ではあったが、シュヴァイツァー邸を調べるチャンスでもあった。

騎士団はシュヴァイツァー邸を訪ねたが、イェルクとティアナは来ていないという事だった。

シュヴァイツァー邸の住人は7人である。

現在の当主がこの地へ来た後、雇われた使用人は3人だ。

だが、年齢を考えたら、侍女のカレナは海賊の仲間ではないだろう。騎士団は残りの2人、料理人と御者を連行し今現在厳しく取り調べ中である。

「どっちが怪しいの?」

と、私はハンプティダンプティーみたいに塀に腰掛けたまま質問した。

「それが、2人共身元はしっかりしているんです。しかも、昨日、2人共ブルーダーシュタットへ行っていたのです。料理人は、今日訪ねて来る客の為に、食材の買い出しに行っていて、御者はシュヴァイツァー夫人が侍女のカレナを伴ってブルーダーシュタットの救貧院に古着を寄付しに行ったのに馬車で同行しています。」

「イェルク達が行方不明になった事は気になりますが、ただ、シュヴァイツァー邸の中には『漆黒のサソリ団』の一味はいない、というのが騎士団の結論です。」

と別の騎士が言った。

「ところで、どうしてお嬢様がここにいらっしゃるんですか?しかも塀をよじ登ったりして、何をなさっているんですか⁉︎アーベラの奴は何をしているんだ!」

ヨアヒムが額に青スジを浮かべて怒っていた。

私はそれを無視して言った。

「シュヴァイツァーが、海賊って可能性はないの?ちゃんと調べた?」

「・・・はっ?」

騎士達がポカンとした顔をした。

「シュヴァイツァー氏は貴族ですよ。地元でもブルーダーシュタットでも高名な名士です。『漆黒のサソリ団』は、使用人に化けて邸内に潜り込む海賊です。」

「いつも、同じ手を使ってたら捕まる可能性が高くなるじゃない。シュヴァイツァー氏は貴族といっても、どこにあるかもよくわからない遠くの国の貴族だよ。しかも、その国は現在鎖国状態で、情報が全然伝わってこない。シュヴァイツァー氏は2年前に突然、この地にやって来てこの周辺に顔見知りなんか1人もいない。なのに、間違いなくレオデキアの貴族だって証明できるの?」

「そ、それはそうですが・・。」

「天文学者って職業も怪しくない?周囲にそう言っておけば、夜中にふらふら歩いていても、望遠鏡やら双眼鏡やらでどっか遠くを見ていても変に思われないよね。それに、連れて来た使用人達もなんか胡散臭いんだよ。執事は、そんなに年に見えないのになんか老けて見えるように振る舞っているし、侍女は隠そうとしても隠し切れないくらい明らかな武闘派だし。」

「・・・。」

「シュヴァイツァー夫婦と執事と侍女が海賊だったら、この近辺で4人、男性が2人女性が2人行方不明になったのも説明がつくと思わない。館を燃やして住人7人が焼け死んだって事にするなら、4人分の死体をどっかから持ち込まないといけないでしょう。」

「それは・・そうですが。」

「私も証拠も無くこんな事を言っているわけじゃないのよ。館の中でこんな『銅貨』を拾ったの。」

私は手の中でずっと握りしめていた銅貨をヨアヒムに渡した。

「何ですかこれ?偽金?」

「いや、間違いなくヒンガリー銅貨よ。だけど、片面に銀色の金属を塗っているの。錫か鉛だと思う。銀色は金属のスタンダードカラーだから。」

「何でこんな加工を?」

「コインマジックに使う為じゃない。」

そう言うと、ヨアヒムとアーベラは、はっとした顔をした。何人かの騎士さん達もだ。

「ハンカチに包んだ銀貨に呪文を言うと銅貨に変わる、ってコインマジックをイェルクは見せてくれたわ。」

銀貨の状態の時は一瞬しか見させてくれず、すぐハンカチに包んでしまった。銅貨に変わった後はじっくり見せてくれたが、触らせてはくれなかった。

「この館の住人にコインマジック好きの人がいるのかもしれないけれど、私にはなんだかこれがイェルクがなんとかして残そうとした手がかりのように思えるの。」

一応言っておきますけど、最初は「あ!お金落ちてる。おうちの人に届けてあげよう。」って思ったんだよ。でも、これがコインマジック用のお金かもしれない、と思って誰にも言わない方がいいかもと思ったんだ。

「今は夏だし閉じ込められていたらものすごく暑いはず。そんな中、水をもらえずに監禁されたら、あっという間に死んじゃうよ。早く、助けてあげないと。もしもシュヴァイツァー氏が海賊と全然関係が無かったら、私が責任とるから。五体投地で謝罪する。」

正直、もう殺されている可能性の方が高い気がする。でも、今が夏だということに多少の希望があった。夏の暑さのもとでは、死体はあっという間に腐敗する。そうしたら、海賊と無関係な使用人が臭いに気がつくかもしれない。それに、館と死体を燃やした後、プロの調査官が調査に入れば、その焼死体がフレッシュな状態だったのか、腐乱していたのかわかると思う。だったら、ギリギリまで生かしておいてくれるのではないだろうか。

「シュヴァイツァー邸に突入します。」

騎士の中で1番年上に見える人が言った。

「危険ですので、お嬢様。こちら側にどうぞ降りて来てください。」

「嫌。」

「お嬢様!」

「ユリアを置いて自分だけ逃げられない。逃げる時は、ユリアと一緒。アーベラ、飛び降りるから受け止めて。」

言うと同時に飛び降りた。アーベラがちゃんと受け止めてくれたので、ハンプティダンプティーみたいにはならずにすんだ。

「お嬢様あ!」

と、なんか悲壮な声が塀の向こうから聞こえてくる。

「アーベラ!おまえ、絶対お嬢様をお守りしろよ!」

ヨアヒムがそう叫んでいた。

私とアーベラは急いで来た道を戻った。そしたら、向こうからやって来たユリアとカレナにバッタリと会った。

「良かった、お嬢様。遅いので心配していたのです。まさか、その・・落っこちてしまったのではないかと。」

と、カレナに言われた。

「はは、ごめんごめん。」

一瞬、このまま逃げようとユリアに言おうかと思った。でもユリアはナータン氏や宝石を置いて逃げるのを良しとしないだろう。それに、ユリアやカレナにはとてもあの塀は越えられない。

「実はね。落ち着いて聞いて欲しいのだけど・・。」

その時。

ドッカーンッ!!!!

すごい音がした!

まるで何かが爆発したような音で、鼓膜が震えた。

何アレ?