軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編3 レゼダとニジェルの小話

ここは王宮内の訓練場。

レゼダとニジェルは日課の訓練を終えたところだ。

今日の指導者である騎士団長は、すでに持ち場に帰ったところだった。

二人は汗をぬぐいながら、ただの幼馴染みとして休憩時間を楽しんでいるところだ。

「そういえば、今度のお茶会はニジェルも出席するんだよね?」

レゼダの言うお茶会とは、王宮主催のもので、多くの貴族の子息令嬢にとって初めて王宮に上がる機会とあって、憧れの行事でもある。

ニジェルは頷いた。

「イリス嬢も出席できそう?」

イリスはニジェルの双子の姉だ。

王宮内でも厳しいと有名で、事実レゼダにも厳しいシュバリィー侯爵だが、ことイリスに関しては「かわいい」「いいこ」と目尻を下げて話すので、レゼダは少し興味があったのだ。しかし、シュバリィー侯爵は語彙が不自由で何を聞いても「かわいい・いいこ」以上の情報が得られない。

そこで王宮内でイリスを見かけたことのある騎士に話を聞いてみると答えは様々だ。

「朝顔を思い出させる」だとか「メジロのように愛らしい」だとか、はては「エメラルドのように清らかだ」まで、騎士ならではの情緒的な表現で答えられ、余計にわからなくなってしまうのだ。

しかし、イリスは昨年から病に臥せっていたと聞く。突如、周囲との連絡を絶ち、部屋に引きこもり、令嬢たちのお茶会にも参加しなくなったので、口にするのもはばかられる病『土痘』に 罹(かか) ったのではと噂されていた。

それを聞きレゼダは、昼にはしぼんでしまう朝顔のようにあえかに咲く花を想像し、不憫に思っていたのだ。

「すると思います」

ニジェルは、先日のイリスを思い出して苦笑いした。

王宮のお茶会にはいきたくないとぼやいていたからだ。しかし、母の気合いの入り方からして、イリスがどんなに抵抗しても出席させられるだろう。そもそも、王宮からの招待を理由もなく断れるわけもないのだ。

「よかった。病気はよくなったんだね」

「はい。元気です。今朝も一緒に訓練してから来ました」

「え? 病み上がりじゃないの?」

「病み上がりといえば病み上がりですが……。病自体は結構前に治っていたんです。ただ、本人が気落ちしていただけで」

「長いこと病気で臥せていると聞いていたから、か弱いのかと思ってた」

レゼダは、エメラルド色の小鳥のように可憐な少女が、儚げにベッドに腰掛けている姿を想像していたのだ。

レゼダの言葉にニジェルは噴出した。

「か弱いだなんてとんでもない! 父の訓練を受けていますよ」

「え、訓練てシュバリィー侯爵の?」

「はい。初めのころはペースを落とした訓練でしたが、最近はずいぶん元に戻ってきました」

レゼダは頭が混乱した。

シュバリィー侯爵の訓練は厳しくて有名だ。それを朝からニジェルとこなすという女の子がレゼダには想像できなかった。

本当に女の子?

「イリス嬢ってどんな子なの?」

「普通ですよ」

いや、すでに普通ではないと思う……。

ニジェルの中で普通の女の子は一体どうなっているのか、少し問いただしたいレゼダである。

質問の方法を変えてみようとレゼダは思った。

多分、ニジェルには何を聞いても自分の姉は普通だと答えるだろう。

「イリス嬢を見かけたことのある騎士は、『朝顔を思い出す』と言っていたけれど?」

「確かにそうですね」

ニジェルは納得したように微笑んだ。

ニジェルの答えにレゼダは納得した。やはり、ニジェルの話が大げさなのだ。訓練と言っても、きっと体力作り程度なのだろう。短命な朝顔の花のような子に無理をさせるわけがない。

「そう。朝顔の花のように儚げな子なんだね」

「いえ、朝顔のツルによく似ています」

ニジェルの即答にレゼダは混乱した。女性を花にたとえることは良くあるが、ツルに例えるとは聞いたことがない。

「朝顔のツル? 見かけた王宮の騎士が『メジロ』のようだと言っていたけど?」

「『メジロ』? 小鳥の?」

ニジェルは信じられないというように目を白黒させた。

「鳥に例えるなら、……クジャクです」

「クジャク? メジロよりずいぶん華やかだね」

「いえ、そういう意味ではなく、わりと攻撃的です」

レゼダは更に頭を悩ませる。

世の中にはニジェルに攻撃的と言わせる令嬢が存在するらしい。

「じゃあ、エメラルドっていうのは?」

ニジェルは、瞬きしてイリスを思い出した。その頬が思わず緩む。

「ええ、キラキラしてます」

レゼダは更に混乱する。

朝顔のツルのようで、クジャクのように攻撃的で、エメラルドみたいにキラキラ? 全く想像がつかない……。

「……イリス嬢って、ニジェルのご両親のどちらに似ているの?」

「父ですね」

ニジェルの即答にレゼダは口をつぐんだ。

シュバリィー侯爵を子ども化してドレスを着せた姿を想像したのだ。

……うん。ニジェルを女装させたほうがかわいい気がするんだけど、気のせいかな?

「ところで、殿下がなんでそんなことを聞くんです? まだ子どものイリスをそんな目で見る騎士がいるんですか?」

ニジェルが不機嫌そうにレゼダに尋ねた。珍しく背中に怒気を感じる。

シスコンなんだな、レゼダはそう思った。

「いや、お茶会を控えているから気になったんだよ。イリス嬢は令嬢たちのお茶会にも出てこないと聞いていたから、不安じゃないかと思ってね。ニジェルの姉だし何か配慮ができたらって。騎士はボクが聞いたから、教えてくれただけ。ほら、騎士特有の詩的な表現でしょ? レディに対するマナーじゃない?」

レゼダが答えると、ニジェルはニパッと明るい笑顔に戻った。

「そうですか。お気持ちありがとうございます。イリスは、病に臥せっている間におろそかになっていたマナーを、連日たたき込まれているところです。とてもプレッシャーのようで『行きたくない』と毎日愚痴をこぼしているんです」

シュバリー侯爵と同じ顔をしたマッチョな女の子が、クジャクの羽根を頭に挿してぎこちなくカーテシーをする姿が、ポンと頭に浮かんで、レゼダは思わず吹き出しそうになる。

しかし、あわててグッとこらえた。

「そうなんだ」

「でも、そう言っていただけて安心しました。殿下、イリスが失礼なことをしても大目に見ていただけると助かります。多分、絶対、失敗します。先にボクから謝っておきます」

ニジェルが真顔で言うので、レゼダは今度はこらえきれず笑い出した。

弟からこれだけ心配されるって、どんな子なんだろう? ニジェルからは想像できないな。

「うん。……会えるのを楽しみにしているよ」

レゼダが言えば、ニジェルは苦笑いした。

そしてお茶会が始まるーー。

レゼダは王子らしいニコヤカな笑顔を振りまいて歩く。お茶会はつまらないと思いつつ、公務として責任は果たさなければならないからだ。

そんなレゼダの内心に気がつきもしない女の子たちが、ニコニコと愛想を振りまきつつ、期待をむけた目を向けてくるので疲れてしまう。

代わり映えのない話題、内面なんかわかりっこない作り笑顔、表面をかすっていくだけの不毛な会話。子どもだからこそ辟易してはいたが、王子という立場上、避けることはできない。

王子として期待を裏切らないよう笑顔で答え、話しかける。

そこへ、ザワリと声が上がった。注目がそちらに集まる。

レゼダもその声の方を向く。そこにはニジェルとイリスがいた。

ふたりはエメラルドがかすんでしまうほどキラキラと輝いて見える。

思わず、周囲にため息が広がった。

「ニジェル様だわ。凜々しいわ」

「やっぱり騎士様になるんでしょうね」

「レゼダ殿下も素敵だけれど、ニジェル様も素敵よね」

「隣にいる方はイリス様よね。……病気は良くなったのかしら?」

「さぁ? 私も最近はお会いしてないから」

噂話を気にもとめない様子で、ふたりは颯爽と歩いてくる。

ミントの香りがする爽やかな風がふたりから吹いてくるような気さえした。

レゼダはニジェルに声をかけた。ニジェルはレゼダにイリスを紹介する。

ニジェルが紹介した少女は、病で引きこもり、マナーの勉強に愚痴をこぼすようには見えなかった。もちろんマッチョではなく、クジャクの羽根も頭に挿してはいなかった。

堂々とかつ優雅にカーテシーをしてみせるイリスを見て、レゼダは心の中でニジェルに悪態をついた。

ニジェルの嘘つき!! 侯爵になんて全然似てないじゃないか!

そして、レゼダに媚びないどころか突き放すような態度を取る様子にあっけにとられた。

そして、全然普通じゃない!!