軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47 人気コンテスト 1

そして迎えたコンテスト当日である。

街の広場に舞台が設置された。その舞台上で決戦は繰り広げられる。

事前にプロフィールと今までの審査の結果が記されたチラシが配られており、老若男女、貴賤問わずコンテストに投票することができる。

聖なる乙女の審査は、今までの審査の得点と最後の人気コンテストの得票を合わせた総合点の多い一名が、最終審査の聖なる乙女の面接に進むことができる。

その最終審査で、聖なる乙女と認められれば、次代の聖なる乙女と指名されるのだ。

聖なる乙女の候補者カミーユ・ド・デュポンは、名前こそ貴族風ではあるが下町出身だ。聖なる乙女の候補にあがると同時に、男爵家の養女となった。

なんと言っても、下町から初めて選出された聖なる乙女であり、二つの審査で勝利を収めている。しかも、カミーユのオイルという傷によく効くオイルを作っている本人だ。下町でその効果は有名で、カミーユを知らない者はいない。

今までの成績も、学力テスト九十点、魔獣討伐百点の合計百九十点を獲得している。

対する聖なる乙女候補者はイリス・ド・シュバリィー。勇者を先祖に持つ侯爵家の娘だ。成績は、学力テスト七十点、魔獣討伐0点の合計七十点と非常にバランスが悪い。

気高く美しいとの評判ではあったが、貴族でありながら『神に見放された証』を持つのだという。昔から、行いが正しい貴族は土痘に罹らないとされていた。痘痕がある貴族というからには、悪辣な令嬢に違いないと下町では囁かれていた。そもそも、貴族の令嬢などにはなじみがない。親近感がわかないのだ。

聖なる乙女の候補者は毎年何かと話題の的で、下町では非公式の賭けが行われていた。

今年の下馬評ではカミーユが有利である。

先ずは、学園の出した課題の解決。ドレスコンテストを兼ねたダンス。それらの二つを見て、どちらが聖なる乙女に相応しいか人気投票するのである。

毎年の娯楽イベントのようなもので、すでにたくさんの人が集まり、屋台も出ていた。

舞台袖からイリスとカミーユは広場の様子をうかがっている。イリスは髪をまとめた討伐用の制服、カミーユは通常の制服姿だった。

イリスが討伐用の制服を選んだのは、コンテストの流れを知っているからだ。ゲームではあるが何回か経験しているのだ。

そのため、イリスはあまり緊張していなかった。

カミーユは酷く緊張しているようだ。

先ず、学園からの課題が発表される。

ドラムロールが打ち鳴らされ、最後にジャンとシンバルが鳴る。

「今年の課題は、『氷結の中から白百合を取り出す』」

学園長の声が高らかに広場に響き渡った。

うん、ゲームと同じ。

イリスはグッとこぶしを作った。

カミーユは不安そうな顔をしている。

イリスはカミーユの背中を強く叩いた。

「カミーユさんが怖気ついているなら、私が先に参りますわね」

そう言って舞台にでる。

イリスが舞台に出た瞬間、広場が戸惑うようにざわついた。

そうよねー。討伐用の制服で出てきた候補者、今までいなかったはず。

イリスは苦笑いだ。

しかし、街の人々が戸惑ったのはそこではない。イリスがミントではないか、そう一部の人間が気が付いたのだ。

「イリス・ド・シュバリィー……? あれ、ミントちゃんじゃないの?」

「いや、ミントちゃんが侯爵令嬢なわけないだろ?」

「ミントちゃん、ムカデ踏みつぶしてたもんね」

「侯爵令嬢がそんなことできるかよ」

イリスは白百合が閉じ込められた氷結を前にして、静かに息を吐いた。

そして、勇ましく構えると、拳を一突き。

パリンと涼やかな音が鳴り、氷が砕け、光が舞い散る。崩れた氷の中から白い百合を拾い上げ、イリスは丁寧に周りについた氷の粒を拭った。

そうしてから、白百合を掲げ広場に見せ、学園長へ手渡した。

広場はシンと静まりかえった。

あっけにとられたのだ。聖なる乙女の選考で、魔法を使わずに物理攻撃で課題をクリアしたものは、今までにいなかった。

ひかれてる……。

しかし、それ以外にイリスには解決方法がない。

イリスが下がれば、次はカミーユの番である。

カミーユは魔法の杖を掲げて構えた。ニジェルからプレゼントされた杖だ。ニジェルはダンスの練習をするようになってから、カミーユに目をかけるようになった。

カミーユはニジェルの優しさが、イリスに頼まれてカミーユを勝たせるためなのだと知っている。そう知りながら、ニジェルが自分を見てくれないかと、少し期待してしまうのだ。

聖なる乙女になったら、ニジェルさまは喜んでくれるかしら。

カミーユはいつしか夢見るようになっていた。イリスの望みを叶え、カミーユが聖なる乙女になったら、ニジェルに認められるのではないか。

初め聖なる乙女になりたかったのは、自分の居場所が欲しいための消去法だった。下町に帰れないなら、聖なる乙女として貴族の中に居場所を作るしかないと。でも今は違う。

イリス様のように自然と人を助けることができる、そんな人間になれたなら、少しは振り向いてくれるかなぁ。

カミーユは震える瞳で舞台の下を見る。たくさんの群衆の中に、キラキラと光る緑の髪が見えた。

ニジェルさま……。

ニジェルがいるだけでホッとしてしまう。イリスといい、ニジェルといい、あの緑には魅了の魔力が溢れているとしか思えない。

ニジェルがカミーユをみて、大丈夫、そう笑った。

聞こえなくてもカミーユにはわかる。

ニジェルさまが言うんだから、大丈夫!

カミーユは白百合を傷つけないように、ふわりと空中に魔法陣を描いた。そこへ太陽の光を集め、氷を解かすのだ。

温かい日差しで氷がきらめき、影がプリズムのように輝く。陽炎が立ち上り、白い蒸気が空へ上がる。あれよあれよという間に溶けていく。白百合は、スックと立ったまま、雫を浴びて綺麗に輝いていた。

カミーユは水にぬれた白百合を丁寧に両手で掲げ、ニジェルに向かって深くお辞儀をした。

ワッと歓声が沸き上がる。

恐る恐る顔をあげたカミーユは、歓喜の群衆の中にニジェルを見た。眩しそうに目を細め、拍手をしている。

カミーユはそれだけで嬉しくて満足した。

白百合を学園長へ渡せば、学園長は満足げに頷いた。