軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41 敵情視察デート 1

レゼダはウキウキとして女子寮の前でイリスを待った。

約束の時間より少し早い。

女子寮のカーテンの間からは、コソコソと女生徒たちが様子をうかがっている。なにしろ、みんなの注目の王子様が女子寮の前に『待たされて』いるのである。しかも、平民のような質素な服装だ。

相手が誰なのか興味津々になってもしかたがないだろう。

暫くして、髪を隠すためスカーフで頭を包んだイリスが現れた。町人に紛れやすいシンプルなコットンのブラウスとスカートに、編み上げのブーツだ。子供の頃からイリスは街に行くときはこうやって髪を隠していた。ミントグリーンの巻き髪は目立つからだ。

しかし、イリスは隠したつもりになっていたが、前髪やまとめた後ろ髪がスカーフから漏れていて、実際のところはあまり効果がない。

それでも頑なにそのスタイルを通すイリスをレゼダは可愛らしいと思って、思わず頬が緩む。

これで変装のつもりなんだから。

レゼダは帽子をかぶってはきたが変装のつもりはない。ただ、イリスを街に誘う時、初めからデートと言うと断られる。だから、理由をつけるのだ。子供の頃はワクチンの様子を、今日は隠れてカミーユの様子をと。

そのために変装をしている態をとる。

「イリス、良く似合ってるよ」

「殿下もとてもお似合いです」

二人でニコリと笑いあい、連れ立って歩き出す。イリスは女子寮の中のどよめきに気が付いていなかった。もちろんレゼダは確信犯である。

辻馬車を止めて、街へ向かう。

イリスは久々に出てきた街の中心である。中心に時計台のある広場を円形にお店が囲んでいる。ここが商業の中心だ。

学園で日々を過ごしているうちに新しいお店もたくさんできていた。

カミーユのオイルを買って、新しいお店を見て歩く。

あ、あのお店ニジェルとカミーユがネックレスを買うお店ね! 新しいお店だったんだ。

あっちはシティス様がカミーユを連れて行ったレストラン。これも新しいお店だわ。殿下とカミーユは、そうそうあの雑貨屋さん。あそこも新しいのね。

みんなカミーユのためにデートコース練ってたのね。あー、想像すると、ニヨニヨするわー。

イリスは『ハナコロ』聖地の様子を堪能した。

できればカミーユとセットで見たかったけど、それは強欲かしらね。

「イリスはどこか行きたいところがある?」

突然レゼダに手を引かれて驚いた。

「新しいお店がたくさんできていてびっくりしました。街の様子も変わりましたね」

「……土痘の流行で店が立ち行かなくなった人もいたからね。そういうところに新しい店が入ったりしているそうだよ」

レゼダは少しだけ寂し気な目で町並みを見た。

新しい店は活気があって楽しいが、そこには失われたものがあるのだ。ワクチンの普及は完璧とは言えなかった。大流行とは言えずとも、土痘はそれなりに厄災をまき散らしたのだ。

新しいものの数は、失ったものの数でもあった。

イリスも同じ様に救えなかったものに思いをはせる。

でも、殿下も言っていた。私たちは前を向くの。だから!

そう思い、イリスはレゼダの手を強く握って、少し乱暴に引いた。

レゼダは驚いてイリスを見みる。イリスはニッコリと笑って、屋台のアイスクリーム屋さんを指さした。

「でもアイスクリーム屋さんはそのままです! 行きましょ!」

イリスはレゼダを引っ張るようにして駆けだした。

馴染みのお店がつぶれなかったことが嬉しいのだ。

そんなイリスの様子をレゼダは愛おしく思う。二人の想い出の場所が残っていてくれて嬉しかった。

「おや、ミントちゃん、チェリーくん」

屋台のおばさんも覚えていたらしい。

チェリーくんと呼ばれレゼダは不満そうだが、イリスはミントちゃんと呼ばれることに抵抗はなかった。

ワクチンの接種をはじめたころから、レゼダとイリスは魔導宮の見習いとして身分を隠し、下町で手伝いをしていたのだ。名前を伏せるために、咄嗟にパヴォがつけた名前が下町では定着してしまった。

ミントはともかくチェリーはないよ、とレゼダは思う。

「疫病がおさまってから見かけなかったけど元気にしてた?」

「はい! おばさんは?」

「見た通りピンピンよ」

アイスクリーム屋の女将は巨体を揺らして豪快に笑う。

「チョコミントとストロベリーだっけ?」

「私はいつも通りストロベリー! チェリーくんは?」

「僕もチョコミントで」

「じゃ、これはオマケね」

アイスクリーム屋の女将は、それぞれのアイスクリームにハートのクッキーを刺してくれた。

これ見たことあるー! 殿下とカミーユが食べてたやつー!! 聖地巡礼楽しすぎる。

イリスは浮かれた。

「最近流行りのお店のクッキーなのよ。ミントちゃん、カミーユちゃんのオイル使ってたわよね。その子が最近バイトしているカフェのクッキーよ」

「同じ方なんですか?」

「そうよー。なんか、学園に入学したんだけどね、お休みの日はバイトだとかで街に来てるのよ。平民から聖なる乙女なんてねぇ、すごい子よねぇ」

カミーユの人気集めは順調に進んでいるらしい。イリスは安心した。

「それで、これを使ってカップル限定メニューだしてるの。カミーユちゃんのアイデアよ」

屋台の看板には「カップル限定アイラブクリーム」というポップが飾られている。

「あの、私たちカップルじゃ」

「ありがとうございます!」

言いかけたイリスをレゼダが遮る。

「折角の好意、おばさんに悪いよ」

こそっとレゼダが耳打ちし、イリスはそうかと思う。

レゼダとイリスは慣れた様子でアイスを食べながら歩き出した。子供の頃、下町で魔導宮の手伝い後に二人でご褒美として食べていたアイスクリーム。他にも屋台の食べ物は食べ慣れていた。

そこでイリスはハッとした。

うわぁ……。そうだ、ゲームのレゼダ王子はアイスの食べ歩きなんてできなかったんだ。ヤバい、殿下普通に食べてる。このまま行くとカミーユとのデートイベント台無しじゃない?

ゲームではアイスクリームを食べたいといったレゼダ王子にカミーユがアイスを奢るのだ。慣れない食べ歩きに、鼻先にクリームをつける殿下。そのクリームを拭って食べちゃうカミーユに、照れ臭くなった殿下がカミーユのハートクッキーを横取りして食べちゃって、ションボリするカミーユに言うのよ。「僕のハートをあげる」って。きゃぁぁぁぁ! 大・歓・喜!

一人、ゲームのストーリーを思い出し赤面するイリスである。