軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百四十七話 第八皇子レオナルト

「うっ……」

意識を失っていたレオは体の痛みで意識を覚醒させた。

体を強く打ったからだろう。全身が痛い。

それでも無事で済んだのは、庇われたからだ。

「ノワール……」

レオの傍には傷ついた黒い鷲獅子がいた。

レオ以上に重傷だ。息はあるが、もう戦えない。

ノワールが身を挺したため、レオは無事だった。

とはいえ、レオも無傷ではない。

「ぐっ……」

体のあちこちが痛む。

立ち上がろうとして、痛みで膝をつく。

「レオ!!」

レオの名を呼び、駆け寄ってきたのはレティシアだった。

レティシアはノワールとレオが無事であることを確認すると、泣きながらレオを抱きしめた。

「よかった……」

「レティシア……」

「すぐに治療します。ジッとしていてください!」

「いや……行かないと……」

レオはなんとか剣を杖代わりにして立ち上がる。

だが、前には進めない。

けれど、視線は空に向かっていた。

空で互角の戦いを繰り広げるアルとダンタリオンに。

「兄さんが……まだ戦ってる……」

「無茶です! そんな体で何ができるのですか!?」

「けど……」

「行っても足手まといです! 今のアルノルト皇子と共に戦えるのはエルナ様くらいです!」

レティシアの言葉は正しい。

人類の最高峰。

SS級冒険者よりもさらに高みでアルは戦っている。

ほとんどが足手まとい。

負傷したレオならばなおさらだ。

もう、共に戦えない。

その事実にレオは打ちひしがれた。

そう思ってしまったら、足から力が抜ける。

どうして、自分はこうなのだろうか。

大事な時に助けてあげられない。

ダンタリオンの言葉が脳裏によみがえってくる。

兄の庇護下でしか何もできない者。その通りだ。いつも庇護下だった。

兄の協力がなければ何も成せない者。そうだ。いつも協力してもらっていた。

貴様と兄の間にあるのは、弱き者が強き者に向ける憧れと、強き者が弱き者に向ける憐憫だ。

そうなのだろうか?

たしかに憧れていた。兄のようになりたいと思っていた。

長兄と共に目標だった。

常に先を歩いているから、追いつこうと必死だった。

自慢だった。心の底から。

けれど、逆はどうだろう?

自慢の弟だっただろうか?

手のかかる弟で、同じ双子なのに兄のように何でもできるわけじゃない。

困難に際して、常に助けてもらっていた。

困ったら助けてくれたから。

いつもどこかで助けを期待していた。

「僕は……おまけなのかな……?」

呟き、レオは下を向く。

そこには汚れた人形が落ちていた。

壊れた帝都の家の中。

そこには確かに民の生活があった。

だが、自分が弱いから守ってあげられなかった。

ささやかな幸せも守ってあげられない。

弱い自分。

一番助けを必要とするときに、兄の助けになれない情けない自分。

自然と涙がこぼれてくる。

誰もが不出来な兄と呼んでいた。

そうではないとわかっていた。自分だけはわかっていた。

不出来なのは自分のほうだ。

「僕は……どうして……」

兄と同じような才能を持ち合わせていないのだろうか。

隣に立つこともできないなら、何のために双子として生まれたのだろうか?

常に一緒だったのに。

一緒にいたいのに、何もしてあげられない。

「レオ……」

「あとは……兄さんに任せるべきなのかな……?」

そうしたくはない。

けれど、そうせざるをえない。

下を向きながら、レオは心にもないことを呟いた。

天才の兄を持つ弟の苦悩を誰も知らない。

その気になれば何でもできる兄が傍にいる。負けないように努力することの辛さを誰も知らない。

これで大丈夫というゴールはない。

常に先を走る兄に追いつくことはない。引き離されないようにするだけで。

常に自分は全速力。息ができなくなり、焦燥感が募る。

それでも、それでもと追いすがる。

背中を見失ったら、どこか遠くにいってしまいそうだから。

自分だけは見失ってはいけないと思ったから。

『――前を向け。お前が救いたいと願う人もお前の救いを待つ人もお前の足元にはいない』

声がする。

それは懐かしい声だった。

『傍にいてやれ。お前ならそれができる』

もう一人の声も懐かしかった。

左右の肩にそっと手が置かれた。

「ヴィルヘルム兄上、エリク兄上……」

顔をあげると二人の兄の姿があった。

二人は同時に空を指し示す。

二人の意図することを察したレオはゆっくりと右手を空に伸ばした。

アルとダンタリオンのさらに上。

それはある。

「ごめん……エルナ……少し借りるよ」

深く息を吐いたあと、レオは呟いた。

「我が声を聴き……」

■■■

空で聖剣を振るっていたエルナは、突然、聖剣が輝いたことに驚いていた。

「誰かが聖剣を求めてる……?」

門周辺の戦いは劣勢だった。

門が徐々に広がっていたからだ。

理由はアルがどんどん力を解放していたから。

周囲に亀裂は入らない。

その代わり、もっとも大きな亀裂といえる門がどんどん拡大していた。

そんな中、奮戦していたエルナだが、その手の聖剣が輝き出した。

理由を察したエルナはため息を吐く。

この状況で聖剣を求めそうな人物はそうそういない。

そして召喚できそうな人物もそうそういない。

ただ、思い当たる人物はいた。

フッと微笑み、エルナは空に聖剣を投げた。

「しょうがないわね、レオ」

聖剣は光となって、帝都に向かっていく。

徒手空拳となったエルナは、ため息を吐いた。

「さて、どうしようかしらね……」

さすがに剣なしで悪魔たちを相手にするのは骨が折れる。

そんな風に思った時。

剣が飛んできた。

咄嗟にそれを受け止めたエルナは、不思議と手に馴染むその剣を見て、微笑む。

「いいのかしら?」

「五百年……鍛え抜いた名剣です。あなたに貸してあげますよ」

「あなたはどうするの? イングリット」

「鍛え抜いた拳は聖剣にも勝ります」

ずいぶんと脳筋な答えだ、と思いつつ、エルナは軽く冥神を振る。

思ったよりも軽い。

これならそれなりに戦えそうだ。

けれど、劣勢を挽回するのは難しい。

「さっさと決着つけなさいよ、アル、レオ」

■■■

「我が声を聴き……神醒せよ……」

共に戦えるのがエルナだけならば、エルナのようになればいい。

いつだってエルナはアルの傍にいた。

共に戦える力を持っていた。

エルナに任せておけばいいと思っていた。

けど、違う。

自分もそうならねばならないのだ。

「輝ける聖なる神剣……」

できるかはわからない。

ふさわしいとは思わない。基準がエルナだから。

けれど、今はこの身に流れる勇者の血を信じるしかない。

兄と共に戦うために。

「勇者が今、奇蹟を必要としている!!」

光がレオの手に落ちてくる。

それは強く、強く輝いて。

剣の形をとった。

神々しい光を放つその剣を手にしたのは初めてだったが、なぜだか懐かしさを感じた。

いつも幼馴染の手にあった剣を見つめて、レオは目を細める。

それは幼馴染のエールだから。

確かに受け取って、しっかりと構える。

「神聖剣・ 極光(アウローラ) ――最終解放」

力がみなぎる。

体が痛かったのが嘘のようだ。

そんな中でレオは後ろにいるレティシアを振り返った。

驚いた表情のレティシアに、レオは語り掛ける。

兄の良さを理解しながら、自分を選んでくれた稀有な人に。

「僕は兄さんのおまけなのかもしれないけど……おまけが好きな人もいるから。兄さんに負けないようにしないと。待っていて。すぐ終わらせてくるから……そしたら」

城で一緒に暮らそう。

それだけ告げるとレオは空へと飛び上がる。

そして。

「馬鹿な……」

皇剣と聖剣。二本の剣を構えるレオを見て、ダンタリオンは思わずつぶやく。

その剣を持つ者がエルナ以外にいるはずがないからだ。

「帝国第八皇子……レオナルト。改めて、〝僕ら〟の相手をしてもらうよ。ダンタリオン」