作品タイトル不明
第七百四十六話 威勢
心を乱してくる相手に対して、無心で攻撃する。
言葉にすれば簡単だが、やるとなると難しい。
なにより無心での攻撃は単調となる。
すべて無意識化の反応でやっているからだ。
「その程度で……私を倒せると思っているなら笑わせる」
二人でどうにか顔を殴るところまではいった。
けれど、ダンタリオンはそれじゃあ倒せない。
無心で攻撃し続けるが、それではダンタリオンの防御は破れないのだ。
「はぁぁぁぁっっ!!」
レオが気合と共に剣を振り下ろすが、それは体に染みついた動き。
フェイントもなく、単調な攻撃。
あっさりと受け止められてしまう。
その隙に俺は魔力弾を放つが、それらはすべて羽に受け止められてしまう。
「二人には絆があると言ったな?」
距離を置いた時。
ダンタリオンは喋り出す。
とてもつまらなそうに。
「それがどうした?」
「その絆で私に勝てるか?」
「勝ってみせるさ」
「できるのか? 足手まといの弟を抱えて」
「足手まといと思ったことはないが?」
「貴様がそう思っていようと、純然たる事実としてレオナルトは私の脅威にはなりえない。脅威なのは貴様の剣だけだ。アルノルト」
「そう思うなら、そう思っていろ」
言葉を返し、深く息を吐く。
考えないで攻撃するのは精神がすり減る。
攻撃も防御も刹那の瞬間に行っているからだ。
どういう攻撃をするか、という準備もないし、どういう防御をするか、という準備もない。
すべてがぶっつけ本番。
けれど、それしかダンタリオンに対抗手段はない。
なぜならアードラーの血すら突破してくるからだ。
磨き抜かれたアードラーの血を持つ者に対して、精神的な影響を与えるなんて生半可なことではできない。
ましてや俺とレオで防御できないなら、誰も防御できない。
これで突破するしかない。
ただ、考えないということは猪突猛進ということ。
そういう戦い方をする以上、力押しで勝つしかない。
どうにかダンタリオンの防御を正面から崩さないといけない。
そんな風に思っていると、ダンタリオンが動いた。
当たり前の話だが、こちらの攻撃を待ってくれるわけがない。
連携攻撃は来る前に潰せばいい。
レオに肉薄すると、ダンタリオンは剣を振り下ろす。
「くっ!!」
「兄の庇護下でしか何もできない者。兄の協力がなければ何も成せない者。それが貴様だ、レオナルト。おまけが絆などとほざくな。貴様と兄の間にあるのは、弱き者が強き者に向ける憧れと、強き者が弱き者に向ける憐憫だ」
レオの剣が弾かれる。
そしてダンタリオンはレオをそのまま蹴り飛ばした。
その一撃はすさまじく、レオは乗っていた黒い鷲獅子ごと帝都にたたきつけられた。
多くの家が倒れ、土煙が広がる。
けれど、その間に俺はダンタリオンの懐に潜り込んできた。
レオを排除することを優先したダンタリオンは、俺への反応が遅れる。
首を狙った攻撃は、ギリギリで避けられて頬をかすめる。
「お前の血も赤いんだな?」
「弟がやられたのに悠長なことだ。私の血の色のほうが気になるか? 心配なら駆けよってはどうだ? 待ってやってもいいぞ」
「笑わせる。心配なんかしてないさ」
「これまで貴様はレオナルトを優先して行動してきた。信じていると言ったところで、それは貴様が大丈夫と判断したラインで好きにやらせているにすぎん。すべては貴様の手の平の上。絆などとほざいても、やっていることは駒を動かすのと変わりはない」
「何とでも言え。お前に理解してもらおうとは思わない」
「駆けよらないのは私の言葉を認めたくがないため。駆けよれば、足手まといと認めてしまうからだ。意地になるな。貴様は孤高だ。双子の弟といえど、隣には並び立たない」
「ほかに言うことはないか?」
「人として孤高であることを理解し、寂しいからこそ、弟を隣に立たせてきた。上手く育て、自分に並び立っているように見せてきた。貴様はそうやって自分は孤高じゃないと誤魔化しているだけだ。貴様にとって弟は愛玩人形と変わらん。慰めになっても、助けにはならない」
静かに俺は剣を構える。
周囲の銀属性の魔力を吸収し、より威力を高めた剣はダンタリオンにとっても脅威だ。
どうにか叩き込めれば倒せる。
ただ、策を練れば策にはめられる。
厄介な相手だ。
とはいえ。
心を乱す相手ではない。
「お前がどうレオを評そうとお前の勝手だ。好きに言えばいい。同意も否定もしない。俺にとってはどうでもいいことだ」
「強がりだな」
「強がりだと思うか?」
「足手まといが消えたせいか、さきほどより活き活きとしているように見えるぞ?」
「俺が活き活きしているというなら、お前が俺たちを常に見誤っているからだろうな」
同時に突進し、剣が交差する。
隙はできない。
だから、全方位から魔力弾を放つ。
羽がダンタリオンを覆い、そして防いだ後に広がる。
ダンタリオンは俺の剣を警戒するが、俺はダンタリオンの腹部に手を押しあてた。
≪――シルヴァリー・ライトニング≫
銀色の雷光が零距離でダンタリオンに直撃した。
羽以外では魔力を吸収できない。
体が接しさえすれば、羽が介入する前に魔法を当てられる。
剣を警戒させているからこそ、できる攻撃。
けれど、強い魔法を撃つ溜めの時間は作れない。
「ぐっ……!!」
「どうした? 苦しそうだぞ? ダンタリオン」
「なぜ無心で高度な攻撃ができる……?」
「なぜだろうな?」
俺の戦闘はアドリブばかりじゃない。
むしろ、アドリブのほうが少ない。
戦闘センスがあるほうじゃないから、常に用意していたプランがある。
こういう敵が来たら、こういう風に対応しよう。
だいたいは想定していたプランを少しアレンジして、使用するのがお決まりだ。
遠距離から魔法を防ぐ相手にも、もちろん考えてある。
幾度も、幾通りも。
それを無意識化で使っているだけだ。
魔法が効かない相手など、いくらでもいる。
そのたびに驚いていたら、誰も守れない、誰も救えない。
努力は嫌いだ。
けれど、それ以上に何もできないのは嫌いだ。
だから必要と思ったことはやってきた。
「お前は必ず討つ、ダンタリオン」
「討てるものなら討ってみろ! 威勢の良いことはもう少しダメージを与えてからにしてもらおうか!!」
「それならお望みどおりにしてやる」
正面からの力押し。
それさえ決めていれば、やつの権能には引っかからない。
躊躇う余地がないからだ。
右でも左でも、上でも下でもない。
正面から俺はただ技を放った。
かつて目にした技を。
「奥義――星刻」
剣によって、五芒星を描く。
勇爵家に伝わる奥義。
通常時ならとてもじゃないが使えない技だが、フォース状態なら再現可能だ。
見て、原理は理解できる。
それをすぐさま実行できる身体能力や、センスがないだけのこと。
しっかりと練習してさえいれば。
身体能力が追い付いたなら真似できる。
俺は五芒星の中心を突きながら突撃していく。
真正面からの攻撃。けれど、避けるには速すぎる。
ゆえにダンタリオンは同じく突きで相殺しにかかった。
だが、ダンタリオンの剣は衝突と同時に砕け散り、軌道の逸れた俺の剣はダンタリオンの横腹を深くえぐった。
即座にその場を離れると、今まで俺がいた場所に羽が攻撃を仕掛けていた。
「どうだ? 俺の威勢は認めてもらえたか?」
「貴様は……なんだ?」
「帝国第七皇子アルノルトだと名乗ったはずだが? 何度も言うぞ? お前はここで討つ……!!」
「いくら貴様でも無理だな!」
そう言ってダンタリオンは傷を瞬時に治す。
そんなダンタリオンと俺は幾度も剣を交差させる。
その戦いはまったくの互角だった。