作品タイトル不明
第七百三十話 美しき流星
帝都周辺。
シルヴァリー・レイによって多くのモンスターが倒される中で、続々と援軍が到着していた。
「なにが起きているんですの!? 大混乱ですわ!?」
援軍はない。
そう伝えられていたミアは、前線で戦いながらシルバーの登場に驚いていた。
そんな中、蛇のような巨大なモンスターがミアに接近する。
ミアは迎撃のために魔力の矢を放つが、つるりと滑ったように矢は逸れていく。
「そんな馬鹿なですわ!?」
ミアは接近戦に意識を切り替えるが、その必要はなかった。
一本の矢がその蛇を貫いたからだ。
「先端に魔力を集中させろ。生半可な矢じゃ通じないぞ」
「弓神!? 来てくださったんですわね!」
「来るさ、そりゃあな」
ジャックはミアにそう答えつつ、気持ちを集中させる。
これが最後だ。
否、最後にする。
これ以上、戦う力は人類にはない。
ここで決着をつける必要がある。
今こそ、SS級冒険者の真価が問われる。
「早いな……」
空を見上げながら、ジャックは呟いた。
空に開いた門より巨大な力を持つ奴らが出てきた。
その姿は異形。
依代を必要としない本来の姿の悪魔たちが出てきたのだ。
五百年前、大陸の人類を滅ぼす寸前までいった悪魔たち。
それと同種の者たちということだ。
深く息を吐くと、ジャックはミアに告げた。
「ミア……帝国は好きか?」
「突然なんですの!? 怖いですわ! けど、好きですわ! この国の人に何度も助けられてきたんですの!! 今度は私が助ける番ですわ!!」
「そうだな……その通りだ」
どんな思いであの皇子が戦っているのか、戦ってきたのか。
想像するのも難しい。
けれど、幾度も人を救ってきた。
それだけは確かで。
今、手助けを必要としている。
ならば助けるまで。
「あんまり熱くなるのは好きじゃないんだがな」
戦闘中に熱くなれば隙が生まれる。
後方支援をする弓使いは冷静でなければいけない。
周りをサポートするのが本質だ。
けれど。
「たまにはいいか」
ジャックは門に向かって弓を構えると、最高威力の矢を放った。
空に向かって巨大な一条の光が走り、門から出てくる悪魔やモンスターたちがダメージを受けた。
そして。
「ミア、下がってろ。今日は周囲を気にするのをやめるからな」
「一人では厳しいと思いますですわ!!」
「安心しろ。俺は強い」
言葉と同時にジャックを危険視した悪魔が、ジャックの傍に着地した。
それを見て、ジャックは笑みを浮かべて走り出したのだった。
■■■
「困ったわねぇ」
「まずは悪魔を排除しましょう」
悪魔の出現が早かった。
結界を破壊することに集中すれば、悪魔たちをフリーにしてしまう。
エルナやオリヒメも悪魔たちを止めるために動き出した。
リナレスやイングリットも動かねばいけない。
だが。
「結界の破壊が遅れれば、すべてが後手後手じゃ。悪魔の数がこれ以上増えたら、破壊するのは困難じゃぞ」
「そのとおりね」
エゴールとリナレスの考えは一致していた。
結界が存在するかぎり、帝都への侵入は難しい。
悪魔は門から続々と出てくる。時間はかけられない。
帝都に籠る黒幕を討伐し、門を閉じる。それしか道はない以上、結界の破壊は遅れてはいけない。
しかし、もはや一斉攻撃のタイミングを作り出すのは難しい。
だから。
「エゴール翁、イングリット。結界の破壊は私に任せてほしいわ」
「一人では無理です」
「……策があるのかのぉ?」
「一つだけ。取っておきたいけれど、ここが一番輝きそうね。ただ」
「ただ?」
「使えば私も無事じゃ済まないわ。その後のことを任せてもいいかしら?」
「そんな……」
「……すべて任せろ」
古くからSS級冒険者として君臨してきたエゴールとリナレス。
二人には不思議な信頼関係があった。
イングリットは心配そうにリナレスを見つめるが、リナレスは笑いながらイングリットの頭を撫でた。
「心配しなくても死んだりしないわ。そんな顔されたら困るわ。安心させてちょうだい」
「……あとのことは……任せてください」
「その意気よ。今のあなたになら……安心して任せられるわ」
そう言うとリナレスは一気に空へ飛んだ。
高く、高く、空へと。
だが、それを阻止しようとする者がいた。
「人間風情が何をする気だ?」
巨大な孔雀の悪魔。
それがリナレスの邪魔をしようとする。
だが、それをイングリットが阻止した。
「邪魔はさせません!」
「限りある命しか持たない雑魚が邪魔をするな! 貴様らは醜く不完全なのだ! 大人しく! 我らに支配されておけ!!」
魔王の敗戦から五百年。
鬱憤は悪魔にも溜まっていた。
ようやく訪れた再戦の機会。
今か今かと待ちに待った。
魔王の敗北は何かの間違い。悪魔の敗北ではないと。
それゆえに孔雀の悪魔は邪魔しにきたイングリットを倒すことを優先した。
その間にリナレスは雲の上まで登っていた。
しかし、そこで止まらない。
普段は使わない魔法を使って、リナレスはさらに上を目指す。
やがて成層圏に入ったところでリナレスの上昇は止まった。
人間が生息できる場所ではない。
けれど、リナレスには問題なかった。
そういう風に鍛え上げたから。
「醜く不完全……確かにその通りね」
そういう見方もあるだろう。
実際、人類は愚かで、戦いばかりだ。
けれど、それでも。
「人類は美しい……奇跡の愛によって生まれた私は……人類を愛する義務がある!!」
奇跡は簡単には起きない。
けれど、奇跡は存在する。
リナレスの父は、三百年の間生き続けたアナクレトの息子。
三百年も生き続けた人間が生殖能力を保持していたことも、そしてその者が一人の女性を愛し、二人の間に子供ができたことも。
美しい愛の奇跡だ。その結果がリナレスだった。
だから自分は美しい。だから人類は美しい。
たとえ散る定めでも。
たとえ儚い生命でも。
それでもと足掻く姿こそが人類の本質。
巨大な魔法陣がいくつもリナレスの前に出現した。
それは一つの砲身を形成していく。
「――散りゆくからこそ美しい、未完成だからこそ期待できる、より先へ、より早く。前へ、前へ。人類は歩みを止めない。一人が道半ばで倒れたとしても、次へとバトンが繋がっていく。愛おしく、美しい。ゆえに……壊れぬ結界などあってはならない! 人類が愛すべき存在であると! 進化し続ける存在であると! 声高らかに宣言するために!! 人類の最高峰! アードラーが作り出した帝都の守り! たとえそれが人類が作りだした最高傑作だろうとも! 壊せぬモノがあってはならない!! 時代は進む! 過去の積み重ねが今に至り、未来が今を超える!! 不変なものはない! 人は変わっていく! 技術も文化も精神性も!! それでも!! それが人類!! 変化し、進化し、けれど大切なことは受け継ぐ。それこそ刹那の種族の矜持と知れ!!」
いくつもの魔法陣によって巨大な砲身が完成した。
長大なそれが狙う先は帝都。
リナレスは右足を突き出した飛び蹴りの形を取り、魔法陣の最後方へ位置する。
そして。
「この肉体は人類最強の槍となる! わが身は人類の最高傑作! 金剛の肉体はこのためにあり!! 磨き上げたのは人類のため! 進化の道を阻む壁を貫くため!! ならばこそ――帝国最硬、相手にとって不足なし!!」
アードラーほど人類らしい一族はいない。
諦めず、足掻き続ける一族。
その一族が作り上げた帝都の守り。
壊せぬと誇るなら打ち砕くまで。
人類は可能性に満ちていると証明するために。
不変に胡坐をかく者たちに見せつけてやろう。
人類に不変なし、と。
「超電磁投射魔法――アナクレト!!」
祖父が遺した最期の魔法。
それは使用者を殺人的な加速で打ち出す魔法。
使用者のことなど考えていない。
魔王にも通じる一撃。
それを繰り出すための魔法だ。
使える者などいなかった。
砲身はあれど、打ち出す球がなかった。
だから、その球に成った。
祖父の努力もまた無駄ではなかったと証明するために。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
空から墜ちる流星のようにリナレスは雄たけびと共に大気を裂き、雲を裂き、そして空を裂いて、帝都へと向かう。
異変に気付いた悪魔たちが迎え撃とうするが、それぞれが行く手を強者たちに阻まれた。
道は開いている。
流星となってリナレスは帝都を守る天球へと衝突した。
巨大な力と力。
ぶつかり合いにより、轟音と爆風が起きる。
しかし、天球は頑強に抵抗する。
それをリナレスは笑いながら力をこめた。
「しゃらくさい!!!!」
壊れないものなどないのだ。
巨大な帝国もいずれは亡びるだろう。
長寿のエルフもいずれは命を失う。
けれど、だからといって無意味なことはない。
すべては繋がっていくのだから。
一際大きな光のあと、リナレスは吹き飛ばされて、地面を何度も転がった。
泥だらけになりながらも、リナレスはゆっくりと体を起こす。
もはや右足は機能しない。
炭化し、真っ黒となっている。
それでもリナレスは左足一本で立ち上がった。
そのまま威風堂々と腕を組む。
「――帝国最硬、破れたり」
帝都を覆う天球はガラスのように割れて、粉々となって落ちていく。
その中から二人の黒い青年が飛び出てきた。
鳥かごは壊れ、二羽の鷲が羽ばたいた。
その様子を見ながら、リナレスは満面の笑みを浮かべたのだった。