軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百二十八話 姉兄帰還

「今更、皇子や皇女が出てきたところで……何も怖くないわよ!」

ズーザンはそう言うと二人に向かって複数の魔力弾を放った。

複雑な軌道を描いて接近するその魔力弾を、ザンドラは同じ性質の魔力弾ですべて撃ち落とす。

爆風の中、ゾフィーアがゴードンの懐に潜り込むが、ゴードンはそんなゾフィーアを一振りで弾き飛ばした。

「記憶よりも強い……?」

「いくら私たちが相性の悪い依代を使っているとはいえ……ありえないわ」

ゾフィーアとズーザンは亡くなっている人物であり、悪魔の依代として適していたわけではない。

ただ、皇帝への心理的攻撃には使えるうえに、人類の中では上澄みの才能を有していた。

ゆえに悪魔の依代として使われた。

強者の肉体を使うことで、相性の悪さをカバーしているのだ。

弱体化していても、悪魔は悪魔。

生前より弱いわけがない。

そしてゾフィーアやズーザンの記憶にあるゴードンやザンドラは、よくて生前の自分たちと互角。

今の一撃を余裕で防げるほどの実力者ではなかった。

「生前と同じと思うのは間違いのようだ」

ゾフィーアはそういうと、剣を構える。

相手がそれなりの実力者であるならば、真面目にやらなければやられてしまう。

ズーザンもその動きを見て、ザンドラに相対する。

「どうやって蘇ったのかしら? ザンドラ」

「教える必要はないわ、お母さま」

「そう言わないでちょうだい。二人で反逆した仲でしょ? 最期はすれ違いも起きたけれど、親子じゃない」

「たしかにあなたは私の母の体を使っているし、記憶も持っている。けれど、私の母は死んだわ。そして……私の父はまだ生きている。娘としてどちらにつくかは考えるまでもないわ」

「あなたを惨たらしく処刑した父親よ?」

「そうね……どんな思いであんな決断をしたのか。考えるだけで胸が痛いわ。だから、お父様に妻までは殺させない。あなたは私が討つ」

言葉と同時に風の魔法が発動した。

互いに風の刃を放ち、相打ちとなると、すぐさま炎の魔法が発動する。

炎の蛇が現れ、絡み合って相殺される。

さらに水の槍が生み出されるが、それも同時。

完全相殺。

相手が防御魔法を使えば、一気に畳みかける気でいたズーザンは驚いたように目を見開く。

先に動いているのはズーザンだ。

にもかかわらず、ザンドラは同じ魔法ですべて相殺した。

どうなっている?

そんな疑問の中で、何かがズーザンの顔に迫る。

咄嗟に顔をひねることで避けるが、頬が裂けて血が流れた。

それは鞭だった。

魔力で作られた鞭。

ザンドラはそれを引き寄せながら告げる。

「悪魔が大したことないのかしら? それともお母さまかしら?」

「このっ……」

■■■

ゾフィーアとゴードン。

どちらも剣技に長けているが、純粋な技術の部分ではゾフィーアが上だった。

ゴードンは力に頼る傾向があり、完全にゾフィーアの技術を受け継ぐことはなかった。

それでもゴードンはゾフィーアにはできない力に頼った攻撃ができ、それでよいと思っていた。

だが。

「くっ……!」

ゾフィーアは一対一の形式ならばゴードンに負けないと踏んでいた。

その記憶がはっきりとある。

ゾフィーアはゴードンに負けないと思っていたのだ。

けれど、ゴードンの攻撃を受けるたびにゾフィーアの剣は弾かれる。

技術で受け流せるはずだった攻撃が、受け流せない。

想像以上の威力なのだ。

「どういうことだ……?」

「戦場での戸惑いは死を招く。そう教えたのは母上だぞ?」

ゴードンは真上から剣を振り下ろした。

その一撃をゾフィーアは受け流そうとするが、威力も速さも記憶にあるゴードンの攻撃を上回っている。

受け流せないと察して、ゾフィーアは地面を蹴って後退した。

距離を空けることで、なんとかゴードンの攻撃を避けたのだ。

そうまでしないと避けられなかった。

一体、ゴードンに何が起きているのか?

ゾフィーアには理解できていなかった。

ただ、特別なことをゴードンはしていなかった。

鍛え上げられた肉体による力押し。

それは変わっていない。

変化があるとすれば、強化の魔法を使っていることくらい。

それも生前から使えた。

けれど、ゴードンはあまり魔法の素質はなかった。

だからこそ、戦闘に取り入れられるレベルにはならなかったのだ。

しかし、今は戦闘に使えている。理由はルーペルトの体に憑依しているから。

魔力量、魔法への適性。

どれもルーペルトのほうがゴードンより優れているのだ。

もちろん、剣術の才はゴードンのほうが圧倒的に上だ。

だが、今は憑依したゴードンが剣術の才、戦闘経験の部分をカバーできる。

互いに足りない部分を補っているのだ。

それはザンドラも同様だった。

持っている魔力の総量。そして先天魔法の存在。

それらはクリスタが持っている資質であり、今はザンドラがそれを使うことができた。

クリスタではコントロールしきれない膨大な魔力と予知。

ザンドラならば有効活用することができた。

「ゴードン、動きを止めなさい」

「命令するなと言いたいところだが……承知した!」

ズーザンとゾフィーア。

二人に向かってゴードンは突っ込んでいく。

一人で突っ込んできたゴードンに対して、ズーザンは魔法を放つが、ゴードンはそれを剣で切り裂いた。

そのまま、ズーザンに剣を向けるがゾフィーアが間に入る。

「やるな、母上」

「生意気な……!」

自分の攻撃を受け止めたゾフィーアに対して、ゴードンはそう告げる。

だが、その間にズーザンが横に回り込んでいた。

「死になさい!」

「ふんっ!!」

ズーザンの魔法。

それをゴードンは片手で弾いた。

もちろん生身ではない。

腕には結界を纏わせている。

それは高度な技術だ。

時間をかけて展開するならまだしも、今の一瞬でそれをするにはそれなりのセンスがいる。

そしてそのセンスをゴードンは持ち合わせていなかった。

しかし、できている。

そのことにズーザンは目を見開く。

「なっ!?」

「終わりか?」

「くっ!!」

剣がズーザンへと向けられる。

ズーザンは結界で剣を防ぐが、剣は徐々に結界に食い込んでいく。

魔力で剣を強化して、切れ味をあげているのだ。

「小癪な!!」

ズーザンは全方位に魔力弾を放ち、ゴードンを退かせる。

そして。

「権能を使うわ! 出し惜しみはなしよ!」

「そうしなければいけないようだな」

相性の悪い体。

わざわざ生前に近い戦い方をしていたのは、それに尽きる。

悪魔からすれば全力とは程遠い力しか出せない。

それでも戦力になるのは、そもそも体が強いから。

つまり、元々、悪魔としての力を出す前提ではないのだ。

権能を使うのはリスクがあった。

わざわざアスモデウスたちが依代を厳選したのは、それが理由だ。

悪魔が悪魔としての力を十全に発揮するには、それなりに相性のよい依代が必要なのだ。

そうではない依代で力を発揮すれば、崩壊の可能性がある。

しかし、今はそんなことを言ってはいられない。

ここで全力を出さなければやられる。

そう判断したのだが。

「切り札の切り方を――間違えたわね」

ゴードンの後ろ。

ザンドラがニヤリと笑う。

同時に巨大な円が地面に浮かび上がった。それは結界。

これから来る破邪の光から何人も逃がさないようにするためのものだ。

≪救済の光は天より降り注いだ――≫

≪人々に救済をもたらすために・その輝きは神の慈悲・その金色は天上の奇跡・魔なる者よ懺悔せよ――≫

≪天は善なる者を見捨てない・この金光は破邪の煌きである――ホーリー・グリッター≫

かつては満足に使えなかった魔法。

対悪魔に絶大な効果を発揮する聖魔法。

短時間の準備でザンドラはそれを完成させた。

空に複雑な魔法陣が浮かび上がり、そしてそこから巨大な金色の光の柱が落ちてきた。

レオが使うものよりも数倍の大きさのそれは、ゾフィーアとズーザンを中心に周辺のモンスターもことごとく浄化していく。

その威力を見て、西側にいた兵士たちの士気が一気に上がった。

誰かは知らない。

しかし、巨大な魔法の発動によって多くのモンスターが倒された。

彼らにとって魔法の発動者は紛れもなく英雄だった。

「ザンドラ……ゴードン……」

後ろから掛けられた声にザンドラとゴードンは振り向かない。

振り向けなかった。

どんな顔をすればいいかわからなかったからだ。

そんな二人の様子を見て、ヨハネスは顔を伏せる。

どうしてと考えるほどの時間はない。

できるなら、語り合いたい。

失った時間を埋めるほどに。

けれど、それは許されない。

だから。

「よくぞ、戻った。護衛は……任せたぞ!」

信頼だけを示した。

かつてのように。

「お任せください……」

「父上の身は我らが守ります……」

二人の頬に涙が伝う。

そのやり取りのあと、ふとザンドラが空を見上げた。

そして。

「あの子も……来たわね」