軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百十九話 誕生秘話

「十三歳の頃、母上の病気を知った。それから一縷の望みにかけて、曽祖父が残した文献で古代魔法を学び始め、適性のある者しか入れない秘密の部屋があることを知った。その部屋の中で、本の中に意識だけ封印されていた曽祖父を見つけ、俺は曽祖父から古代魔法を会得した。けれど、古代魔法じゃ母上を治せなかった。だから、貴重なものと出会う可能性が高い冒険者を始めたんだ。もしかしたら、母上を治せる薬に出会えるかもしれないから」

最初はそれがきっかけ。

ただ、それだけのことだ。

母を救いたかった。

だが。

「ただ、そう思った時はちょうどヴィルヘルム兄上が亡くなった直後だったから。どうにか帝都を落ち着かせるために、帝都を中心に活動する冒険者になった。それがシルバーの誕生秘話ってところだな」

特別なことは何一つない。

同じ理由で冒険者になる者もいたはずだ。

ちょっと規模が違うだけで。

「……」

淡々と説明をする俺に対して、エルナはムッとした表情を見せる。

とりあえず暫定王都の部屋に転移して、結界を張った。

そこで話し始めてからエルナはずっとそんな調子だ。

「シルバー、いえ、アルノルト皇子……聞き間違えでなければ十三の時に学び始めたと言いましたか?」

「そう言ったが?」

ノーネームの質問に俺は頷く。

確かにそういった。

「記憶が確かなら……ヴィルヘルム皇子が亡くなった頃は十五歳……二年で古代魔法を会得したと?」

「まぁ、そうだな。だいたいの魔法はその期間中に覚えた。爺さんが蒐集癖のある人だったからな。文献も道具も十分すぎるほどあった。恵まれた環境だったのはでかい」

本来、古代魔法というのは貴重な文献を見つけるところから始まる。

それがだいたい揃っていた。加えて師がいた。

ありえない環境だ。

文献は手に入らないし、師だっていない。

古代魔法とは本来、そういうものだ。

例外的な魔法を除いて、適性に大きく左右されるのが古代魔法であり、それゆえに使い手が少ない。

使い手が少ないから師がいない。だから独学で覚えるしかないのだ。

本来は。

「俺は恵まれていた」

「そうじゃなくて! お師匠様……二年でSS級冒険者になったの!? というか……十五歳で!?」

「珍しいことじゃない。お前だって大して年が変わらないのにS級だ」

「珍しいよ! 珍しすぎるよ! S級とSS級じゃ天と地ほど差があるんだから!」

「そもそもその経歴を考えれば……あなたが古竜を討伐したとき……ほぼ初陣なのでは?」

「そうだな」

「初陣が……古竜……」

ドン引き。

ノーネームとクロエは揃って同じような表情を浮かべた。

失礼な奴らだ。

よくある話ではないが、SS級になるような奴らならありえる話だ。

SS級の場合、順当にステップアップというほうが珍しい。

突然、わいてきた変異体。そういう位置づけがSS級だ。

それを考えると、俺はまさしくSS級だったんだろう。

「……どうやったら機嫌が直る?」

「……直さない」

直らないじゃなくて、直さない。

エルナの言葉に俺はため息を吐く。

そんな俺を見て、エルナは俺の椅子の肘掛けに腰かけた。

そのまま黙って俺の髪をいじり始める。

巻いてみたり、整えてみたり。

エルナなりに不満の表れなんだろう。

長くなりそうだと思いつつ、俺はされるがままにしておく。

「納得できたなら申し訳ないんだが、アンセムとウィリアムを呼び出せるか? あとはオリヒメか。ここにいる首脳陣には先に伝えておかないとだからな」

「オリヒメにまで教えるの!?」

「黙っているわけにもいかないだろ?」

「むぅ……」

私は不満です。

そんな様子を隠す気もないのか、エルナはさらに髪をいじる手を加速させる。

ちょっと痛いが、我慢するしかないだろう。

それで気が済むなら安いもんだ。

まぁ……これは序の序の序くらいだろうけれど。

■■■

「アルノルトが……シルバーだと……!?」

驚愕の声。

アンセムは体を震わせながら叫ぶ。

当たり前といえば当たり前の反応だ。

一方、ウィリアムは何も言わない。

静かにウィリアムのほうを見ていると、ウィリアムはフッと笑みを浮かべた。

「理由はどうあれ……無事な姿が見られてなによりだ、アルノルト皇子」

「……心配をかけた。申し訳ない」

大人な対応だ。

そういう対応をされると、素直に謝るしかない。

驚く前に俺の無事を祝えるあたり、さすが人格者。

ゴードン兄上の親友をやれていただけはある。

「なんと!? アルノルトがシルバーとは!?」

俺の前までやってきて、オリヒメは驚いた表情を見せた。

けれど。

「……別に意外でもないな。どちらも好みの匂いだったからな!」

そういうとオリヒメは俺の膝の上に乗ってきた。

そして。

「妾はそなたが生きていてくれて嬉しいぞ! アルノルト!」

満面の笑みでオリヒメは告げる。

邪気のない笑顔。

どうやってこれまでのことを説明しようか、と悩んでいたのが馬鹿らしくなる。

だが、別の問題が発生した。

「近いわよ! 離れなさい!」

「むっ!? 邪魔をするでない! 妾はアルノルトの体温を堪能する!!」

「いいから離れなさい!!」

エルナは俺の膝の上にいるオリヒメを引きはがそうとするが、オリヒメは俺にしがみついて抵抗する。

それを見て、なおさらムキになってエルナがオリヒメを引きはがそうとするが、あんまり強くすると俺が椅子から落ちかねない。

だから、力いっぱい引っ張ることもできず、エルナは不満そうに俺を睨む。

「アルからもちゃんと言って!!」

「はぁ……降りてくれるか、オリヒメ」

「アルノルトがそう言うなら仕方ないな」

「私が言ったときに降りなさいよ!」

俺の言葉には聞き分けがいいオリヒメを見て、またエルナが怒る。

そんな二人を見て、ウィリアムは苦笑する。

その隣ではまだアンセムが放心状態だ。

この中だとアンセムが一番予想通りの反応だ。

驚いてほしいわけじゃないが、驚かないというほうが珍しい。

そもそも死んだはずのアルノルトが戻ってきて、実はシルバーの正体でした、と言われて驚かないというのが無理だろう。

ウィリアムも驚いていないわけじゃない。ただ、俺の無事を先に喜んだだけだ。

「やれやれ、やかましい部屋だな、まったく」

「どうだ? 敵の様子は?」

部屋に入って来たのはジャックだった。

俺が許可している人物は部屋に入ることはできる。

音も外に漏れないし、別にやかましくても問題ないのだが、ジャックからすると緊張感に欠けるのかもしれない。

「援軍の様子はない。外に放置している先代ノーネームを回収しにくる素振りもなかったしな」

「敵はこちらを気に掛ける余裕がないか」

「みたいだな。先代ノーネームは回収しておいた。外に氷像があると騒ぎのもとだからな」

「手間を取らせたな」

回収しに来た敵がいるなら返り討ちに。

回収しに来ないなら敵の目がこちらに向いていない証拠。

そのためにジャックという狙撃手を配置したのだが、敵は後者のようだ。

「結界内で帝国軍が上手く戦っているのでしょうか?」

「かもしれないし……俺たちや帝国軍を気にしてもいないのかもしれない」

今は別に集中することがある。

そういうことならこちらへの注意が薄い理由にもある。

ラファエルと先代ノーネーム。

この巨大な戦力による襲撃の成否はどちらでもよい、ということだ。

「まぁ、それでもやることは変わらない。戦力を集中させて、結界を突破する。あれはアードラーなら通り抜けられる代物だったからな」

「アードラーなら通り抜けられる結界……だからすべてのアードラーを取り込んだ。外から入らせないために」

「だけど、ここにイレギュラーがいたってわけだ。そりゃあ死人は人数に入れないわな」

ジャックの言葉に俺は苦笑する。

死んだふりにも意味があった。

そういうジャックなりのフォローなんだろう。

そして、それは実際そのとおりだ。

「敵の虚をつく。ここからは――反撃の時間だ」