軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百三話 私のせい

「調子はどうだ? エルナよ」

王国の暫定王都にて、療養中のエルナの部屋にオリヒメの姿があった。

連合軍はヴィルヘルムと戦うことを決意したわけだが、先の決戦で消耗した者は暫定王都で待機していた。

オリヒメもその一人だ。

竜人族の薬によって、だいぶ回復してきているが、それでも万全ではない。

そういった者はまだまだ大勢いた。

ゆえにオリヒメは暇を持て余していた。

「……いいわけないでしょ?」

ベッドの上。

上半身だけを起こしたエルナは、オリヒメに短く答えた。

返事があったことにオリヒメは笑みを浮かべる。

「少し前は何にも反応しなかったが、今は返事ができるようになったではないか。成長だな!」

「……」

うんざりした表情をエルナは浮かべる。

だが、オリヒメは気にしない。

「人は一歩一歩乗り越えるものだ。焦ってもいいことはないからな!」

「……乗り越えてないわ」

「とはいえ、受け入れ始めたではないか」

オリヒメの言葉にエルナは顔を伏せる。

そんなエルナにオリヒメは語る。

「人はやがて死ぬ。それは宿命だ。死なぬなら、それは人ではない。だから、人は精一杯生きる。アルノルトは無気力なように見えて、精一杯に動いていたように思う。人らしい生き方だ」

「……何が言いたいの?」

「精一杯生きるのは大切だ。妾もそうしている。生きていると信じたいなら、それに精一杯になればいい。アルノルトは曲者だからな。ほかの者よりよほど生きている可能性は高い」

「気休めよ……総司令の部屋にアルはいたの……私が……アルを引っ張り出した……」

自分の幼馴染はすごいのだと、周囲に認めてほしかった。

認めさせる努力をアルはしないから、代わりに自分が、という気持ちが強かった。

だから、嫌がるアルを表舞台に引っ張り出した。

もっと功績を立てろ、と言い続けた。

その果てが総司令という地位であり、そしてその結末がこれだ。

自分のせい。

城でダラダラしていれば、アルが死ぬことはなかった。

この結果は自分が招いた。

危険なのはわかっていた。

それでもアルに表舞台に出て、活躍しろと言い続けたのか?

守れる自信があった。

どんな危機からも。

浅はかで、愚かな自信。

「私がアルを……殺したようなものよ……」

「自惚れだな。アルノルトが総司令になったのは、アルノルトが望んだことだ。元帥の地位を求め、全軍の総指揮をとった。自らがそうすべきだと思ったからだ。すべての責任は自分にあるなどというのは、傲慢であり、アルノルトへの侮辱だ。改めるがよい」

エルナの言う通りなら、アルノルトはエルナに言われたから重要な地位についたことになる。

そこまで考えなしではない。

深く考え、しっかりと覚悟をして決めたはずだ。

「でも……」

「自責は簡単だ。すべて自分のせいだと思えば、気が楽になる。自分が落ち込めば済むからだ。けれど、すべて自分のせいだなんてことは滅多にない」

「……」

オリヒメの言葉にエルナは押し黙る。

自分のせい。たしかに簡単だ。

けれど、そう思わなければやっていけない。

そして、それはオリヒメも理解していた。

「そういえば、これはアンセム王子の話だがな」

唐突にオリヒメは話題を変えた。

気を遣ったからではない。

エルナが知るべき話だからだ。

「アンセム王子いわく、直前のアルノルトの行動には不審な点があるらしい」

「どういう意味……?」

「ヴィンフリートに援軍を出している。その結果、ヴィンフリートは以後、自由に動けているわけだが、この援軍は大局に影響はなかった。あまり良い手ではなかった、というわけだ。アンセム王子は、自分ならやらない。だからアルノルトもやらないはず、だと考えているらしいぞ」

傍に控えていた近衛騎士であるフィンを戦場に向かわせ、後詰の軍を派遣。

一見すると無難な采配に見えるが、悪魔との戦争では一般兵の数はあまり意味のないものだ。

数で押し切れる相手ではない。わかっているから、フィンを即座に戦場へ向かわせた。

ならば、ヴィンフリートのもとに軍を送ることが良い手ではないことはわかっていたはず。

アルノルトがあえてその一手を打ったならば、何か考えがあったはず。

総司令部の守備を手薄にするだけの考えが。

それは。

「アンセム王子はアルノルトが何か策を巡らせていたのでは? と思っている」

「策って……なによ?」

「妾にはわからぬ。アンセム王子もそこまではわからないそうだ。そう思われる、という話だからな。だから、妾はアルノルトが生きているのでは? と思っている。少なくとも、その事実に納得はいっていないからな。納得するまでは生きていると信じている」

「私にも……それを信じろって言いたいの……?」

「好きにせよ。これは妾の問題。そなたがそなたの中でどう決着をつけるかは、そなたの問題だ」

説得しにきたわけではない。

ただ、話に来ただけだ。

どこかに導こうと思っているわけじゃない。

自分はこう思っていると話しただけ。

「さて、妾はそろそろ失礼するぞ。竜人族の者が苦い薬を飲めと言ってくる頃だからな」

「……ありがとう、オリヒメ」

「礼はよい。前を向くきっかけになったならば、幸いだがな。とはいえ、今は休むとき。ご飯を食べて、しっかりと寝るのだぞ? そなたが寝たきりでは張り合いに欠けるからな!」

オリヒメは満面の笑みを浮かべると、静かに部屋をあとにした。

そんなオリヒメを見送ったあと、エルナはため息を吐く。

「意外にあなたも世話焼きなのね」

「わ、私はたまたま通りかかっただけです……」

部屋の中、気配を消していたノーネームは姿を現した。

そして。

「少し……元気になったようですね」

「連日、人がお見舞いに来ているから寝られないだけよ……」

「人望の証ですね」

「勇者が寝たきりじゃまずいって思っているからよ」

エルナは言いながら、自分の両手を見つめる。

このままじゃダメだと思っている。

けれど、腕に力が湧いてこない。

胸の奥に灯っていた火が消えてしまった。

今の自分は勇者でもなければ、騎士でもない。

ましてや剣士でもない。

戦う理由を失ってしまった。

それを取り戻そうと様々な人がやってくるが、どれもエルナの火を再度、灯すには至らない。

「無理をしなくてもいいのですよ? エルナ」

「無理をしなくちゃいけない立場よ……って言っても……上手くいってないけれど」

「……アルノルト皇子は不思議な人ですね」

ノーネームは唐突に話し始める。

それにエルナは耳を傾けた。

アルの話は胸が痛む。けれど、それでも。

アルの話は好きだった。

「皆、訃報を聞いたとき、動揺していました。けれど、時間が経てば経つほど、アルノルト皇子ならば生きているのでは? と考える人が増えてきました」

「アルは……策士だから」

「もしかしたら、と思える力があるのでしょうね。それだけの実績もある。レオナルト皇子とはまた違った魅力ですね」

ノーネームはそう言ったあと、しばらく黙り込む。

そして。

「もしも……今、アルノルト皇子が現れたらどうしますか? エルナ」

「どうかしら……まずは悪魔かどうか確かめるんじゃないかしら?」

「そうですか……」

「安心していいわよ。本当は……生きていてくれればそれでいい。何の文句もない。それだけでいい。けど、アルは……人の思惑に乗せられるのは嫌いだから。悪魔に体を利用されるなんて、許せないだろうし、それに騙される私も許さない。だから、大丈夫よ」

アルノルトの体を悪魔が使い、エルナに接近する。

現在、連合軍が想定している最悪に近いシナリオ。

エルナの言葉にノーネームは安心すると同時に、胸が痛くなった。

訃報が流れた今でも。

エルナの行動原理はアルノルトだとわかったから。

その後、ノーネームは少しエルナとやり取りをしたあと、部屋をあとにした。

そのままノーネームは歩き始める。

目指すは暫定王都の外。

「待ち合わせ場所はたしか、西の森でしたね」