軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百六十一話 次元隔離結界

「まだ……終わってない……敵は……まだほかにもいる……」

俺の言葉を聞いたジャックは俺を担ぐと、その場を離れていく。

連合軍は疲弊している。

ここで奇襲されれば完全に終わる。

しかし、ここでの奇襲はないだろう。

するべきタイミングはいくらでもあった。それでもしなかった以上、この場で出せる戦力はすべて出したはずだ。

だから、ここでの戦闘は終わった。

しかし、悪魔との戦争は終わっていない。

「敵はまだいるってどこにいるんだ? 場所は?」

「わからない……けれど……まだいる……」

なんの証拠も提示できないが、まだいる。

俺の言葉に呆れながらジャックはため息を吐く。

「それじゃあどうすればいい?」

「とにかくこの場を離れる……」

「いいのか?」

ジャックは連合軍の惨状を見つめながら呟く。

多くの者が死んだ。

もちろん帝国の者も。

「感傷に浸るのはあとだ……」

「だが、お前の父親が……」

「平気だ……」

平気ではない。

今でも心配で仕方ない。

即座に治癒魔法をかけにいきたい。

父上は瀕死だ。まだ生き延びられるかはわからない。

けれど、ここで立ち止まるわけにはいかない。

「まだ敵がいる……どんな敵かはわからない……だが、俺なら一か所に集まった大陸の戦力を放置したりはしない……」

言いながら、俺は転移門を開く。

長距離の転移門じゃない。短距離のものだ。

もうその程度しか力が残っていない。

「奇襲が来るなら残ってないとまずいだろ?」

「奇襲するならしている……それに弱ったところで、この戦力に攻撃すれば返り討ちにあうだけだ……俺なら……封じる」

言葉と共に王都を中心に巨大な結界が形成されはじめた。

喋っている暇はないため、俺はジャックと共に倒れこむようにして、転移門へと入った。

「まじかよ……」

転移門から出たジャックはそう呟く。

王都を中心に超巨大な結界が出現していた。

それは王都と連合軍をすっぽり覆い、そして消えた。

そこに何もなかったかのように。

「次元をずらした結界だ……とにかく出て来させないようにするためだろうな……こちら側からじゃ何も見えない……」

「おい!? 大丈夫なのかよ!?」

「大丈夫だろう……あれだけ戦力がいれば無理やり壊せるはずだ……時間はかかるだろうけどな……」

消耗した連合軍ではすぐに出て来られない。

それを承知の上での罠だ。ここまで用意周到な奴なら、転移で出入りを許したりもしないだろう。

つまり。

「この場に悪魔が召喚されたのも、連合軍が集結したのも、すべて計画どおり……悪魔が負けることを前提として罠を張った奴がいる……」

「あれが……陽動だってのか……?」

「結果的にな……まぁ……その後を考えて動いているのはそいつだけじゃないが……」

壮大な罠だ。

この場に罠を張るということは、王国側で問題を起こし、連合軍を王国内に引き込むこともすべて計算の上だろう。

規模が大きすぎる。

さきほどの結界だって短期間で準備できるものではない。

いまだ残る敵にとって、アスモデウスたちですら捨て駒。

それはつまり、狙っているものも巨大ということだ。

大陸の征服くらいは狙っているだろう。

とはいえ。

「おそらく連合軍が脱出するまでに……すべてを終わらせる気なんだろう……」

「終わらせるってなにをだ?」

「地盤固めだろうな……あれだけ重要人物がいなくなれば……大陸は混乱する」

皇帝はもちろん、帝国の最精鋭に加えて、各国の重要人物たちが軒並み閉じ込められた。

俺たちは閉じ込められたとわかるが、戦況を知らない人たちからすれば戦争の末に行方不明だ。

混乱するなという方が無理だろう。

「いずれ出てくるんだろう? その間にすべての国を亡ぼすのは無理があるだろう……」

「亡ぼすだけが手じゃない。乗っ取るっていう手もある」

呟きながら、俺は帝国の方角に目を向ける。

皇帝は生死不明。皇太子最有力も生死不明。

そうなると帝国ではひとつの勢力が得をする。

「皇帝が生きていようと、皇太子候補が生きていようと……いない間に実権を掌握すれば帝国は乗っ取れる。帝国を乗っ取れば大陸をコントロールすることも可能だ……普通は無理だろうが……可能な位置にいる者が帝国にはいる」

「敵は……第二皇子か?」

「可能性は高い……少なくとも一枚嚙んでいるだろうさ」

どうせエリク陣営とはやり合う予定だった。

最終的な敵としてエリクを据えていたから、わざわざ手の込んだ芝居をしているのだ。

「となると、お前が皇子として名乗りを上げて対抗するのか?」

「無理だ」

「なぜだ? いけるだろ。連合軍総司令だぞ?」

「暗殺された」

「何言ってんだ? お前はここにいるだろう?」

「暗殺しにくると踏んで、影武者を用意していた。今頃、暗殺されたように見せかけているだろうさ。だから、帝国第七皇子アルノルトは表舞台からは退場している……」

疲れたため、俺は近くの岩に背中を預けて、座り込む。

当初、想定していた状況とはだいぶ違う。

しかし、敵の裏をかける状態ではある。

「俺は疲れた……どこか休める場所を探してくれ……」

「疲れてくれて嬉しいぜ。これで疲れてなかったら、本当に同じ人間か怪しくなる……よく自分を暗殺させようと思うよな。どういう頭の構造してんだ?」

そんな言葉をつぶやきながら、ジャックは俺を背中に担ぐ。

そしてゆっくりと歩き出した。

とにかく今は休養が必要だ。

すべては休んでから。

自分に言い聞かせながら、俺は目を閉じたのだった。