作品タイトル不明
外伝2 第三十一話 滅鱗
「シルバーーーーー!!!!」
叫び声と共にアレンが飛び降りた。
させまいと、ヴリトラは無数の白い玉を出現させて、アレンを追う。
まるで泡のように広がるその白い玉を迎撃しながら、俺は全力で降下してアレンの下へ急ぐ。
「なんて無茶を……!」
呟きながら、俺は必死に手を伸ばす。
止血もせず、動きすぎている。
高速で山を駆け上り、今度は落下だ。
これ以上の出血はまずい。
指が触れる。
そのまま手繰り寄せるように。
俺はアレンの服を掴み、そのまま自分のほうへ引き寄せた。
素早く治癒魔法を施し、周りに迫る白い玉を迎撃し、転移門で転移した。
場所は山の下。
エルフ王たちの陣営がある場所。
「……俺より……パトリシアを……」
「気絶しているだけだ! お前のほうがよほど重傷だぞ!」
パトリシアの症状は魔力切れに近い。
捕らわれ、無理やり結界を使わされたからだ。
意識はないが、命に別状はない。
「それは……よかった……」
「いいわけ……あるか……」
出血はとりあえずおさまった。
しかし、斬った腕を今から探す時間はない。
くっつけるのは絶望的だし、失った血も戻らない。
ここからは意志次第だ。
「アレン……」
「なぁ……シルバーさん……あいつに勝てるか……?」
アレンはさらに治療しようとする俺の手をおさえる。
その手はまだ力強かった。
「勝てないなら……俺はまだ挑まなきゃいけない……やれることをやる責任がある……」
「……勝つから安心してここにいろ」
「そっか……なら……ここにいるよ……足手まといでごめん……」
「いや……十分だ。よくやった。彼女はお前が助けたんだ。誇っていい」
そう言うと、アレンは満足そうに笑みを浮かべて、俺の手から手を離した。
「アレン!」
「ウィルフレッド王子……アレンを頼む」
「言われるまでもない! それより、そっちに手助けは必要か!?」
「必要ない。すでに援護は貰った……あとは俺の仕事だ」
言いながら、俺は右手を天に掲げた。
≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫
≪蒼天に満ちし神銀・緑地に散らばる真銀≫
≪其の銀は時に雷のごとく迸り・其の銀は時に闇夜を照らす光となる≫
≪皇貴なる天銀・無垢なる白銀≫
≪真銀よ我が手に集え・かの敵を銀滅せんがために――≫
≪シルヴァリー・エンド・セイバー≫
戦場に散らばった銀属性の魔力がかき集められ、一振りの剣が形作られる。
銀の終滅剣。
それを手に取り、俺はゆっくりと歩き出す。
「準備はいいか? レイナ」
「――この一撃にすべてをかけましょう」
レイナは極限の集中状態でそう答えると、歩き始める。
それは走りへ変化し、やがて疾駆となり。
そして。
一筋の閃光となって、ヴリトラに向かっていった。
「何も通さぬという鱗! 伝説に偽りなし! しかし! かつては私がいなかった!!」
突進するレイナに対して、ヴリトラは脅威を感じたのだろう。
パトリシア奪還の前に、ブレスでの迎撃を選択した。
そんなヴリトラの顔の前に、俺は転移する。
「さて……力比べといこうか」
小癪な。
そんな表情でヴリトラはブレスを放つ。
俺が止められなければ、レイナも迎撃されるコースだ。
極太の真っ赤なブレス。
躊躇いなく放たれたそれに対して。
俺は上段に構えたセイバーを振り下ろす。
剣術センスのない俺でも。
これは様になる。
幾度見てきたと思っている。
幼馴染の一撃を。
真似くらいならできる。
「舐めるなぁぁぁ!!!!」
赤と銀のぶつかり合い。
すべて壊れろ。
そんな意志を感じるブレスを受け止め、そして切り裂いていく。
少しずつ、少しずつ。
セイバーが前へと進んでいく。
ヴリトラが目を見開く中。
俺はブレスを切り裂き、ヴリトラへの道を開いた。
その道をレイナが通る。
「奥義……滅鱗!!」
傷ついた鱗。
そこに目掛けて一撃が放たれた。
レイナにできる最高の一撃。
その名の通り。
その一撃は見事、ヴリトラの鱗を砕き、そして滅した。
ヴリトラを守る最強の鎧。
魔法に対して絶対的な耐性を誇るそれがなくなったことで、ヴリトラの体が露出する。
「残りかすだが……受け取れ!」
いまだ手の中で輝き続ける銀の終滅剣を俺はそこへ目掛けて投げつける。
それは吸い込まれるようにして、レイナが打ち破った鱗の部分へ向かい。
深々とヴリトラに突き刺さった。
そして残っていた魔力がヴリトラの中へと流れ込む。
膨大な銀属性の魔力。
それを受けて。
「グォォォォォォ……!!??」
悲鳴をあげながら、ヴリトラは体を揺らして倒れていく。
一際大きな揺れの後、ヴリトラはピクリとも動かなくなった。
「良い死合でした……」
「まだ安心するのは早い」
俺はレイナを連れて、アレンたちの下へ転移する。
そこでは兵士たちが歓喜にわいていた。
「やったな! シルバー殿! ありがとう! ありがとう!!」
「浮かれるとショックを受けるぞ」
俺のほうへ寄ってきたサディアスに対して、俺はそう告げる。
そんな俺の言葉と同時に。
黒い影が俺たちを覆った。
山頂にてヴリトラが体を起こしたのだ。
「さすがに蛇だけあって大した生命力だな」
「馬鹿な……」
「体内にあれほどの一撃を食らって……まだ立つのか……」
全員がショックを受ける中、声を上げる者がいた。
「向こうも無事なはずがない……! 傷口からなら攻撃は通る……! もう一度倒せばいいだけだ!」
そう言ってアレンは剣を杖代わりにして起き上がっていた。
それにつられて、レイナも笑う。
「では、もう一度死合といきましょう」
二人に引っ張られる形で、全員が戦意を取り戻した。
攻撃が通らなかったわけじゃない。
まだやれるという雰囲気が伝わってくる。
だが。
「やる気のところ悪いが、下がっていてもらおう。あれは俺がやる」
そう告げると、俺はゆっくりと空に浮かぶ。
事前の仕込み。
それをまだ俺は使っていない。
というより、使えなかった。
準備の手間があるからだ。
仕込んでいたのは〝周辺を囲う巨大な魔法陣〟。
そこに魔力が充填されるまでこれは使えない。
そして、ようやく発動できる程度の魔力が魔法陣に充填された。
「黄金の鷲を見たことがあるか?」
アードラーの始祖。
初代皇帝アルフォンスは召喚術師だった。
彼は幾度も盟友である黄金の鷲を召喚し、大陸中央部の乱世を終わらせたと言われる。
それは伝説ではない。
その召喚術はアードラーの一族に伝わっている。
『我が名はアードラー』