軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝2 第二十七話 僥倖

動きの止まったヴリトラの周りを旋回しながら、俺は傷ついた鱗を探す。

ただそれだけのことでも、デカすぎて時間がかかる。

さらに動きが止まったとはいえ、近づけば攻撃の可能性もあるため、迂闊に距離を縮められない。

これほどの巨体だ。腕を振るったりするだけでも広範囲攻撃となる。

攻撃を誘発するだけで地形が変わりかねない。

だが、おかげ様で時間はある。

遠くからでも傷ついた鱗を確認できれば、問題ない。

そこに集中攻撃を浴びせればいいだけだ。

しばらく旋回を続けていた俺は、ヴリトラの前腕部の少し下の鱗。

その一つが変色していることに気づいた。

よく見ていると、その鱗には一筋の大きな傷が入っていた。

貫通はしてないが、えぐられたような痕だ。

「かつて総力をあげた攻撃で、これだけか。恐れられるわけだ」

エルフたちの恐怖の仕方は尋常じゃない。

それだけ恐怖が語り継がれてきたんだろう。

山を囲むように配置されていたエルフ軍の一部は潰走している。

元々、軍でどうにかできる相手じゃないが、統制を失って逃げる者がいるから戦いづらい。

「動けないうちに仕留めておくべきか」

場所はわかった。

勝負にはいつでも出られる。

あとはいつ勝負するか。

「はたして、その傷ついた鱗で受けきれるか?」

全力で魔力を放出して、俺は魔法の準備に入る。

もちろん使うのは銀滅魔法。

最大火力をぶつけて、あの鱗を貫く。

だが、魔力を練り上げる作業に入った時。

突然、ヴリトラが天を仰いだ。

そして。

「グォォォォォォ!!!!!!」

大地を揺らし、空間を割るような咆哮。

俺は結界でその咆哮を防ぐが、地上の者たちは耳をふさいで地面に突っ伏す。

吠えただけでこの威力。

さっさと仕留めないとまずい。

急いで攻撃準備に入るが、少しの静寂の後。

周囲が急にざわめきだした。

手が止まる。

ヴリトラが何をしたのか理解したからだ。

「ちっ!」

ヴリトラは喋らない。

人語を解さないのか、人語なんて下等な言葉をしゃべる気がないのか。

どちらかは知らない。

ただ、知性があるのはわかる。

こいつは状況を打破するために。

周辺のモンスターを刺激したのだ。

「撤退しろ!!」

声を届けた時には遅かった。

ヴリトラの咆哮を聞いたモンスターたちは、本能によって逃走を選んだ。

続々と周辺一帯のモンスターたちがヴリトラからの逃走を開始したのだった。

だが、エルフ軍は退けない。

結界を維持しているエルフ王がいるからだ。

彼らはまともにモンスターの大群とぶつかることになった。

「迎撃しろ!」

「くそっ! 止まらない!?」

「撃ち続けろ! 陛下の邪魔をさせるな!!」

あの数を捌くには戦力が足りない。

仕方なく、俺はエルフ王に近づくモンスターの排除にかかる。

ここを乗り切れば、結界で動けないヴリトラが残るだけだ。

そういう判断だった。

しかし。

突然、ヴリトラは口を開き、半透明の白い玉を発射した。

それは俺に向けられたわけでもなく、エルフ王に向けられたわけでもない。

それゆえに反応が遅れた。

行く先を目で追った時。

俺は咄嗟にそちらへ結界を張ったが、少しだけ遅かった。

「パトリシア!?」

アレンの叫び声。

白い玉はパトリシアに向けられたものだった。

それ自体に攻撃力はなく、パトリシアは白い玉に取り込まれてしまう。

そのまま、白い玉はヴリトラのほうへ引き寄せられ、胸部あたりに配置された。

「くそっ!」

「待て! アレン!」

「でも!」

「殺す気なら殺している! 何かする気だ!」

アレンを制止しながら、突っ込んでくるモンスターたちを倒す。

アレンも必死に我慢しながら、モンスターの迎撃に当たる。

だが、それでも手が足りない。

ヴリトラの出現でエルフたちが弱体化しているのが厄介だ。

まともに戦えているのは僅か。

それ以外は恐怖にやられている。

無理もないといえば無理もない。

あんな化け物が復活したのに、それでも気力を失わない奴のほうが珍しい。

「シルバー殿! ここは任せてヴリトラを!」

「任せたいが、ここが崩れたら色々と計算が崩れるんでな!」

一人、モンスター相手に奮戦していたサディアスが声を上げるが、今は二つのことを同時にはできない。

さっさとモンスターたちを倒して、ヴリトラに当たるのが正解だ。

なんてことを思っていると。

「この魔力……まさか……!?」

結界の維持に集中していたエルフ王が異変を察知して呟く。

聞くまでもなく、俺も異変を察知した。

ヴリトラの周囲に結界が展開されたのだ。それはヴリトラが展開したものではない。

「パトリシアを利用して中和結界を作り出したのか!?」

パトリシアの結界も、エルフ王の結界も。

元をたどれば大賢者アグネスの結界術だ。

同じ系統の技術が使われているため、中和する結界を張ることは容易い。

ただ、パトリシアがすすんでそれを張ったとは思えない。

操られているか、ヴリトラの介入によって無理やり張らされているか。

どうであれ。

「おのれ……!!」

悔し気なエルフ王の呟きの後、ヴリトラは悠然と動き始めたのだった。

いまだモンスターの動きは止まらないし、パトリシアは捕らわれるし、ヴリトラは動き出すし。

すべてを解決することはできない。

すでに結界の重要性は消失した。

さっさとこの場を離れて、ヴリトラに集中すべきだが。

俺がこの場を離れれば、エルフ軍は崩壊する。

少しの葛藤。

その後で、俺が決断を下そうとした時。

何かが超高速でヴリトラに向かっていき、そしてエルフ王の結界から出ようとするヴリトラを押し戻した。

「伝説上の怪物……よもや実在するとは。なんたる僥倖! 引き留める声を無視して来た甲斐がありました!」