軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝2 第二十四話 意図せぬこと

結界維持の儀式場は大山脈の中でもっとも標高の高い山の山頂に存在する。

巫女は十人の精鋭と共にそこへ向かい、山脈の周囲はエルフ軍が固めている。

「現在の時刻は四時。儀式の挙行は五時。大賢者アグネスが結界を発動させた時間に合わせるためだ。時間はない。転移で送り込むから、なんとか彼女を説得しろ」

「わかった。そっちは?」

「一応、エルフ王との約束があるからな。姿だけは見せておく。お前が勝手に巫女を連れ出し、復活した長きものを討伐するなら文句は言われないだろう」

邪魔はしないと言った手前、露骨なことはできない。

向こうが信じるかどうかは問題じゃない。

言い訳できるかが大切なのだ。

「……ごめん。こんなことに巻き込んで」

「謝るな。俺はしたいようにしているだけだ。それに……トラブルに巻き込まれるのは慣れている」

そう言うと俺は転移門を出現させた。

すでに大山脈の地形は把握済み。

巫女の一団は山頂に到着しているだろうし、その付近にアレンを転移させればそれなりに時間は稼げる。

「異変を察知したら、転移門を開く。どうにかして帰ってこい」

「うん……必ず彼女を連れて帰ってくるよ」

頷くアレンの顔つきは今までとは違う。

誰かに助けてもらおうというものではなく、自分が連れ戻すという気概を感じる。

そして、覚悟も。

きっと連れ戻せないならば、帰ってくる気はないんだろう。

アレンはすべてを賭けて挑む気だ。

だから。

「――命をかけて散るのは自己満足だ。しっかり戻って責任を果たせ」

「ああ……帰ってこない英雄より、帰ってくる英雄のほうが俺の好みだから。大丈夫」

そう言うとアレンは俺の開いた転移門をくぐっていく。

時間は一時間。

この一時間でアレンに何ができるかで、すべて変わる。

説得できればパトリシアを連れて、撤退してくるだろう。そうなれば俺の出番だ。

だが、説得できなければ。

パトリシアは自らを結界に捧げるだろう。

「彼女は……お前にしか救えないからな」

それを止めるのは容易い。

しかし、そんな権利は俺にはない。

そこまでの義理もない。

俺がするのは後始末。

ある意味、いつもどおりではある。

■■■

「よからぬことを企んでおるな?」

「失礼なことを言わないでもらおう」

山頂を囲むエルフ軍の本陣。

そこに転移した俺を出迎えたエルフ王は、いきなりそんな言葉を投げかけてきた。

「では、これまでなにをしていた?」

「周囲の調査だ。正確には結界の調査だな」

「ほう? それで何がわかった?」

「ここは特殊な場所だ。大山脈を形成する山は霊山ばかり。それを結界の一部として組み込むことで、結界の強化を図っている。この場の地形自体が魔法陣というわけだ」

千五百年なんて馬鹿げた時間もつほどの結界。

たびたび更新されてきたとはいえ、途方もない。

それを可能にしていたのがこの大山脈。

魔力に溢れたこの土地だからこそ、この結界は成立している。

そして。

「その結界の外側に新しい結界があった。結界を包み込むように作られた新結界。それなりの備えをしているようだな?」

「……若者をただ送り出してきたわけではない。必死に編み出した結界じゃ。わしの最高傑作。長き時をかけて作り出した。しかし、アグネス様の結界をこえるものではなかった……」

どれだけ劣化していても、アグネスの結界は最高級だ。

それにかなうものを作り出すのは至難の業。

エルフ王の顔には無力感が映っていた。

この大陸で出会う人たちは、そういう顔をよくする。

どうしようもない脅威に対して、何もできない自分への失望。

そういう顔を見るのは好きじゃない。

どうせ見るなら明るい表情のほうが好きだ。

「やれることをやったのなら、胸を張ったらどうだ?」

「若者を……生贄に送り出してどのような面で胸を張れという? 老いぼれが代わってあげられるなら、いくらでも代わってやりたい……だが、わしには資格がない」

長生きのエルフ王だ。

更新を見るのは初めてじゃないんだろう。

二度も三度も生贄を送り出すのは堪えるだろうな。

「王として決断しているのは誰もがわかっているはずだ」

「何の慰めにもならんな……」

俺の言葉にエルフ王はそう呟く。

それと同時に傍にサディアスがやってきた。

「儀式の準備が整ったとの念話が届きました」

「承知した」

言葉は少ない。

巫女の護衛にサディアスがつかないのは、実の兄だからだろう。

生贄に捧げられようとする妹を見たら、気が変わってしまうかもしれない。

だからこそ、この場にいる。

本人からすれば辛い時間だろう。

いや、誰にとっても辛い時間か。

そのまま、誰も喋らないまま時間が過ぎていく。

そしてそろそろ儀式の時間が迫ってきた時。

突然、地面が揺れた。

「儀式が始まったということか?」

「そんな馬鹿な……!? こんなこと儀式ではありえん!」

「ということは、儀式の問題ではないようだな」

儀式が始まったから大地が揺れているというわけではない。

となると、別のことが原因ということになる。

揺れは断続的。

だが、徐々に強く、長くなっている。

「エルフ王! 予測でいい! どういう状況だ!?」

「……結界が壊れかけている……!」

このタイミングで。

そんな言葉が出かけるが、飲み込む。

俺以上にエルフたちがそう思っているからだ。

千五百年以上、保ってきた結界は限界を迎えたのだ。

つまり、長きものが復活する。

儀式が遅れたわけじゃない。

劣化し続けた結界が長きものを抑えきれなくなったのだ。

「くっ……山頂の部隊に儀式を早めろと伝えるのじゃ! まだ間に合うかもしれん!」

「賛同できないな」

エルフ王は一縷の望みをつなぐため、そんな指示を出す。

だが、俺は転移門を開いて、その言葉を否定する。

俺がやろうとしていることに気づいたエルフ王は、声を荒らげる。

「戦う気か!? 古の化物じゃぞ!? 今ならまだ間に合う!」

「その保証はどこにもない。これも運命なのだろう。俺に任せてもらおう」

「待て! 止めろ!」

転移門に入ろうとする俺を止めようと、エルフたちが寄ってくる。

そんな中、弓を構えるサディアスと目があった。

そして。

「……妹を頼む」

「承知」

弓をおろしたサディアスの頼みを聞き、俺は頷きながら転移門に入ったのだった。