作品タイトル不明
第六百五十六話 素晴らしい連携
「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
エルナの攻撃に対して、アスモデウスは鱗を集中させて防御する。
いくらエルナでもあれを突破するのは一苦労のようだ。
なにせ魔王に匹敵するアスモデウスが全力で防御に回っている。
突破できたら苦労しない。
その間に俺とレオは攻撃を仕掛けるが、地面にいた時とはわけが違う。
アスモデウスはその巨体にもかかわらず、自由自在に空を飛ぶ。
接近しようとする俺たちから距離を取りつつ、蛇の髪による光線攻撃をしてくる。
それをかいくぐり、どうにか近づいても二本の剣がある。
そんなことをしている間に、エルナが作った隙は消えてなくなっている。
「どうにか足を止めないと!」
「わかっている!」
レオの言葉に俺は答えるが、アスモデウスの動きを止めるのは至難の業だ。
アスモデウスは八割ほどの力をエルナに向けている。残りの二割で俺とレオに対応しているわけだ。
それでも俺とレオは決めきれない。
どうにかそのバランスを崩さないことには、アスモデウスの優位は崩れない。
とはいえ、アスモデウス側にも打開策はない。
常に防御に回っているから受けきれているだけであり、攻勢に出ればバランスが崩れる。
そうしてくれたほうが楽ではある。
そんなことを思っていると。
「また何かしてくるわよ!」
エルナの警告を受けて、俺たちはアスモデウスの羽に目を向けた。
広げた羽に目が出現していた。それも無数に。
「いよいよ怪物だな」
「最初から怪物だよ」
言いながらレオは皇剣を構える。
そして。
「けど、怪物は自然の摂理に反するからこそ、討たれる宿命だ」
「それには同意だな」
合図はない。
どちらともなく、俺たちはアスモデウスへ突撃した。
そろそろ攻撃役としての役目を果たさないといけない。
少し焦りを感じ始めていた俺だが、それでもアスモデウスの異変は逃さなかった。
視線が俺たちに向いていない。
向いているのは後方のエルナだ。
まだエルナは攻撃態勢に入っていない。
つまり警戒ではない。
あれは標的を捕捉しているのだ。
「レオナルト皇子!!」
「わかった!」
それだけでエルナの近くにいたレオは反転して、エルナの下へ向かう。
その間にアスモデウスの羽の目がエルナに向けられた。
すると、エルナの動きが鈍くなった。
まるで重りでもつけられたかのような動きだ。
何とか動こうとしているが、その隙にアスモデウスは攻撃をした。
【――冥哮】
角からの攻撃。
動きの鈍ったエルナでは避けられない。
けれど、エルナの下に向かっていたレオが間一髪で、エルナを引っ張ることに成功した。
対象を一人に絞っていたからこその効果だろうが、エルナの動きを鈍らせるほどの効果は厄介すぎる。
下手に攻撃して動きを鈍らされても困るため、俺は二人の下に転移する。
「無事か」
「なんとか。厄介よ、あれ」
「金縛り?」
「重力が増したって感じね」
「対象の周囲にある重力を操作するといったところか。多くの悪魔を吸収したせいか、いろいろと出てくるな」
出てくる技がすべて権能級だ。
反則だと言いたいところだが、そういう相手だ。
文句を言っても仕方ない。
しかし、相手が次々に対策を打ち出してくる以上、長引かせるのは悪手か。
「誰かが落とされれば戦況は変わる。さっさとケリをつけるぞ」
「そういうなら策があるんでしょうね?」
「確実に一人は足止めされるよ?」
「確実に一人しか足止めできないなら、やりようはある。二人とも俺を信頼してもらうぞ?」
頭にはあった戦法。
やりたくはなかった。
あまりにも危険だから。
けれど、相手が足止めの方法を持っている以上、これが最善。
もっとも有効な対策法。
「しょうがないわね」
意外にもエルナはすぐに了承した。
それにレオも従う。
「シルバーに任せるよ」
「では、真っすぐ突撃してもらおう」
俺の言葉に二人は意外そうな表情を浮かべるが、すぐに面白いとばかりに笑う。
「それなら簡単だ」
「言い訳は聞かないわよ?」
そう言って二人はさっさと突撃していく。
こちらの準備を待つ気はないらしい。
とはいえ、準備らしい準備はない。
強いていうなら心の準備くらいだ。
やりたくない理由は責任があまりにも重いから。
そして俺への負担が大きいから。
「仕方ないか……」
ほかの方法を考えたいところだが、そんな時間もないし、それが許される相手でもない。
突撃する二人に対して、アスモデウスの羽が動く。
狙いは当然ながらエルナだ。
目がエルナを捉える瞬間。
俺はエルナの前に転移門を出現させた。
同時に俺も転移門をくぐる。
いきなりアスモデウスの傍に転移したりはしない。
短距離での転移。
エルナが現れたのを見て、アスモデウスは目を向けるが、さらに転移門が現れてエルナを転移させる。
らちが明かない。
だからアスモデウスはレオに狙いを定める。
こちらがレオを助けなくちゃいけないようにする気なのだ。
ゆえに俺はレオも転移門で飛ばす。
当然、俺がやられたら意味がないため、俺も転移した傍から転移を繰り返す。
三人分の連続短距離転移。
とにかく負担がデカい。
空ゆえに、自分の現在地がわかりにくい。上にいるのか下にいるのか。
平衡感覚がおかしくなりそうになりながらも、必死に転移を繰り返す。
今、自分がどこにいるのか、二人はどこにいるのか。
アスモデウスが予想できるような単調な転移にならないようにしつつ、全力で前へ進んでいる二人を転移させていく。
脳が焼ききれそうになる。
すべてが高速。
針の穴を通すような正確さを求められているうえに、アスモデウスの攻撃にも備える必要がある。
高速で飛び回る玉を不規則に転移させるようなものだ。それを衝突させないよう、目的地に導く。
しかも目的地には門番がおり、門番の動きにも注意が必要。
馬鹿げた作業だ。
一つミスったら終わり。
エルナとレオの転移にばかり集中したら、俺が落とされる。
そういうプレッシャーに耐えながら、俺は徐々に二人を接近させていく。
焦って懐に転移させたりすれば、アスモデウスも対策のしようがあっただろう。
けれど、じわじわと転移されたら狙いは絞れない。
エルナを外したら終わりだからだ。
そして。
「「「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」」」
三人による同時攻撃。
俺は上から、レオは下から。
エルナは背後から。
転移後の完全同時攻撃だ。
それでもアスモデウスはエルナの攻撃を優先。
背後に鱗を集中させていた。
現れる瞬間のわずかな魔力でエルナを感じ取ったのだろう。
大したものだ。
けれど。
「――読まれることを読ませてもらったぞ」
エルナの攻撃の瞬間。
俺は自分とエルナの位置を入れ替えた。
直前での転移。
普通なら転移されたエルナは戸惑うところだ。
けれど、エルナは上から一気にアスモデウスを切り裂いた。
咄嗟に出した右手の剣は真っ二つになり、肩口から深々と切り裂かれる。
同時にレオが左手を斬り落とした。
それを見て、追撃しようとするが、アスモデウスはエルナに羽の目を向ける。
どこまでもエルナだけを狙っている。
しつこいと思いつつ、俺は二人を転移させて距離を取った。
「はぁはぁ……さすがにすぐには回復できまい……」
負荷がかかりすぎたせいか、頭痛がすごい。
しかし、手ごたえはあった。
エルナに斬られた部分の再生はできたが、左手は戻らず、剣も再生しない。
明らかに弱っている。
あともう一度の攻撃でトドメをさせるだろう。
そんな算段を立てていると。
「……よかろう。素晴らしい連携だ。防ぐのは困難と認めよう。しかし……それならば一撃で決めるまで」
そう言ってアスモデウスは上昇しながら残った右手を掲げる。
そしてとんでもないエネルギーがアスモデウスの右手に集まり始めたのだった。