軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百四十二話 第三解放

アスモデウスと俺の戦いは、なかなか戦いに発展しなかった。

余裕の表情を浮かべ、アスモデウスは立っている。

いくらでも攻撃できるが、どうしても攻撃が成功するイメージがわかない。

イメージすらできない場合、あっさりカウンターでやられる可能性がある。それだけ力が離れているということだからだ。

「どうした? かかってこないのか?」

「こうやってお前を引き付けておくだけで効果的ではあるんでな」

「そうか。では、もうしばらくにらみ合いといこう」

向こうから攻撃を仕掛けさせようとしたが、アスモデウスは余裕を崩さない。

引き付けられているという意識がないからだろう。

むしろ、引き付けられているのは俺のほうだ。

アスモデウスはきっと配下の悪魔たちが失敗するまで、動かない。

指示は出した、あとはやれ、というスタンスなのだろう。

だから俺はアスモデウスから離れても問題ない。

しかし、アスモデウスの不気味さが俺にそうさせてくれない。

「余は人類を舐めていたかもしれん。なかなかやるものだな」

「一度、負けているくせに偉そうなことだ」

「余が負けたわけではない。負けたのは魔王だ」

「もっとも強い魔王が負けたなら、悪魔側の敗北といえるはずだが?」

「ふむ……魔界への理解が足りないようだな。魔界は不毛な土地が延々と続く世界だ。かつては緑も豊かだったが、度重なる戦争で荒れ果てた。そんな魔界はいくつかの派閥によって統治されていた。五百年前、この世界に侵攻した魔王は魔界の中では最大勢力だったにすぎん。余と余の一派に対して、魔王は臣従を求めた。ゆえに余は参加しなかった。奴の傘下で働く気はなかったのでな」

隠すようなことでもない。

そんな風にアスモデウスは告げる。

なかなか衝撃的な告白だ。

五百年前、人類が一丸となってようやく追い払った魔王軍が魔界の統一勢力ではなく、最大勢力、つまり大陸ではいえば帝国のような存在だったというのだから。

「魔王の残党たちが魔界に逃げ帰ってきたとき、余は侵攻する気だった。好機ゆえな。しかし、魔王が広げ、維持していたゲートは閉じられた。だから余は時間をかけて再侵攻を計画した。魔界には余が魔王には及ばないと思う者もいるのでな」

あの化け物みたいな魔王を相手に張り合おうとしている時点で、アスモデウスも化け物だ。

魔王超えがアスモデウスの一つの目的なのだろう。

もちろん、それが一番ではないだろう。

荒れ果てた魔界より、この大陸のほうが良い。そういうことだろう。

ましてや、そこに住む者たちが自分たちより弱いなら。

さっさと奪ってしまおうというのは強者らしい感覚だ。

「お前が魔王より強いのか、弱いのか、俺にはわからない。ただ……一つだけ言っておこう」

「聞いてやろう」

「――お前も失敗する」

俺の言葉を聞いて、アスモデウスの眉が少し動いた。

そしてアスモデウスは笑い始めた。

「力の差がわからないほど愚かではないだろうに……それでも余が失敗すると言うのか?」

「そうだ。お前は魔王から何も学んでいない」

「学んでいるとも。だから時間をかけた。貴様らがしつこい害虫だと余は知っている」

「その傲慢さが消えないかぎり、お前たちが俺たちに勝つことはないだろうな」

「では、やってみせるといい。力は……証明するものゆえな」

そう言ってアスモデウスはかかってこいという雰囲気を出してくる。

多少なりともやる気になったようだ。

けれど、腕を試してやるといった感じだ。

それだけ実力差があるということだろう。

しょうがない。あんまり気が進まないが、勝機もなしに戦うのは愚かだ。

「――共闘といくか。勇者」

「私だけで十分よ!」

空から現れたエルナがアスモデウスに斬りかかる。

その聖剣の一撃をアスモデウスは右手一本で受け止めた。

「ほう? これが魔王を討った聖剣か。意外に……軽いものだな」

「っっ!?」

エルナは咄嗟にアスモデウスから距離を取る。

攻撃はない。

やろうと思えばやれたはずだが。

「それで全力か? まだ力を隠しているのなら……出し惜しみはしないことをおすすめしよう。今代の勇者よ」

「舐めてくれるわねぇ……」

そう言うとエルナは聖剣を高く掲げた。

そして。

「我が声を聴き、覚醒せよ! 輝ける命の星剣! 勇者が今、奇跡を必要としている!!」

黄金の光が戦場全体を照らす。

輝ける聖剣。

それを構え、エルナは告げる。

「聖剣・極光――第二解放」

初代勇者は聖剣を封印した。

召喚できるのは勇者の素質がある者だけ。

しかし、そのうえでさらに聖剣には封印がかけられている。

エルナはその封印を一つ解いた。

さらに。

「我が声を聴き、転変せよ! 輝ける天の星剣! 勇者が今、勝利を必要としている!!」

もう一段階、封印が解かれた。

黄金の光は圧倒的な光量と存在感を発している。

魔王を倒したときの聖剣が完全体とするなら、これはその一歩手前。

「聖剣・極光――第三解放」

さすがのアスモデウスもそれには目を見開いている。

明らかに聖剣の強さが変わった。

ここまで聖剣の力を引き出した者は勇爵家でもいないだろう。

勇者の再来と言われるエルナだからこその御業。

「シルバー、足を引っ張るならいらないわよ?」

「こちらのセリフだ。その聖剣が見せかけだけじゃないことを祈ろう」

「なんですって!? 全身銀色になったからってやけに強気ね!? 光ったら強いとでも思っているの!?」

「そっくりそのままお返ししよう。黄金に光ったら強いと思っているなら、少々幼稚だな」

「聖剣を馬鹿にするんじゃないわよ!? 見てなさい! 私の攻撃を見たらそんな口きけないんだから!」

「それもお返ししよう。フォース状態の俺の攻撃を見れば、君もそんな口をきけないだろう」

「なら、試してみようじゃない」

「ちょうどいい相手がいるしな」

俺とエルナは同時に敵意をアスモデウスへ向ける。

アスモデウスはそんな俺たちの敵意を笑みとともに受け止めるのだった。