軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百二十一話 願わくば

帝国・帝剣城。

「連合軍総司令、アルノルト元帥より。王都を攻略するとの知らせが届きました」

宰相フランツの言葉に皇帝ヨハネスは静かに頷く。

ここまでは予定どおり。

どうなるかわからないのはこれからだ。

「さて、何が出てくるか……」

「王太子の行動は正気の沙汰とは思えません。間違いなく魔奥公団が関わっているかと」

「そうであろうな。クリューガー公爵の反乱の際、民がモンスター化したが、王国はそれをさらに発展させている。今思えば、クリューガー公爵も利用されていたのだろうな。しかし、本当に恐ろしいのは魔奥公団ではない」

「その裏にいる悪魔ですね」

「そうだ。冒険者ギルドはいつでも精鋭を派遣できる準備をしているが、悪魔が現れたならば我らも行かねばなるまい」

想定される最悪な事態は、相当数の悪魔が出現する事態。

冒険者ギルドの最高戦力、SS級冒険者たちが集結しても、なお手が足りない状況。

つまり、五百年前の再来だ。

だからこそ、各国は最高戦力を派遣するというルールがある。

帝国において該当するのはもちろん勇爵だが、皇帝と近衛騎士団もそれに準じる。

「本当に陛下自らご出陣されるのですか?」

「勇爵に近衛騎士団を率いらせるという手もあるだろうが……皇剣は一部の皇族にしか扱えん」

帝剣城に眠る秘宝。

皇剣は皇族の最強兵器だ。

聖剣を模倣した剣であり、その威力は歴代の皇帝たちが厳重に封印するほど。

皇族どころか、皇帝ですら誰でも使えるわけではない。

聖剣と同じく、選ばれた皇族にしか扱えない代物だ。

皇帝の位についた者は、皇剣の封印を解けるかどうかを試す必要がある。解けないからといって、皇帝失格というわけではない。

皇剣を使えることと、皇帝であるということは別だからだ。

もちろんヨハネスも皇帝に即位した際、その封印に挑戦し、封印を解いている。

しかし、それを使うかもしれない時が来るとはあの時は想像もしなかった。

「留守は任せたぞ? 帝国はかなり手薄になるが……出し惜しみができる相手ではあるまい」

「承知しております。一番は何事もなく王都が陥落することですが……」

「ワシはそれを望んではおらん。悪魔たちが確かに大陸を狙っているならば、ここで決着をつけたい。これ以上、負の遺産を後世に背負わせたくはない。それに……今ならば相当な戦力を集められる」

「たしかに五人のSS級冒険者に、聖剣を召喚できる勇爵家の者が二人。人類としては決戦は好都合でしょうが……これまで隠れてきた悪魔がその状態で決戦を仕掛けるでしょうか?」

長い時を生きる悪魔は戦う時期を選べる。

今、追いつめられているとはいえ、姿をくらませばいずれ人類は油断する。その時を狙うことだって可能だ。

しかし。

「チラホラと姿を見せ始めたのは、奴らが痺れを切らしたからであろう。これ以上は待てぬと思ったから、動き始めたのだ。もちろん奴らは勝てると踏んでいる。ならば決戦を受けて立つはず。だが、五百年前とは違う。我らは五百年、備えてきたのだ。ここで奴らの野望は打ち砕く」

ヨハネスはそう強く告げた。

悪魔という脅威がなくなれば、人類は様々なことから解放される。

それは帝国も様々なことから解放されるということだ。

これまでは備えることしかできなかった。

しかし、今は集大成を見せるとき。

その機会に恵まれた皇帝は五百年間いなかった。

幸か不幸か。

ヨハネスは機会に恵まれた。

「フランツ……お前にだけは伝えておこう。万が一、ワシが戦死した場合の話だ」

「……縁起でもないことを」

「真剣だ。現状、帝位争いはレオナルトとエリクの一騎打ちだ。どちらも多数の支持者がおり、皇太子を決めるにはその者たちの納得が必要だ。今はまだそれが足りん。しかし、悪魔との戦いが起きれば……悪魔との戦いに参加した者こそ皇帝に相応しいと宣言できる。言いたいことはわかるな?」

「もちろんです。しかし、それで納得は得られないかと」

「説得する材料になりさえすればいい。実際、功績という点では王国との戦が終わればエリクよりもレオナルトの方が上なのだ。ワシが皇太子にレオナルトを選んでも不自然ではあるまい」

そう言ってヨハネスはフッと微笑む。

皇帝は絶対的な権力者だが、次期皇帝を決めることに関しては、絶対的ではない。

帝位争いが慣習だからだ。

現皇帝は帝位争いを勝ち抜いた者を皇太子に指名する。それが今までの流れであり、常識だ。

その常識があるからこそ、皇帝は強権を発揮して皇太子を無理やり決めることができない。

やれないことはないが、反発を招く。

帝位争いが勢力争いだからだ。

皇太子を指名するには、周りの納得が必要なのだ。

「エリクはきっと認めんだろうが……レオナルトならばどうにかするはずだ。これまでも切り抜けてきた。これからも切り抜けるであろう」

そう言ってヨハネスはすでに書き上げてあった遺言書をフランツへ手渡す。

それが開かれるのは、皇帝に万が一の事態が起きた時だ。

フランツにとって、ヨハネスは長年付き添った主であり、共に帝国を切り盛りした親友だ。

万が一など考えたくはない。

しかし、互いに立場がある。

「……承りました」

「いつも面倒事ばかりを任せてすまんな」

「その面倒事こそ……生きがいでした」

「では、ワシに万が一があればレオナルトからの面倒事も引き受けてやってくれ。新たな宰相を見つけるには、しばし時間がいるだろうからな」

「……このような会話をする日が来るとは思いませんでした」

「ワシもだ。しかし……ワシらは恵まれている。託すべき次代がいるのだから。それこそ人類の力でもある。我らの想いは受け継がれる。しかし……悪魔の脅威だけはもはや受け継がん。皇帝ヨハネスの名にかけて……必ず討ち果たしてみせよう」

願わくば。

これ以上、子供たちが命を落とさないことを。

祈りを込めながらヨハネスは告げたのだった。