軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十六話 敵将の技量

レオナルト軍の本陣にて、俺はレオを待っていた。

レオがわざわざ進軍スピードを落として、時間をかけることを選んだ相手だ。厄介なのは確定。

もちろん物量作戦で犠牲を気にせず攻勢に出れば、いずれ落ちるだろう。

ただ、王国の民を助けるための作戦で、帝国兵が多くの犠牲を払うのは違う。

より早く、しかし犠牲は最小限に。

将軍たちにはそういう矛盾を孕んだ命令を出している。

そのため、レオは止まったのだ。

自ら偵察に出たのも綻びを探すため。

だから俺は待った。

そして。

「総司令自ら前線に出てくると、兵士が動揺しちゃうよ?」

天幕に入ってきたレオは開口一番、そんなことを苦笑しながら告げた。

それに対して、俺はニヤリと笑う。

「困っている顔を拝んでやろうと思ってな」

「意地が悪いね」

レオは笑いながら、机を挟んで向かいにある椅子に腰かける。

机には現地の地図。

俺たちの間に余計な質問は必要ない。

レオはさっそく必要なことを話し始めた。

「敵将のドロルムは有能な人物だよ。一度、都市を攻めたとき、見事な対応を見せてきた。犠牲はなるべく抑えたいから、包囲に切り替えたけど、三つの都市はどうやら地下道でつながっているみたいだね」

「厄介だな。地下道の位置は?」

「ある程度のめぼしはついたよ。たぶん破壊も可能。けど、できればその手には出たくない」

「追い詰めれば、より頑なになるからか?」

「うん。彼らは王国のために戦っている。崩れかけた祖国を守ると誓っている。そういう人たちとは戦いたくはないんだ」

前線の人間が詳細な情報を得ることは不可能だ。

彼らには都合の良いことしか伝わっていない。それにどう取り繕おうと、俺たち帝国は侵略軍だ。

その事実があるから、相手は話し合いには応じない。

徹底抗戦を決めている。

「王太子たちは徹底しているよ。彼らに疑念を抱かせないために、周りに偽人兵はいない。いるのは人間ばかりだ」

「利用できるものはとことん利用する気だな」

「裏で民を怪物に変えておきながら……愛国心ある者に守ってもらおうなんて……怒りを覚えるよ。正直ね」

レオは珍しく怒りを隠さない。

実際、怒って当然の所業ではある。

ただ、怒るだけじゃ解決もしない。

「どうするつもりだ?」

「攻め込めば敵も味方も血を流す。厄介なのは守備兵だけじゃなくて、都市の人たちも戦闘に参加していることだよ。彼らを救うための戦いで、彼らを殺すのは……気が進まない」

「それは最終手段だな。一番は士気をくじき、勝てないと思わせること」

レオは俺の言葉に頷く。

祖国を守るための戦い。

そこに彼らは燃えている。

大事なモノを守るためだと信じているし、敵は悪だと思っている。

いずれ援軍が来るとも思っているだろうし、必ず勝てると信じてもいる。

だから彼らは折れない。

しかし、そう思うには力が必要だ。

自分たちを信じられるだけの根拠が彼らにはある。

それが敵将ドロルムだ。

「レオ、いくつ策を考えている?」

「二つくらい考えているけど、どうするつもり?」

「少し試してみたくなった。指揮権を貰うぞ?」

「ご自由に。総司令は兄さんだからね。けど」

「血が流れるようなことはしない」

わざわざレオが止まっているのは、それを避けるためだ。

俺がそれを無にするわけにもいかない。

「で? どうするつもりなの? アル」

「とりあえず小手調べからだな」

■■■

「右翼五十歩前進。騎馬隊はその間に左から回りこめ、都市に攻撃を仕掛ける必要はない。一周して帰ってこい」

レオナルト軍の指揮権を預かった俺は、都市への攻撃を開始した。

とはいえ、そういう素振りだけだ。

右翼が声をあげて前進する。

それに対して、敵都市は防衛体制を取る。

しかし、すぐに右翼が陽動と気づいたんだろう。

正面の人員が一気に減った。

背後の騎馬隊に備えたのだ。

判断が早い。

「確かに苦戦しそうだな」

「総司令がわざわざ前線の軍を掌握したのに、手柄がありませんじゃ士気にかかわるわよ?」

「わかっているさ」

エルナの小言に対して、俺は頬杖をつきながら応じる。

とはいえ、すでに空返事だ。

すでに頭の中にあるのは敵のことだけ。

多勢に無勢の状況で、相手は効率よく兵を配置して乗り切ろうとしている。

ほかの都市よりも守備兵は多いようだが、それでもせいぜい数千。

数万のこちらとは兵力差がある。

それを埋めるため、後手に回らないように心掛けているようだ。

ならば、後手に回らせてやろう。

「中央、攻城部隊。矢が届くギリギリまで前進。敵の矢が来たら後退だ」

「そのうちやる気がないのはバレるわよ?」

「どうかな? 戦う気がないところを、戦う気があるように見せるのも戦術だ」

騎馬隊も陽動だと見抜き、正面の兵が分厚くなる。

矢を構えて、攻城部隊を待ち受けている。

しかし、矢が届くギリギリで攻城部隊は止まる。

それに対して、敵都市も矢を放たない。

範囲をしっかり理解している証拠だし、物資が限りあることもわかっているようだ。

面白い。

「左翼五十歩前進。一度停止後、十歩前進」

右翼、中央に続いて左翼も前へ出る。

いつでも攻め込める位置まで部隊が近づいていく。

だが、敵は有能だ。

左翼も陽動と見抜き、大して動きがない。

このまま左翼を進ませるのは、あまりにも工夫がないからだ。

すでに敵の頭には俺という敵将の想像図が出来上がっている。

何か奇妙な手を打ってくる相手だと。

だから、一度停止した左翼がわずかに前進した瞬間。

これまで完璧だった敵の動きに僅かな綻びが生じた。

それはたぶん、陽動なのか本命なのか。

それを考えた間。

それが部隊の移動速度に現れた。

大した時間でもない。

けれど、そこに生じた僅かな綻びを俺は逃しはしない。

「第六近衛騎士隊、全力出撃!! 右城壁から攻勢をかけろ! フリだけでいい! 第二近衛騎士隊! 騎馬隊で左城壁に接近!! 攻撃はするな! 防御魔法で敵の矢を受け止めろ! 被害が出そうなら撤退しろ! 判断は任せる!」

矢継ぎ早に指示を飛ばす。

天隼部隊である第六近衛騎士隊が一気に空へ上がり、右側の城壁から旋回しながら突撃の姿勢を見せる。

その間にセオドア率いる第二近衛騎士隊が左側から騎馬で接近。

攻城部隊のように矢が届かない距離で止まることもしない騎馬隊に対して、敵はたまらず矢を射かけるが、セオドアの部隊は防御魔法で矢を受け止める。

断続的な攻勢。しかも近衛騎士隊を使った攻勢だ。

これまでの部隊とは質が違う。

敵の動きが徐々に遅れていく。

こちらの優位を存分に使った攻勢だ。

さぞや困っていることだろうな。

けれど、こちらにはまだまだ切り札がある。

「フィン! 後方をおびやかせ!」

「はい!」

白い飛竜にまたがり、フィンが空に上がる。

それを見て、敵がどよめいた。

帝国の白い竜騎士。

その噂は王国民でも知っている。

単騎で戦局を変えられるほどの存在だ。

注意がどうしてもそちらに向く。

フィンは敵の上空を通ると、グルリと反転。

一気に敵後方へ突撃をかけた。

もちろん、フリだ。

けれど、あまりにも真に迫った突撃だったこと。

そしてフィンへの警戒。

ゆえに敵は後方に人員を割いた。

フィンが本命と思ってしまったのだ。

その瞬間、俺はレオに声をかけた。

「右翼後退。レオ、度肝を抜いてやれ」

「やっぱり意地が悪いね」

レオは苦笑しながら、黒い鷲獅子にまたがり、中央軍に号令をかけた。

もちろんすべての兵士には今日は攻勢には出ない。すべて敵を挑発するだけ、と伝えてある。

だから、レオの号令もすべてハッタリ。

それでも。

「帝国の勇猛なる兵士たちよ! 帝国第八皇子、レオナルト・レークス・アードラーが命じる!! 続けぇぇぇ!!!!」

後方に人員を割いた瞬間。

勇猛で知られた英雄皇子、レオの号令と共に中央軍が前進した。

それだけで敵の都市から悲鳴が漏れた。

後ろに人員を割いた以上、正面はより少ない数で受け止めなければいけない。

慌てた様子で敵が動くが、右に左にと振り回されたせいか、鈍い。

明らかに士気が下がっている。

このまま押し切ることも可能だろう。

けれど、それはしない。

レオは敵の矢が届く寸前で、軍を右に転進させた。

すでに右翼が下がっており、レオの軍はスムーズに敵の前をかすめていく。

また空振り。

さすがに駄目かと思ったんだろう。

敵に安堵が広がっていく。

緊張状態からの解放。

その瞬間を狙って、俺はエルナに声をかけた。

「エルナ、敵将に会いにいくぞ」

「止めても無駄なのよねぇ……」

「おい、何を言っている……?」

傍で俺の言葉を聞いていたヴィンが正気を疑うような顔で問いかけてくる。

そんなヴィンに対して、俺はエルナの腕を取りながら告げた。

「後始末は任せた」

「おい!?」

ヴィンの声がすぐに遠くなる。

エルナに連れられ、俺は安堵している敵の正面城壁へたどり着いた。

そして。

「連合軍総司令、アルノルト・レークス・アードラーだ。敵将、ドロルム殿に会いに来た。お目通りは叶うだろうか?」