作品タイトル不明
第六百八話 旗艦アルフォンス
「半包囲完了! 敵船多数が燃えています!」
「体当たりに気をつけつつ、砲撃を絶やすな。包囲から逃れた船は?」
「三隻が逃れ、要塞に向かっています!」
報告を受け、俺は自分の目で逃れた船を確認する。
いくら天隼部隊の空襲で混乱していたとはいえ、数は向こうの方が上。しかも海上だ。
完璧に包囲するのは難しい。
逃してしまったこと自体はしょうがない。
ただ、包囲された味方を見捨てて要塞方向に向かうのが予想外だ。
「狙いは避難船か」
要塞からは続々と船が出ている。
ほとんど船のギリギリまで人を乗せている。
どう見ても非戦闘員。
おそらくモンスターに追われた民を保護していたんだろう。彼らを海に逃がすため、レオたちは戦っている。
すでに多くの船が要塞を出立している。
残っているのは二隻のみ。
今更、最後の二隻を襲ったところで意味はない。
まだまだモンスターは残っているが、最初ほどの勢いはない。
大人しく撤退すればいいものを。
なぜ民間人を狙うのか?
「理解できないな」
どうせやられるなら相手も道連れに。
その思考は理解できるが、包囲から逃れたなら逃げることもできる。
それをせず、特攻のように避難船へ向かっている。
「帰還を禁じられているのか? それとも避難船を逃してはならないと厳命されているか?」
帰還できないからやけになっているのか、それとも命令をしっかり守ろうとしているのか。
ほぼ間違いなく前者だろうな。
今更、最後の船を沈めたところで意味はない。すでに何隻も海に出ている。
絶対に始末しなきゃいけない相手が最後の船に乗っているなら可能性もあるが、それを知る術は王国海軍にはないはず。
それにレオよりも優先度の高い相手なんて、そうはいない。
だとすると、非常にまずい。
自棄になっている相手ほど面倒なものはない。
「艦隊に告ぐ。これより旗艦アルフォンスは避難船の護衛に回る。半包囲維持しつつ、被害を最小限に抑えるよう心掛けろ」
旗で信号を送ることを諦め、俺は声を艦隊全体に届ける。
これは相手側にも伝わってしまう諸刃の剣だが、この状況では早さこそが一番だ。
「反転し、要塞へ向かう。逃げた船と避難船の間に割って入れ」
「旗艦自らですか?」
「今からじゃこの船でしか追いつけない」
先行しているのは逃げた船。
後から追いかける形になる。
他の船ではおそらく間に合わない。
可能性があるのは最新鋭船であるこのアルフォンスだけだ。
船長も俺の言葉に納得したのか、船を要塞へと向かわせる。
「全力で追うぞ! この船は速い! 追いつけるはずだ!」
船長の言葉を聞き、俺は深く息を吐く。
追いつくことは可能だろう。
だが。
「船長! 結界発生装置は使えるか!?」
「長くは無理です! ほとんどの魔力を雷霆に使ったあとですから!」
旗艦であるアルフォンスには防御用として、結界発生装置がついている。
名前のとおり、結界を張って船を防御できる。
だが、魔法を使うのには魔力がいる。
その大半を使い果たした今、旗艦アルフォンスはただの性能のよい船だ。
追いついたとして、三隻から避難船を守れるかという問題が出てくる。
「船長、魔導砲で三隻をさくっと沈められるか?」
「無茶を言わんでください! 沈められて一隻です! しかも一心不乱に避難船を目指してる! あれを止めようと思ったら相当な火力が必要です!」
「同意見だ」
無茶なことを言っているのは百も承知。
それでも止めなきゃ避難船を沈められてしまう。
わざわざレオたちが体を張ったのは、この避難民の船を逃がすためだ。
たかが一隻。
しかし、その一隻を逃がすために命を落とした兵士たちがいる。
「敵船! 砲撃開始!」
「結界を展開! 射線上にアルフォンスを割り込ませろ!」
「長くは持ちませんよ!」
「手は考える!」
船長にそう返すと、船長は諦めたようにアルフォンスを三隻と避難船の間に割り込ませた。
三隻の砲撃がアルフォンスに降り注ぐ。
その間に避難船は離脱しようとするが、ギリギリまで避難民を乗せているせいか動きが遅い。
「左舷魔導砲! 一斉射!」
俺の指示を受け、左舷の魔導砲が一斉に火を噴く。
そのうち、一発が三隻の一つに当たった。
しかし。
「敵船! 止まりません!」
「このままぶつかるつもりですよ!」
「結界最大出力! 左舷に集中展開して受け止める! この場を死守しろ!」
「この船が持ちません! この船は初代皇帝の名を冠した旗艦ですよ!?」
「初代皇帝の名を冠したならなおさら逃げられない! 無力な民のためなら初代も許してくれるさ! 全力防御! 衝撃に備えろ!」
被弾した敵船がアルフォンスへと突っ込んでくる。
それに対して、アルフォンスは結界を左舷に張って、それを受け止めた。
大きな衝撃。
敵船が燃えながら沈んでいく。
なんとか結界が維持できたため、アルフォンスは無事だった。
しかし。
「結界消失! 敵船はなおも二隻健在! こちらへ突っ込んできます!」
「閣下! 手がないなら道を開けますよ! 避難船よりもあなたを守る責務が私にはあります!」
船長の警告を受けて、俺は右手に魔力を集めた。
船に積まれた魔力炉心に魔力を送ろうとしたからだ。
魔力さえ復活すれば、結界を張ることができる。
結界さえ張れれば、アルフォンスを突破することはできない。
そのための行動だったが。
『やめておけ。これから魔力を使うのだ。温存するのが賢い選択だぞ』
声が後ろから響いてきた。
振り返ると白いローブに身を包んだ男が立っていた。
深くフードを被っているため、その顔は窺えない。
ただ、ニヤリと笑ったのだけはわかった。
『まぁ、わかっていて〝それでも〟と、行動したのは気に入った。少しだけ手を貸してやる。この船なら少しだけ小細工もできるのでな』
そう言って男は消え去った。
周りには声が聞こえていないようだった。
一体、何事かと思っていると。
「魔力炉心が復活しました! ほぼ全快です!」
「どういうことだ!?」
「わかりません! ただ、魔力はたくさんあります!」
「理由はあとだ! 結界にすべて回せ! 残る二隻も近づけさせるな!!」
突如として稼働し始めた魔力炉心。
その魔力を結界につぎ込み、アルフォンスは二隻の突撃を受け止めた。
衝撃は消しきれなかったが、突撃した二隻のほうは結界に阻まれてダメージを受けている。
「左舷魔導砲用意!」
「魔導砲用意完了!」
「撃て!!」
突撃を阻まれ、二隻は沈まないまでも無防備な姿をさらしている。
その隙を逃さず、左舷の魔導砲を撃ちまくる。
抵抗することもできず、至近距離で砲撃を受けた二隻はゆっくりと沈んでいった。
アルフォンスの中で歓声が上がる。
だが、俺はそれよりも先ほどの声のほうが気になっていった。
あれは一体、誰なのか?
いきなり魔力炉心を復活させるなんて、並みの魔導師ではできないし、俺に気付かれずに船に乗るなど不可能なはずだ。
「閣下! 閣下!? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ、平気だ」
「これからどうされますか? 上陸して戦いますか?」
いまだモンスターは健在。
それらをどうにかしなければ勝利はない。
王国艦隊自体はほぼ壊滅状態に追いやったが、主力はモンスター群だ。
上陸し、レオの加勢に向かうことを視野に入れた時。
空を見て、その必要がないことに気付いた。
「――遅かったな」