作品タイトル不明
第六百七話 航空戦力
随伴船オスカー。
旗艦アルフォンスとの連結を解除したこの船は、即座に行動を開始した。
「前部ハッチ、後部ハッチ、双方開け! 天隼部隊を出撃させろ!」
随伴船を任された船長は帝国海軍の精鋭。
随伴船自体も問題はあれど、最新鋭船。
さらに特殊な運用をするため、柔軟性が求められた。
その中で、アルが随伴船の船長に一番求めた素養は性格の良さ。
随伴船が目立つことはない。
雷霆を発射するときも脇役。天隼部隊を展開するときも脇役。
主役になることはないし、なってはならない。
ゆえにその立場を苦にしない者が選ばれた。
「船長! 長旅で世話になった! 迷惑ばかりかけてすまなかったな!」
第六近衛騎士隊の隊長、ランベルトは船長にそう声をかけた。
天隼を船に乗せての航海。
すべてが初めての経験だった。
船に合わない天隼もおり、その度に随伴船は対応に追われていた。
それでも随伴船のクルーは嫌な顔をせず、その問題に向き合った。
彼らを無事に戦場に連れて行くのが務めだったからだ。
「いえ、それが我々の仕事ですので。お帰りをお待ちしています。ランベルト隊長」
「こっそり良い酒を持ち込んでいるんだ。戻ったら一緒に一杯やろう」
「楽しみです」
船長の返事にランベルトは笑みを浮かべると、装備を整えて自らの天隼に跨る。
ランベルトの天隼は比較的、船に慣れており、船内に閉じ込められても文句を言うことはなかった。
しかし、文句を言う天隼もいた。不満を解消するため、幾度も随伴船は天隼たちの空中散歩に付き合わされた。
天隼を収容するため、人の居住性もそこまでよくない。
大型船なのに、人員も最低限まで絞られた。
そんな彼らを見ていることしかできなかった。
天隼乗りであるランベルトには、船の知識はない。邪魔をしないようにするしかなかった。
だから決めていた。
「上がるぞ!!」
開かれたハッチからランベルトは空に上がる。
続々と各随伴船から天隼が飛び立つ。
彼らが全員上がってくるのを空で待ち、ランベルトは指示を出す。
「第一小隊は敵艦隊に攻撃を仕掛ける! 第二小隊は艦隊の上空で直掩に当たれ! 行くぞ! 我々の戦果が各母船の戦果だ! しっかりと持ち帰るぞ!」
ランベルトの指示に第六近衛騎士隊の隊員たちは応じる。
そして二隊に分かれて、行動を開始した。
一隊は先行している帝国艦隊の上空。万が一、偽人兵が襲来したとき用の護衛だ。
もう一隊はランベルト率いる強襲部隊。
先行している艦隊を追い越し、空から王国艦隊を視界に収める。
元々、この大陸の軍船は対軍船を想定して作られている。
空飛ぶモンスターを相手にするようには作られてはいない。
ゆえに偽人兵を投入すれば、連合艦隊はあっさり敗れると王国側は思っていた。
だが、同じことを帝国も考えていた。
「魔導砲の射線に入らないように気をつけろ! 新型の六十三式をお見舞いしてやれ!」
そう言ってランベルトは新型の魔導杖を構える。
これまで使っていた六十一式の正当進化。
より小型化し、取り回しがよくなっている。
一番の特徴は一回の発射で三つの炎弾を連続して発射できるようになったこと。
本格的な空戦に備えての発明だったが、それが王国の軍船を襲った。
空からの脅威。
クルーが弓で迎撃する程度しか対抗策はない。
猛スピードで突っ込んでくる天隼騎士たちに対して、王国艦隊は有効な手段を講じることができず、やすやすとアル率いる帝国艦隊の接近を許すことになったのだった。
■■■
天隼部隊が展開している頃。
旗艦アルフォンスでも一人の騎士が飛び立とうとしていた。
「閣下! 俺はどうすればいいんでしょうか?」
唯一、旗艦アルフォンスに乗っている航空戦力。
近衛第八騎士隊隊長のフィン。
その扱いに関してアルは無頓着だった。
「好きにしろ」
「はい?」
「空に上がって、自分が行くべきだと思ったところに行け。好きにしていい。すべてお前に任せる」
「そう言われても……」
「いちいち指示を待つな。好きに動いたほうがお前は活きる。だから好きにしろ」
そう言われてフィンはこれ以上、指示を求めるのは無意味だと察した。
すでにアルは指示を出しているからだ。
どうしようか?
そんな疑問を持ちながらフィンは愛竜のノーヴァと共に空へ上がる。
対面にいるのは敵艦隊。
これより艦隊戦に入るのだ。援護に入るべきだろう。
だが、フィンの目は要塞に向いていた。
空からならよくわかる。要塞は苦戦していた。
アルが率いるのは艦隊だ。海上戦力ゆえに、海上戦力を叩くしかない。
だが、フィンは違う。
「好きにしていいって言うなら、好きにしようか」
フィンはノーヴァの首を撫でると、海面ギリギリまで高度を下げて真っすぐ要塞へと向かう。
そして要塞に近づくと一気に高度を上げた。
狙いは空の偽人兵ではない。
それは後からでも対処できる。
今は苦戦中の帝国軍と王国軍の援護が最優先。
そう判断し、フィンは壁に取りつく偽獣兵に狙いを定めた。
「行くよ! ノーヴァ!!」
一気に加速して、第二層の壁へ東側から近づき、壁スレスレで飛行して張り付いている偽獣兵を一気に射ち落していく。
一度、南側へ抜けると反転。
自らの魔導杖を構えた。
「六十四式の力はこんなもんじゃない!」
六十四式魔導戦杖。
実質的にフィン専用に開発された魔導杖であり、一人で近衛騎士隊と同等の戦力を有するフィンの力を活かすために、一対多を想定したものだ。
高速戦闘用に速度優先の雷撃を放つこともできるが、その最大の特徴は溜めを必要とする広範囲攻撃。
六十二式の拡散モードをより洗練させたもの。
その攻撃はもはや魔導杖の枠を超えるものだった。
「行け!!」
放たれたのは十六もの雷撃。
それらは再度壁を登ろうとしている偽獣兵へと向かい、容易く貫通して、続々と偽獣兵たちを倒していく。
貫通力の高い複数の雷撃による地上制圧。
それが六十四式のコンセプトだった。
フィンはすぐさま壁の中央へと移動し、ゆっくりと降下する。
「ご無事でなによりです。レオナルト殿下」
「良い所に来てくれたね。フィン隊長」
「好きに動けと言われたので、こちらに参りました」
「兄さんらしいね。今のでだいぶ楽になった。空の援護にも行ってもらえるかな? 竜騎士団は帝国の貴重な同盟相手だからね」
「お任せを」
レオの指示を受け、フィンは空で激戦をくりひろげる偽人兵と竜騎士団の下へ向かう。
戦況は偽人兵有利。
とにかく小回りの利く偽人兵が捉えられないのだ。
だが、フィンは苦も無く偽人兵の背後を取ると、どんどん撃ち落としていく。
普通の竜騎士にとって脅威となる機動力も、フィンとノーヴァにとっては多少速い程度でしかないのだ。
「かっこいい登場だな! フィン・ブロスト!」
偽人兵に対抗できる竜騎士として奮戦していた黒竜騎士隊の隊長、ロジャーはフィンの近くまで来ると、そう言って笑った。
そんなロジャーにフィンは笑う。
「一応、近衛騎士隊長ですので。見栄えを重視しました」
「出世自慢か? 余裕だな! さすがだ! 少々、敵の数が多い! 減らすのを手伝ってくれるか!?」
「喜んで」
二人の竜騎士は笑い、偽人兵の集団へと突っ込んでいくのだった。