軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八十七話 連合艦隊出航

「へぇ、面白いことになったな」

王国での戦況を聞き、俺は笑う。

傍に控えているセバスは現在の戦況を再現した地図を見ながら、ふむと呟いている。

「あまり面白そうには見えませんな」

「そりゃあ、全てがアンセムの思い通りだからな」

「王国軍を二手に分け、それを帝国軍が二手に分かれて追ってくるのが狙いということですかな?」

「そうだ。急ぎ決着をつける必要があったんだろう。だが、十万超えの大軍同士じゃそう簡単には決着はつかない。だから二手に分かれた。レオがそれに付き合うと読んでな」

「たしかに十万対十三万が、五万対六万ですからな。王国軍にとってはずいぶんと勝算が上がった構図です」

セバスは簡単な数字の話をしたあと、静かに俺のほうを見た。

いくつか疑問が残っているからだろう。

「改めて、なにが面白いのですかな?」

「レオの判断が面白いのさ。これまで慎重に事を運んできた。だから、全軍で北部に向かった軍を殲滅しにいくと思っていた。背後を危険に晒したとしても、全軍で動いていたら対処できる。例え二択を外して、アンセムが背後から襲ってきても、だ」

「つまり、レオナルト様も賭けに出たと?」

「そうだ。アンセムの思い通りにいっているように見えるが……レオにとっても思い通りの展開なんだろうな。こういう展開をレオとしても望んでなきゃ、わざわざ敵の懐に飛び込むわけがない」

「なるほど。しかし、勝ち目があるのですかな? アンセム王子は稀代の策略家。ゆえに守勢に回っていたのでは? 数を減らして、直接決戦を挑んで勝てるとは思えませんが?」

セバスの言葉に俺は頷く。

そこが一番の肝だ。

十三万の大軍を抱えていたときですら、レオは守勢だった。主導権は常にアンセムの手の中だった。

それなのに数を減らして平気なのか?

当然の疑問。

状況的には有利な要素がない。

それなのにレオはなぜ決戦に挑んだのか。

それは。

「後退する王国軍は現状、要塞に向けて後退している。だが、この王国軍が要塞に入ることはない」

「一度入れば、出てこれなくなりますからな」

「そうだ。だから必ず王国中央部に舵を切る。決戦の舞台は中央ということになる。そして、北部に向かっていた王国軍と、それを追う帝国軍は睨み合って動けない。数の差は一万。アンセムならこの程度の差はあってないようなものだ。すでに決戦場の選定も済んでいるだろうし、レオは敵の手のひらの上で戦うことになる」

「聞けば聞くほど勝ち目が見えませんな」

「そうでもない」

俺は王国北部を指さす。

そこを目指していた王国軍はいずれ足を止める。だから、そこにたどり着くことはない。

「両軍が足を止める以上、北部はレティシア傘下のままだ。つまり、王国中央部で戦ってくれるなら、レオにとっては好都合なわけだ」

「また悪い癖が出てますな。あまり自分の頭の中で完結しないでいただきたい。海務大臣がアルノルト様と話をしていて、混乱するのはそういうところです」

「ああ、すまん。説明するとだな。北部都市群を押さえていると、中央部まで伸びる進軍ルートが確保できる」

俺は王国北部から中央部までを指でなぞる。

この進軍ルートを確保しているからこそ、レオはアンセムとの決戦に挑んだ。

五万対六万。当初よりだいぶ規模を減らしての決戦となる。

それはつまり、援軍の効果がより大きくなるということだ。

十万規模の戦いに一万の援軍が来ても、大して効果はない。

だが、五万対六万なら一万の援軍は大きな援軍となる。

「王国北部から援軍が来ると?」

「ああ、けれど、レティシアが王国北部の人間たちを率いるわけじゃない。この進軍ルートを使うのは、ここにいる奴らだ」

そう言って俺は北部から指をずらす。

そこは藩国だった。

「トラウゴット様が出陣するのですかな?」

「やりかねないが、たぶん違うな。出陣するのは藩王ではなく……〝竜王〟だ。大規模な竜騎士団は数万の援軍に勝る」

「藩国に竜騎士団が駐屯しているとたしかな情報はありませんが?」

「情報が漏れていたら意味がないからな。まぁ、俺の推測だから確実ではないが……レオも来ると踏んで行動している。決戦の最中、大規模な竜騎士団が援軍に現れれば……それで決着がつく。逃げるのも難しいだろう」

「自分の力を頼みにしているわけではなく、あくまで援軍を頼みにしていると?」

「来るかもわからない援軍。それを頼るのが不確実なのはわかる。けれど、来ると信じられるだけの実績が帝国宰相にはあるし、情報を隠し通せるだけの才覚がトラウ兄さんにはある。アンセムはきっと来ないと踏んでいるだろうし、レオが自分の力に頼って決戦に挑んできたと読むはずだ。けれど、最初からレオは自分の力をあてにしていない。この戦争は最初から王国対帝国とその同盟国による戦いだ。その有利をレオは十分すぎるほど理解している。だから自分が決め手になるような動きは取ってこなかった。帝国の戦略として、北と南からの援軍が決め手だからだ」

常にレオは戦略に沿って動いてきた。

今回もそこから外れてはいない。

ただ、危険もある。

南からの援軍は確実に来るが、北からの援軍は不確実だ。

レオは来るという賭けに出た。

もちろん来ない場合も考えているだろうが、来ない場合は苦戦必至。

だが、しかし。

「さて……誰かいるか?」

「はっ! ここにおります! 閣下!」

部屋の外に待機していた兵士を俺は呼び出す。

その兵士に対して俺は告げる。

「全軍に通達。一時間後に連合艦隊は全船を以て、王国内に向けて出港する。各自、急ぎ準備するように。以上だ」

「は、はい! 了解いたしました! 一時間後に連合艦隊は全船を以て王国内に向けて出港する。各自、急ぎ準備するように。たしかに伝えます!!」

兵士は敬礼すると慌てて走り去る。

そんな兵士を見送った後、セバスが呟く。

「決戦が中央部なら出る幕がないのでは?」

「無事に勝てれば出番はないな。けれど、無事に終わらない場合、助けてやれる位置にいないとな。レオもそれを期待しているだろうし」

「なるほど」

「それじゃあ母上のことは頼んだ。もしも目覚めていたら伝えておいてくれ。レオの心配はしなくていい、と。どんな状況になろうと……俺がレオを勝たせるからな」

俺はニヤリと笑う。

それに対してセバスは恭しく一礼するのだった。