軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八十三話 全軍集結

三つに分けた前線部隊のうち、右翼がアンセムの奇襲を受けたことを知ったレオナルトは、即座に決断した。

その決断はアンセムにとって最悪なものだった。

「さすがはレオナルトというべきか。憎たらしいほど的確で早い決断だな」

アンセムは敵右翼を潰走させた時点で、次の獲物を見定めていた。

王国軍本隊には帝国軍の監視がついている。

動いたのは少数だと帝国軍もすぐに気づくはず。

ならばこそ、迎撃に動いてくる。

そう読んでアンセムは自分の軍を奇襲地点に潜伏させていた。

だが、レオナルトはそんなアンセムの行動を見越して、右翼潰走と同時に〝全軍集結〟という決断を取っていた。

敵は少数。狙いは各個撃破。

無理に探せば思う壺。

ならば大軍となって、何もできなくさせればいい。

そういう判断であり、それはアンセムにとって絶対に取られたくない策だった。

「勇猛果敢という評判でしたが……慎重ですね。いえ、慎重というより臆病というべきでしょうか?」

「まったくだ。戦力的に優勢な帝国軍を率いていながら、まるでこちらが格上のような采配をする。おかげで付け入る隙がない」

帝国軍右翼は潰走したが、本陣を潰しただけであり、逃げた兵士は大勢いる。

それをレオナルトは収容することを優先していた。

次の手は潰されるし、さきほどの戦勝の効果も薄れてしまった。

とはいえ、まったく効果がなかったわけじゃない。

「撤退だ。これ以上の戦果は望めん」

「よろしいのですか? 敵はより警戒します。次のチャンスはもう……」

「状況は動かした。敵将の一人を討ち、敵に奇襲の警戒をさせている。それで十分だ」

退くことが最善という状況から、いろんな選択肢が使える状況まで改善した。

帝国軍としても退くはずと思っていた王国軍が攻めに転じて、将軍の一人を討ったことにより、このあとの動きが鈍くなるだろう。

帝国軍の優勢は変わらないが、雰囲気はずいぶんと変わる。

「ミレーヌ」

「ここに」

「本隊に奇襲成功と敵将を討ったことを知らせろ。その後、各地の都市にこの情報を正確に伝えろ。正確に、だ。余計な誇張はいらん。それだけで各都市は調略に乗りづらくなる」

「かしこまりました」

アンセムはそうミレーヌに指示を出すと、帝国軍の本陣がある場所に目を向ける。

アンセムの心の中では、どこかレオナルトを過小評価している部分があった。

所詮はアルノルトの弟。

皇太子の座に近づけたのも、裏にアルノルトがいたから。

アルノルトを評価しているがゆえに、御輿のレオナルトに対して評価が低かった。

だが、今回の判断の早さでその評価を改めなければと思い直していた。

「優秀な皇子とは思っていたが……さすがはアルノルトの双子の弟だな。格下と思っていたわけではないが……侮りがたいな」

■■■

「とにかく逃げのびた兵士の保護を最優先だ! ヴィン! 右翼部隊を再編する! 任せたよ! セオドア! 僕は兵士たちの様子を見に行く、護衛を!」

「了解した。戦える者は部隊に組み込む。指揮官はどうする?」

「あとで決める。とにかく王国内に散らばる兵士を集めて! 敵国内で逃走した兵士は野盗になりやすい。彼らのためにも、王国の民のためにも。僕らは責任をもって保護しなくちゃいけないんだ」

「わかった。急いで取り掛かる」

指示を出し終えたレオは兵士の様子を見に行くために馬に跨った。

そんなレオの下に前線から一時後退してきたハーニッシュがやってきた。

「殿下! 中央部隊、無事、後退に成功いたしました!」

「ハーニッシュ将軍、よく我慢して後退してくれた。この判断は僕らを救うはずだ」

右翼が潰走した時。

もっともアンセムに近い位置にいたのはハーニッシュだった。

アンセム現るという伝令が届いたのも、本隊より先だった。

すぐさま救援に駆け付けるという判断もあった。

だが、ハーニッシュの判断は城の包囲をやめて、防衛態勢を取ってレオナルトの指示を待つということだった。

本音をいえば、右翼部隊の敵討ちに行きたかった。それをする自信もあった。

しかし。

「殿下が自制しているのです。私が一人、頭に血をのぼらせるわけにはまいりませんので」

戦争が始まってから、レオナルトは常に安全策を取ってきた。

相手が何をしてくるかわからないからだ。

慎重すぎるという声もあったが、それに対してレオナルトは一言、敵将はアンセム、と返していた。

それだけアンセムを警戒しているという現れであり、その行動がハーニッシュの自制にもつながった。

右翼部隊の潰走はレオナルトのアンセム警戒が正しいことの証明であり、無暗に突っ込めば自分も同じ目にあう。

そうハーニッシュは判断したのだ。

「感謝するよ。兵士の様子を見に行く。君も来てほしい」

「お供します」

「中央部隊の様子はどうだい?」

「後退にはやや不満そうでしたが、士気は高いままです。すぐにでも動ける用意はあります」

「すぐに動きたいのは僕もだけど、まずは潰走した右翼部隊の兵士を保護するのが先さ。それにこの大軍が相手じゃ、アンセムといえど奇襲はできない。向こうも撤退するはずだよ」

「報告では敵軍は一万ほどだったとか……。奇襲とはいえ三万の部隊をあっさり打ち破る指揮能力……想像以上の人物です」

「そうだね。さすがに退くと思っていたけど、あそこから奇襲してくるあたり、どこまでも勝ちにこだわる人物のようだ。正直、翻弄されているよ」

敵の動きはなるべく想定して動いている。

だが、その想定を超えてアンセムは動いて来る。

しっかりと監視網は作った。

それなのに一万の別動隊を作って、その別動隊で三万を潰走させるなど、想定できるはずもない。

どこからパンチが飛んでくるかわからない。

とにかくガードを上げているしかない。

それでもガードの隙間からパンチをねじ込んでくるが、今は耐え時。

敵には明確な弱点がある。

「王国軍は勝利を喧伝するはずだ。それは王国軍にとって追い風だろうけど、もしかしたらアンセムにとっては向かい風になるかもしれない」

「というと?」

「王国は一枚岩じゃない。勝利は人を惑わすものさ。とくに後ろから見ているだけの人間を、ね」

そう言ってレオナルトは馬を走らせる。

その後の数日間。

帝国軍は身動きが取れなくなるのであった。