軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百四十八話 竜人族の姉妹

黄昏の森へ向かったクロエとジークは、黄昏の森に膜が張られていることを確認していた。

「的中だな」

「そうですね。お師匠様の気配が消えたから、転移で帰ったと思ったんだと思います」

そう言いながらクロエはゆっくりと黄昏の森へ歩いていく。

そして近くまで行くと両腰に差した双剣を地面に置いた。

「あたしの名前はクロエと言います。一応、ミヅホを拠点とするS級冒険者です。争いに来たわけではありません。ここにいるジークさんのことを含めて、話したいことがあるんです」

まずは警戒を解かなければ。

また逃げられればキリがない。

さらに、隠れ住んでいる人たちを追いかけまわすのは、クロエの信条に反した。

彼らには彼らの縄張りがある。

黄昏の森は危険な森だと代々、近くの人々は語り継いできた。それを破ったのは子供たちのほう。

ミヅホは危険な土地だ。仙姫の結界があるからこそ、人間は普通に暮らせる。

その恩恵の外に出るのは自殺行為といえた。

人間には人間の縄張りがあり、モンスターや竜人族にはそれぞれの縄張りがある。

尊重しなければ衝突するのは当たり前。

縄張りを侵犯されたなら排除する。人間もそうやってモンスターを狩ってきた。

竜人族とてそうしただけのこと。

だからクロエは竜人族に素直に謝罪した。

「まずは子供たちを解放してくれたこと、感謝します。そしてこちらの非礼もお詫びを。魔導師シルバーは、森を消滅させる気はありません。あれはただの脅しなのです。本人に悪気はないのです。どうかお許しを」

殺すぞ、という脅しは定番だ。

だが、言う人によっては想像力をかきたてられる。

一般人なら、どうやって殺すんだ? と笑えるが、言った者がシルバーなら、どうやって殺されるんだ……と深刻になる。

殺すという行為はシルバーにとって造作もないことだからだ。

実現可能なラインが常人とは違うのだ。

森を消滅させると脅すのは、攻撃するかもしれないぞ、という脅しだ。

だが、シルバーが言ってしまえば、一秒後にそうすることもできるという明確な消滅宣言だ。

本人の気持ちは関係ない。言われた側が想像できるかどうかという話だ。

そしてシルバーには、それを想像させるだけの実績と力がある。

竜人族が逃げるのは当然といえば当然といえた。

「我が冒険者ギルドは幾度か悪魔と交戦し、悪魔の情報を求めています。五百年前の大戦に参加した長老のお話を伺うことはできないでしょうか? 同時にジークさんの姿を戻す方法も探しています。厳しい掟があることは承知の上ですが、どうかお力を貸していただきたいのです」

隠れ住んでいるなら、現在の大陸情勢も理解していないかもしれない。

だからクロエは状況を説明した。

悪魔は大陸に住む者、すべての敵だ。

また悪魔が現れ始めたという情報は、竜人族を動かす可能性がある。

そんなことを思っていると、突然、森の中から一人の女性が現れた。

年は十代後半くらい。

長い紫色の髪に二本の角。

どこか神秘的な雰囲気を纏った美女だ。

「おお! ロレッタ! 久しぶりだな!」

「ジーク!」

ロレッタと呼ばれた女性は、片手を上げるジークの下に駆け寄るとジークを抱きしめた。

「よく無事で……!」

「大げさな奴だな。熊になったからって死にやしねぇよ」

「よかった……」

心底安堵したという様子でロレッタは呟いた。

そんなロレッタの後に続いて、さらに女性が森から出てきた。

容姿はロレッタと瓜二つ。

違いは髪をポニーテールにしていることだけだった。

「やっほー! ジーク!」

「げっ! ルベッタ!?」

「どう? 子熊生活は」

「いいわけねぇだろ! 早く人間に戻せ!」

「えー、可愛いのにぃ」

ロレッタはジークが助けた女性で、ルベッタはジークを熊に変えた女性。

二人は姉妹だった。

しかし、育った環境が違うため、性格は真逆。

大人しいロレッタに対して、ルベッタは天真爛漫。

「可愛いのはそうだな。オレも気に入っているんだが、やっぱり人間の方が色々と都合がいいんだ。あ、そうだ! 長老はどうした!? あの爺! 森に入れるからといっておいて、火山に送り込みやがった!」

死ぬところだったとジークは喚くが、ロレッタとルベッタは苦笑するばかりだった。

「あの魔導師と一緒にいて、死ぬわけがあるまい」

森の中、そこから長老が現れた。

クロエはそんな長老に一礼する。

「お会いできて光栄です。あたしはクロエ。ミヅホの冒険者です」

「知っている。幾度か付近のモンスターを討伐しているのを見かけた。おかげで何度か手間が省けたことがある」

「そうでしたか。それはよかった」

「……ロレッタとルベッタはときたま森を抜け出し、外の世界を見て回っている。たびたび、お主の名を聞くそうだ。二人が信用できるというので、こうして顔を出した。だから言っておこう。信用したのは戦士殿と、ミヅホを守ってきたお主だ」

「そうでしたか……信用してくださりありがとうございます。ですが、話がしたいのは私ではないんです」

クロエの言葉に長老は頷く。

それについては承知だった。

なぜなら。

「大陸を代表して悪魔と戦うのは、あたしの師匠であるシルバーです。長老と話すのはシルバーが適任でしょう。どうかこれまでの非礼を水に流していただけないでしょうか? あたしはミヅホを守ってきましたが、シルバーは大陸を守ってきました。その功績に免じて、どうか」

「……話すのは構わん。仲間たちは逃避行を嫌がっておるからな。追われるくらいなら、ここで決着をつけたい」

「感謝します」

「だが、条件がある。我らは訳あって、長く外には出ない。ゆえに話すならば森の中ということになる」

「ロレッタは長く外にいたぞー?」

「例外もある。〝無事ならば〟問題ない。だが、シルバーに関しては確認ができん。あの仮面のせいだ」

「まさか……」

「シルバーの仮面を外させよ。話はそれからだ」

それは難しいんじゃないかなぁ、と思いつつクロエは頷く。

今は頷くしか手がなかったからだ。