作品タイトル不明
第五百三十九話 仙姫の御所
ミヅホは強力なモンスターがいる土地ではない。
しかし、モンスターが少ないわけではない。むしろモンスターの生息地といってもいい。
だが、大抵は雑魚モンスター。
普段は暴れたりもしない。
だが、ミヅホは自然災害の多い土地だ。
ふとしたことで、モンスターたちは暴れ出す。それを討伐するために、冒険者ギルドの支部があるわけだが、冒険者に人気のないミヅホ支部は万年人手不足だ。
あまり強力なモンスターがいないという点では、帝国と似ているが、ミヅホはその自然災害の多さのせいで突発的に忙しくなる。
冒険者にとっては最悪の環境だ。
だから、好き好んでミヅホで冒険者をやる奴は少ない。冒険者が少ないからモンスターの数は減らない。だから、一度モンスターが暴れ出すと被害が大きくなってしまう。
今、その問題が浮き彫りになっているようだ。
「銀滅の魔導師……帝国のSS級冒険者がどうして……」
「聞いていないのか? 仙姫から依頼があった」
「聞いているが、つい先日の話だぞ……? まさか帝国から転移してきたのか……?」
「それ以外にどうやって来る?」
「船とか馬車とか色々あんだろ。転移が普通みたいに言うな」
俺の言葉にジークが突っ込む。
言われてみれば、たしかにそうだ。
思わず自分でも突っ込みに納得してしまう。
まぁ口には出さないが。
「それで? 手伝いは必要か?」
「か、加勢してもらえるなら非常に助かる」
「状況は?」
「数日前から小さな地震が頻発しており、そのせいでモンスターが暴れ出した。各地に冒険者を派遣しているが、東部のモンスター群だけは手つかずで残っている」
「なるほど。では、俺が片付けよう」
「一応言っておくが、我が支部にあなたを雇うお金はない」
「安心しろ。金を貰うほどの仕事はしない」
ミヅホに強力なモンスターはいない。
ましてやかつてのように津波として、大移動しているわけでもない。
地震に驚いて一部が暴れているだけだ。
ここから動くまでもない。
足で床を叩き、東側に広域結界を発動。
その結界に引っ掛かったモンスター群を捕捉し、そのまま黒い魔力弾をそちらに向かって投げつける。
空で黒い魔力弾は無数に分裂し、モンスター群へ雨のように降り注ぐ。
爆発音も聞こえてきている。
モンスター群の反応は消滅したし、これで終わりだろう。
「モンスター群は壊滅させた。残りのはぐれモンスターたちは自分たちで討伐してくれ」
「嘘だろ……一歩も動かずに……」
「昔、津波を一掃したって聞いたけど……これほどとは……」
「本当に人間か……?」
俺の魔法に慣れてないミヅホ支部の面々は、俺の行動に引いていた。
その反応はわかる。
帝国で活動し始めたときも、大体こんな感じだった。
「おいおい、今の大丈夫か? 誰か巻き込んじゃいねぇよな?」
「安心しろ。確認してから放った」
「長距離転移に探知結界、そして魔力弾による攻撃。疲れた様子も見せねぇし、どんだけ魔力があるんだよ」
ジークの言葉に俺は答えない。
いくら俺でも大陸の中央から東端まで移動すれば、疲れる。
だが、今の俺には聖輪がある。
これがあるから気兼ねなく魔法を使える。
前までどうやって節約しようかと悩んでいたが、そういう悩みが消えたのもありがたい。
「さて、では挨拶は終わりということでいいな? 俺はミヅホにいる。そのことだけ冒険者ギルド支部として、把握しておいてくれ」
「りょ、了解した……それで、どれほどいる予定で?」
「さぁな。それは仙姫に聞くことだ」
そう言って俺は踵を返す。
目指すは遠くに見える城。
そこにオリヒメはいる。
■■■
城を訪ねた俺を出迎えたのは虎人族の老人だった。
「ミヅホ仙国の大臣を務めるコテツと申します」
「SS級冒険者のシルバーだ。仙姫より依頼を受けてやってきた」
「お早いご到着に感謝申し上げます。では、仙姫様の下へご案内いたしましょう」
そう言ってコテツは歩き出す。
俺はその後をついて歩く。
だが、いっこうに階段を上がる気配がない。
「道は合っているのか?」
「仙姫様の御所は城の後ろにございます。結界で周りからは見えませんが」
「なるほど。守護神の居場所は知られないほうがいいということか」
壮麗な城はブラフか。
一般の者は仙姫もここにいると思っているんだろうな。
だが、実際はその奥に本当の居場所がある。
「城は王と高位の職にある者が利用しています」
「王すら仙姫の居場所を誤魔化す材料か」
「この国はそういう国でございます。何事にも仙姫様がいなければ始まりません」
「歪だな」
「なんとでも。歪でなければ生きてゆけぬのです」
すべてが仙姫頼み。
だが、好きでやっているわけでもないか。
そうしなければ生きていけない。隣国である皇国からは圧力を受け、土地は災害が多い。
平穏無事に暮らしていられるのは仙姫のおかげ。
少し、オリヒメが不憫に思えた。
きっとこの先も不自由を強いられるだろう。
あの天真爛漫な性格はそういう環境への反発なのかもしれない。せめて自由にできることは自由に、という。
「ここでございます」
長い廊下を渡りきると、大きな扉があった。
コテツが特殊な印を結ぶと、扉が自動的に開いていく。
そしてその先に小さな扉があった。
コテツがその扉の近くに行き、声をかける。
「仙姫様。シルバー殿をお連れいたしました」
「おお! 早いな! 入るがよい!」
中から相変わらず元気な声が聞こえてくる。
扉が開くと、中ではオリヒメが寛いでいた。
「よく来たな、シルバー。その仮面も相変わらず陰気で安心したぞ」
「仙姫殿も相変わらずだな」
邪気のない笑みを浮かべるオリヒメに対して、俺は力が抜ける。
俺を呼び出すということは、それなりに重大案件なはずだが、オリヒメはいつも通りマイペースだ。
「さて、お互い暇というわけでもない。さっそく用件といこうではないか。コテツ」
「はっ、シルバー殿に依頼したいのは〝黄昏の森〟という不可思議な森に入ってしまった子供の救出です」
「黄昏の森だと?」
俺の肩に乗っていたジークが思わず聞き返す。
その反応を見るに。
「お前の目的の場所か」
「ああ。ところでシルバー、お前さんはどこまで聞いている?」
「ミヅホの森に用がある奴がいるから、連れていってくれと言われただけだ。仙姫殿、これはアルノルト皇子からの紹介状だ」
そう言って俺はオリヒメに手紙を渡す。
そこにはジークの紹介と、ジークの目的が軽く書いてあった。
詳細は本人に聞くように、ということも付け加えておいた。
ジークが話したくないなら、話さないほうがいいからだ。まぁ、その場合はオリヒメの協力は見込めないが。
「ふむ……そなたがアルノルトが話していた喋る熊か。アルノルトは悪魔とは無関係と断言しているが、それは本当であろうな?」
「竜人族が悪魔って判定じゃなきゃないぜ」
「竜人族ですと!? 伝説の一族の名がなぜ!?」
コテツがジークの言葉に驚く。
ジークは結局、オリヒメとコテツ、そしてシルバーとしての俺にこれまでの経緯を話した。
そしてすべてを聞き終えたオリヒメは一つ頷き。
「うむ、では信じよう。そして最大限の協力も惜しまん」
「さすが仙姫だな。器がデカいぜ」
「うむうむ。もっと褒めよ!」
えっへんとオリヒメは胸を張る。
するとオリヒメの胸が盛大に揺れる。
それにジークは釘付けになるが、すぐに俺はジークを掴んで床にたたきつけた。
「ぐうぇ……なにしやがる……」
「心当たりはないか?」
「気づいたってことはお前さんも見てたってことだろうが……このムッツリ魔導師め。べうぇっ!」
右足でジークを踏みつけると、潰れたカエルのような声をあげる。
そのまま俺は話を続けた。
「目的は奇しくも一緒だ。黄昏の森に入り、竜人族と接触する。ジークは稀有な帰還者だ。情報を共有しながら進めるとしよう」
「うむ。では任せた!」