作品タイトル不明
第五百二十三話 担いだ御輿
「来たか」
次の日。
公爵軍は全軍による攻撃を仕掛けてきた。
その足並みがそろっているところを見ると、マルセルが指揮を取っていると見るべきだろう。
向こうの優位は数が多いという点と、攻撃側という点だ。
どこにどういう攻撃を仕掛けるのかという主導権を持っている。
それをマルセルは存分に生かすつもりのようだ。
「こちらに一千! 貴族軍側に五千! 向かっています!」
監視の報告を受けながら、俺はマルセルの一手に感心せざるをえなかった。
俺が注目したのは鷲獅子騎士の配置。
五千側に二騎と、一千側に一騎。
マルセルは分けることを選んだ。
それがこちらの弱点だ。
分散されると対処しきれない。人材に限りがあるからだ。
フィンは鷲獅子騎士が三騎でやってきても食い止められるが、二方面に分かれられると片方しか止められない。
「フィン、外の軍を助けに行け」
「よろしいのですか?」
「構わん」
俺の指示を聞き、フィンは砦から飛び立っていく。
外では二千対五千が始まる。
制空権まで取られていては、勝ち目がない。
一応、ラース隊長とネルベ・リッターを指揮官として派遣してはいるが、戦況を覆すほどの活躍は無理だろう。
だが、貴族軍も陣地を築いている。
すぐにやられることはないだろう。
「おいおい、五千対二千じゃ難しい戦いになるんじゃねぇのか?」
「難しいのはこっちのほうだ。あっちは囮。狙いはこの砦だ」
定石通りの動き。
そう見えるが、わざわざ鷲獅子騎士を一騎、こっちに残しているのは砦攻略もする気だからだ。
フィンが対処しきれないほうを一気に潰す。そういう作戦なんだろう。
だが、向こうも一千。しかも攻城兵器はない。
どうやって攻めてくるのやら。
「ジーク、護衛は任せた。俺は指揮に集中する」
「了解だぜ!」
■■■
「西から来るぞ! 予備隊向かえ!」
砦は小さい。
城壁の高さも大したことがない。
だから四方に二百ずつ置いて、中央に予備隊を設けた。
相手が狙う場所に予備隊を投入し、対処していた。
一方、マルセルもこちらが対処しきれずにボロを出すのを我慢しているようで、攻撃する素振りを幾度も繰り返している。
予備隊の動きが少しでも遅ければ、そのまま突破をかける気だろう。
「おい! あいつら本当に落とす気あるのか!?」
「あるから揺さぶっているんだ」
「やっぱり五千が本命でしたって話じゃないのか?」
「だとしても、すぐにどうこうできやしない」
貴族軍二千の中には、少数ながら帝国南部国境守備軍の者がいた。
彼らを指揮官として、ラース隊長たちと共に配置している。
経験豊富な現場指揮官がこちらにはいるということだ。向こうにはそれが少ない。
だから現場での機転という点ではこちらが優れている。
数の上では倍以上だが、戦力という点ではそこまで差はないだろう。
空はフィンが制圧しているし、三騎だったのが二騎に減ったため、地上に介入する余裕も見えた。
向こうは問題ない。
問題なのはマルセルが直々に指揮する一千。
こっちは本当に何をするかがわからない。
「東に敵が集中し始めたぞ! 移動準備!」
予備隊に声をかけた時。
俺は敵陣から鷲獅子騎士がいなくなっていることに気付いた。
すぐに空だと気づき、見上げると俺たちの真上に鷲獅子騎士がいた。
その鷲獅子騎士が空から木の樽をいくつも投げてきた。
樽は主に西側に落ちて、破裂する。
中身は液体だった。その液体が何かは匂いでわかった。
「油か! 火矢が来るぞ!」
空からの投入のため、かなり深いところまで油が入ってきている。
警告を発した時には火矢がもう放たれており、砦の西側は炎に包まれたのだった。
その光景を見ながら、俺はジークに指示を出した。
「東から来るぞ! 防げ!」
予備隊だけでは間に合わない。
多くの兵士が火を前にして混乱し、消火しようとしてしまっている。
そのせいで配置が大きく崩れてしまっている。
西側の火は強いが、そのせいで敵もやっては来られない。
だから事前に準備した東から来る。
その読みは的中した。
「敵襲! 敵襲!!」
東側に残っていた兵士が大声をあげる。
だが、火事による騒ぎで声が響かない。
その間に敵は一点集中で、東側からの攻略を開始していた。
梯子がいくつもかけられ、続々と敵兵が上ってくる。
ジークも駆けつけ、何とか防いでいるが敵の勢いが半端じゃない。
勝負は一瞬。
その隙を逃すなと厳命されているんだろう。
敵兵たちは死に物狂いで突破を図ってくる。
「たかが一日で士気を回復させて、命を賭けさせられるようにするとはな」
それだけ勝利を信じさせることができたということだろう。
だが、あくまでマルセルは客将。
アルバトロ公国の兵士たちの心を完全につかむことはできない。
こちらとは違って。
「狼狽えるな!! 火を恐れるな! 東に集中するんだ! 敵兵を追い落とせ! 声を上げろ! 敵の勢いに呑まれるな!!」
剣を片手にジュリオが東側の前線に立った。
油の投入から始まったこちらの混乱が一気に収束していく。
自然と兵士たちの目がジュリオに引き付けられ、ジュリオの後に続いていく。
敵兵も前線で剣を振るう公子の姿を見て、最初の勢いが消えていった。
「危なかったな……」
俺は用意していた魔法を解除する。
ジュリオが動けないようなら、多少不自然でも風を吹かせるつもりだったが、的確なタイミングで動いてみせた。
その働きは魔法以上の価値がある。
「さて、どうする? マルセル」
これは帝国と王国の代理戦争。
担いだ御輿の比べ合いになれば、負ける要素はない。