作品タイトル不明
第五百六話 切れ者
二人を試すと宣言した俺は、その準備のためにジュリオと共に城を歩いていた。
そこで対戦相手と顔を合わせることになった。
「これはこれは、アルノルト殿下とジュリオ公子。どちらへ行かれるのですかな?」
「マルセル大使。少しジュリオ公子に都の案内をしてもらおうかと。そういうマルセル大使はどちらへ? パストーレ公爵の下へ行くのですか?」
鉢合わせたのはマルセルだった。
マルセルの横には女騎士ともう一人、見たことない人物がいた。
青年だ。ただし小太りで護衛には見えない。
「いえいえ、今日は別の用件です」
「僕と会談していたのですよ」
そう言って小太りの青年が前に出てくる。
そしてドヤ顔で一礼してみせた。
ドヤ顔でするならもう少し優雅にやってほしいものだ。
「あなたは?」
「僕の名はバルナバ・ディ・パストーレ。パストーレ公爵の息子です」
「ご子息だったか。なるほど、お父上の名代かな?」
「いえいえ、今は父より僕のほうが動くことが多いんですよ。実質的に僕が当主です」
名代という言葉が気に食わなかったのか、バルナバはあえて当主というのを強調してきた。
よくわからないプライドを持っているみたいだな。変な奴だ。
おそらく、公爵の息子として扱われるより実質的な公爵家の当主であるという風に扱われるほうが丁重だと思ったんだろう。
甘いな。
帝国の皇子にとってはどっちでも一緒だ。
「そうか、頑張ってくれ。マルセル大使、そちらの女性は護衛かな?」
もうちょっと何か会話があると思ったんだろう。
バルナバは固まっている。
たしかにバルナバはパストーレ公爵が王として君臨すれば、公子だ。
だが、まだ王にはなっていない。
こちらが敬意を払う対象とは言えない。
そんなことよりも、王国の使者であるマルセルのほうが優先度は高い。
「ああ、俺の最も信頼する護衛であるリゼットだ。リゼット、殿下に挨拶を」
「リゼットと申します」
短く切り揃えた赤い髪。
身に纏った軽装の鎧も赤で統一されている。
可愛いよりも美人よりの顔立ちだが、愛想がとにかくない。
今も面倒そうな表情を浮かべている。
「アルノルト殿下は勇爵家の神童と親しいと聞く。護衛として来たのは彼女ではないので? 前回はそうだったと聞いたが」
「帝国には備える敵が多いのでな。今頃、どこかの国に派遣されているかもな」
どこかの国なんて言っても、そんなのは一つしかない。
俺が鼻で笑うとリゼットが一歩前に出た。
あまりにも俺が不遜だったからだろう。
だが。
「よせ、リゼット」
「ですが!」
「我が王国は聖剣を恐れる。まぁそれはどの国でも同じだろう。恥じるべきことじゃない。ただ、勇爵家を恐れているわけではない。聖剣がなければただの猛者。軍勢で対処はできる」
「聖剣を使われないと?」
「使える材料がそろっているなら聞きたいものだ」
「悪魔の拠点が王国にあった」
「その後、しっかりと冒険者ギルドが捜査をした。王国も全面的に協力した。それでまだ王国を根城にしているなら、悪魔側の潜伏を褒めるべきだろう。王国に落ち度はない。使うなら悪魔が現れてからにするべきだ」
「王国は悪魔と協力関係にはないと?」
「そう思われても仕方ないことは理解しているが、こちらも無実を証明する努力をしている。それを無視して人類の敵として扱うことはできまい」
すべてマルセルの言う通りだ。
王国が悪魔と繋がっている証拠はない。すべてギルドや帝国の憶測だ。
それだけで聖剣を使えば、人類を守るための武器を悪用していると言われかねない。
「納得していただけたかな?」
「とりあえずは」
「それで十分だ。聖剣の問題がなければいくらでもやりようがある」
そう言ってマルセルはリゼットとバルナバを引き連れて俺たちの横を通り過ぎていく。
「さすがは第三王子の側近というべきか。よく状況が見えているな」
「彼は恐ろしいほど優秀です。的確なタイミングで的確な情報を出してきます。そのせいで我が国の重臣たちの多くは親王国派へ……」
まずさっさと公国に来ていることがすごい。
送り込んだ第三王子を褒めるべきだろう。
帝国の戦力を削り、自分たちに最大の利益をもたらす場所をよくわかっている。
そこに送り込んできたのは全体像が良く見えているマルセルだ。
あれだけ全体が見えている部下がいれば、楽だろうな。
「隠れた傑物ってのはいるもんだな」
あいつに同じ匂いを感じたのは、自分を偽っているからだろうか。
マルセルの名は今まで聞いたこともなかった。
あれほどの男ならいくらでも手柄を立てられただろうに。
それだけ第三王子に忠誠を誓っているのか、それとも別の理由があって表舞台に出てこなかったのか。
「ジュリオ公子、あまり言いたくないんだが」
「何でしょうか?」
「……あの男が想像以上の切れ者だとしたら、勢力争いだけじゃ終わらないかもしれない」
「というと?」
「血が流れるということだ。大量に、な」
どんな物事でも相手がいる場合、相手が何をしてくるか予想して動くことになる。
だが、相手が予想できない場合は?
大抵の場合、こちらが嫌う状況になる。
今、俺たちは武力衝突を避けたい。
向こうも最後の手段だと思っているだろう。
しかし、しなければ負けると思えば動くだろう。
「僕は最後まで戦います。彼らの好きにはさせません」
「意気込むのはいいが、勝ち目のない戦いに挑むのは大馬鹿者のすることだ。まずは勝ち目を見つけるぞ」
そのためには後見人がいる。
周りが一目置く相手が。
「とりあえずオスカルとラウルの二人を試すとしよう」
「アルノルト殿下、二人が信用できない場合はどうするのですか?」
「決まっている。信じずに用いる」