軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十九話 叔父上

一人でということで、俺はフィーネと別れて旗艦の中を歩いていく。

案内されたのは旗艦の一室。

そこにいたのは意外な人物だった。

「これはこれは。お久しぶりです。〝叔父上〟」

そこにいたのは四十代くらいの男性だった。

髪は短く、スラっとした体型のせいか年よりも若く見える。これは兄と同じだろう。

「久しいな、アルノルト」

男性の名はディートヘルム・フォン・ベルクヴァイン公爵。

父上の弟だ。

父上には五人の兄弟がおり、三人は父上と敵対して命を落とした。残る二人は父上を支持し、公爵に封じられた。

叔父上は第三皇子という立場ながら、父上を真っ先に支持し、勢力基盤を固めることに貢献した重要人物だ。

叔父上がいたから父上は昼行灯を気取っていられたし、そのせいで他の候補者たちは父上に帝位を奪われた。

そんな叔父上だが、父上が帝位についたあとは公爵としては小さすぎる領地を貰い、そこで隠居していた。家族として過ごす時に、たまに顔を出す程度の人だ。

当然、二度目の帝位争いにも関わる気配がなかった人だが……。

「先に謝っておこう。突然、すまないな」

「いえ、しかし、どのようなご用件でしょうか? 父上から何か用事ですか?」

「今回のことは兄上は関係ない。私は隠居した身だが、それなりに各地の友人たちとは連絡を取り合っている。そして先日、危機を告げる連絡が私の下へやってきた」

「アルバトロ公国ですか?」

「そうだ。すでに王国の使者が公国入りをしている。その圧力に公王はタジタジらしい。それはまぁいいんだが、周りの貴族はそんな公王が頼りないと思っているようだ」

大体、話の流れは掴めてきた。

思ったより厄介な旅になりそうだな。

「もうわかったと思うが、公国で反乱の機運が高まっている。公王が態度を決めかねているのは、帝国と王国との間で揺れているからだ。王国もそんな王よりは自分たち側の王のほうがいいだろうから、全力でサポートするだろう。今行けば確実に騒動に巻き込まれる。高い確率で人質にされるだろう」

「ですが、行かなければ公国が取り込まれます。公王には援軍が必要かと」

「ロンディネ公国に支援させればいい。わざわざ危険な場所に足を運ぶ必要はないはずだ」

叔父上の説得に俺はしばし黙り込む。

相手は先手を取ってきた。

すでにこちらは後手。やれることは限られている。

だが。

「王国の指揮を取っているのは第三王子だとか。年は俺よりも少し上。毒を盛られてから表舞台には出てきていませんでしたが、その才は武王の誕生を予感させるものだったとか」

「いかにも。連合王国との戦いにも序盤は参戦していた。彼がいるうちは連合王国は上陸もままならなかった。だが、彼が毒を盛られてから王国軍は大きな混乱を迎え、聖女が出てくるまで押し込まれ続けた。そんな男が先手を取った。無理をすれば命を落とすぞ?」

「そうかもしれませんが……公国を取り込まれれば戦況は決定的になってしまいます。それがわかっているから、先手を取った。戦いはすでに始まっており、ここが勝負の分かれ目でもあります。どうであれ行かねばなりません」

「レオナルトに手柄を立てさせたいのはわかる。だが、レオナルトはまだ若い。兄上もまだまだ壮健だ。一方、王国の第三王子は毒に侵されている。勝負に付き合う必要はあるまい。兄上のことを気にしているならば、私が説得しよう。勝負を焦る必要はない」

叔父上の言葉は非常にわかりやすい。

とても理にかなっている。

だが、一つ想像に欠けている部分がある。

相手の力量だ。

「叔父上。相手は強敵です。自分の体のことも承知の上でしょう。帝国と膠着状態を作るだけで満足するとは思えません。きっとここで公国を取り込むことを許せば、そのまま皇国とも連携して帝国へ攻めてきます。自分に時間が少ないとわかっているからです」

「私もそれは考えたが、皇国がそんな賭けに乗ってくるだろうか?」

「父上は壮健ですが、皇王は老齢です。皇太子は早く権力を手中に収めたいはず。先手を取らせ続ければ、思い描いたとおりにされてしまいます。どこかでこちらが先手を取らねば。それに……」

「それに、なんだ?」

「叔父上の情報網にだけいち早く引っ掛かるのも妙です。来させたくないから、あえて情報を流したとみるべきでしょう」

「なに……?」

すでに隠居している叔父上の下へ真っ先に情報が来るだろうか?

あえて情報を流し、引き留めさせる。そんな意図が見える。

相手は相当なやり手だろう。

「私が手の平で踊らされたと……?」

「叔父上は何も間違っていません。危険ですし、確実なのはロンディネ公国を上手く使うこと。ですが、先手を取られている以上、八十点の動きをしていては追いつけない。俺は危険でも百二十点を求めます。お許しを、お気遣いを無駄にします」

そう言って俺は部屋の扉を開けた。

これ以上の説得は無意味。

そう判断して、叔父上は部屋を出ていく。

「アルノルト。私はそれなりに頭が働く方だと自負している」

「父上を帝位につけたのですから。当然です」

「そうだ。だが、相手は私をいとも簡単に利用した。強敵だぞ?」

「ご安心を。騙し合いは得意ですので」

「そうか……私は南部国境守備軍の下へ向かう。いざとなれば軍と共に駆け付ける。無茶はするな」

「感謝します」

一礼したあとに、俺は叔父上をその場で見送る。

叔父上は隠居している身だ。

帝位争いとは関係なく、俺の身を案じたとはいえあまり会っていたことがバレるのはよろしくない。

叔父上自身が派閥争いに巻き込まれたくないだろうしな。

しかし、隠居している叔父上を上手く使ってくる奴だ。

たしかに強敵だろう。

王国の指揮を取る第三王子もだが、公国へやってきた使者もやり手のはず。

「さて、どうしたものかね」

叔父上の言う通り。

ただ行くだけならば人質になりにいくようなもの。

策が必要だ。