軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十話 配置換え

帝都に戻った俺はそのまま玉座の間に向かった。

「お人払いを、皇帝陛下」

「いきなり来て、それか。ずいぶんな男だな? お前は」

「緊急なのでな」

「よかろう」

そう言って父上が人払いをした。

横には宰相のフランツのみが残る。

それを確認して、俺は説明を始めた。

「しばらくの間、帝都へノーネームが来る。ご承知願いたい」

「承知できるとでも?」

「しばらく俺は帝都を空ける。その間だけだ。悪魔への備えがあるからな」

「あなたが帝都を空けるとは。一体、どういう風の吹き回しですかな?」

帝都の守護者。

そんな風に俺を呼ぶ者がいる。

基本的に俺が帝都から動かないからだ。

転移で移動することはあっても、帝都以外を拠点にすることがない。

だから俺が帝都を離れるというのは異常だし、その代わりにノーネームが来るというのも異常だ。

「ギルドは魔奥公団が壊滅したとは考えていない。少し裏で調べる。動きがあるとすれば王国からだろう。そのための備えと思ってほしい」

「筋は通っていますが、SS級冒険者がそうも簡単に動くのはいかがなものでしょうか? 言い方は悪いですが、あなた方は動くだけで嵐を巻き起こす」

「否定はできんな。だが、俺を信じていただきたい」

ここで自分を信頼してほしいというのは悪手だ。

俺への信頼はたしかにあるだろう。それは間違いない。

だが、それがあるからこそ、俺の代わりにノーネームが帝都に来るのはなかなか受け入れられない。

もしも受け入れるなら、条件が必要となるだろう。

「たしかにお前のことは信頼している。だが、お前を信頼しているからこそ、その提案を受け入れることはできん」

「同感ですな。もう少し先の話ならばまだしも、急すぎます。帝都の冒険者にも混乱が出るのでは?」

「出るかもしれんな」

「かもしれんでは困る。混乱が起きるようなら、ノーネームは不要だ」

「そういうわけにはいかないだろう。悪魔への対処を担っているのはギルドだ。あくまで調査だ。そう長い期間にはならない。どうか了承してほしい」

SS級冒険者は嵐を起こす。

フランツの言葉は正しい。

人の多い首都に受け入れるのは抵抗があるだろう。

ましてやノーネームは謎が多いSS級冒険者だ。

「了承と言われてもなぁ……」

「SS級冒険者が問題を起こした時、対抗できる手段は限られています」

「帝都には勇爵家がいる」

「聖剣を帝都で使えと? SS級冒険者を止めるためにか? そんな事態が万に一つでもあるなら、帝都には受け入れられん」

まぁそうだわな。

父上の言葉に思わず頷きそうになる。

だが、帝国としても冒険者ギルドの決定を蔑ろにはできない。

決定は決定。

受け入れざるを得ないだろう。

どうせ受け入れるなら良い条件で。

そう考えるはず。

「平行線だな。ではどうしろと?」

「あなたがいるならば、話は別です」

「なるほど。俺が帝都にいるならばノーネームを受け入れるというわけか。はぁ……いいだろう。転移魔法でなるべく様子を見に来る。それでどうだろうか?」

「悪くはないが……そうポンポンと使ってよいのか?」

「調査に魔力はさほど必要ない。心配ご無用だ」

父上の心配はもっともだ。

転移魔法は距離が離れれば離れるほど、格段に魔力を消費する。今までだったら負担の大きい提案だっただろう。

だが、俺の指には今、リナレスから受け取った聖輪がつけられている。

どうせギルドで保管していても、宝の持ち腐れということで俺が受け取ることになったこの聖輪の効果は〝魔力の急速回復〟だ。

聖輪はほかの四宝聖具と違って、使用者を選ばない。ただし効果がより限定的だ。

使用者の魔力を回復させるということは、弱い魔導師が使っても恩恵はあまりない。総量が増えるわけではないからだ。

だが、強力な魔導師が使うと途端に化ける。

強大な魔法を連発できるようになるからだ。それなりに強い魔導師も、これを装備すれば戦局を変える魔導師に早変わりとなる。

ギルドで保管していたのはそのためだ。

尤も悪用されやすいだろうから、誰にも託されずに保管されていた。

それをリナレスは俺に託した。

おかげでこの策が問題なく使える。

暗躍に魔力を使うため、戦闘に魔力を全振りできないという俺の弱点はこれで解消される。

「それが可能ならノーネームの派遣はいらないのでは?」

「いつでも俺が戻ってこれるわけではない。あくまで俺の転移は保険程度と考えてほしい」

「そう言われると不安だな」

「そうだろうと思って、新任のS級冒険者の派遣を提案しておいた。帝国出身のS級冒険者だ。役に立つことを保証しよう」

「ほう? お前がそこまで言い切るか? それに帝国出身の新任S級冒険者とは聞いたことがないぞ?」

「今頃、なったばかりだろうからな。実力のほうは保証しよう。なにせ俺の弟子だ」

一瞬、父上は目を見開き、フランツのほうを見る。

フランツもさすがに驚いた様子だった。

「お前の弟子だと……? いつ弟子など迎え入れた?」

「数年前だ。ずっとミヅホにいたから知らなくて当然だろう」

「そんな逸材が帝国にいたとは……」

「さらに言うなら帝国魔導学院の出身だぞ。まぁ退学者だがな」

「なに? S級冒険者になった逸材を退学させた? 帝国魔導学院がか!?」

「古代魔法を教えられるのは古代魔法を使う者だけだ。仕方ないだろう」

俺は肩を竦める。

父上は悔しそうに顔を歪めていた。当然だ。帝国魔導学院に在籍したままなら、自国の戦力にできたのだから。

数年越しで失態を咎められるかもしれないが、まぁ俺の弟子を退学させる方が悪い。

甘んじて受け入れてもらおう。あの学院には。

「その弟子の名は?」

「クロエ。いずれはSS級冒険者になるだろう、俺の弟子だ」

「ふむ、シルバーが転移で睨みをきかせ、お前の弟子まで来るというなら不満はない。できればノーネームは来ないでほしいがな」

「そこはギルドの決定だ。我慢してもらおう」

ノーネームはいらないから、帝国出身のクロエだけ来てほしい。

それが父上の本音だろう。

実際、フランツは俺の言葉に裏があることを見抜いている様子だ。

まぁでも認められたことには変わらない。

これで下準備は整った。

俺は一礼して、その場を後にしたのだった。