軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十九話 攻撃的な男

食事が終わり、俺たちが椅子から立ち上がった瞬間。

それはやってきた。

放たれた矢のように真っすぐに、俺へ向かって誰かが突っ込んでくる。

構えているのは炭化したような剣。それが俺に向けられた。

それをエルナが受け止めた。

机の下に隠してあった小さな剣だ。

エルナの愛剣ではない。

そのせいか、一瞬の激突のあと。

その剣は折れてしまった。

だが、奇襲は防いだ。

「ロスアークの弟子、ナイジェルか?」

灰色のフードで顔を隠していた刺客。

それに対して俺は質問する。

刺客はゆっくりとフードを取る。

赤みがかった茶髪に青い瞳。

街を歩いていれば、誰もが振り返るほど端正な顔だ。だが、その目は黒く濁っている。

見ている者に恐れを与えるその目を見て、セオドアの言葉を良く理解できた。

たしかに堕ちた弟子なのだろう、と。

「俺の存在を知っているのに、わざわざ外出を?」

「城に籠っていると健康に悪いんでな」

「なるほど。その姿勢が寿命を縮めたぞ? 贄となれ、皇族」

「甘く見られたものね?」

眼中にないという態度に、エルナが眉を顰める。

だが、状況は確かに不利だ。

いくらエルナでも徒手空拳で魔剣に立ち向かうのは難しい。

俺という足手まといがいるからだ。

だが。

「剣の折れた勇者に用はない」

「そう? なら剣があればいいのね?」

言った瞬間。

エルナの愛剣が店のほうから飛んできた。

ナイジェルはそれを払い落とそうとするが、それは無数の短剣と魔弓によって阻止された。

「やはり罠だったか」

「わかっていて来るなんて、どうかしてるぞ? お前」

「貴様にだけは言われたくないな?」

ナイジェルは椅子に座り直した俺を見て、そう呟く。

そんなナイジェルを、愛剣を手にしたエルナと、セバス、ミアが囲む。

三対一。

退くべき状況だが、ナイジェルはまったく動じていない。

「さっさと逃げてほしいですわ」

「まったくだ」

「あなたに言っているんですの!?」

これから戦場になる場所で、俺はゆっくりと紅茶を飲み始めていた。

それに対してミアが突っ込む。

だが、俺が逃げると戦場が変わる。

それでは意味がない。

「これでも帝位候補者の兄だ。この首を取られたとなれば、セオドアは面子をかけて出てくるだろう。どうだ? 取れるか?」

「安い挑発だな」

「怖いならそう言え。どうした? ロスアークの攻撃剣術と最高の魔剣を手にして、表舞台に出てきたのは……最強を自負したからじゃないのか? 剣士の端くれだと言うならこの首くらいとってみろ」

俺がそう言い切った時。

すでにナイジェルの剣は俺の首まで迫っていた。

だが、その剣をエルナが受け止めた。

「いきなり大将首を取れるわけないでしょ?」

「邪魔を、するな!」

ナイジェルとエルナの打ち合いが始まった。

その間にセバスとミアの援護が入る。

さすがに不利と見たのか、ナイジェルがいったん距離を置いた。

「それで全力なら副団長のほうが強いわよ?」

「……セオドアより俺が弱いと?」

「そうね。私は副団長にはかすり傷すらつけたことないもの」

エルナは剣を払った。

すると、床に少量の血がつく。

ハッとしてナイジェルは頬に手をあてる。

微かな傷がそこにはついていた。

「足手まといを抱えた勇爵家を討ち取る気はなかったが……考えが変わった」

「あら? 意外に賢明ね」

エルナが剣を構える。

ナイジェルも剣を上段に構えた。

炭化していた魔剣がどんどん赤く発光していく。

そして。

戦いはナイジェルの攻めから始まった。

体全体を使った強烈な一撃を、エルナは受けとめるがすぐに弾き飛ばされた。

それだけ重い一撃だったということだろう。

そんなエルナをカバーするべく、ミアとセバスが中距離から攻撃を仕掛ける。

だが、セバスの投げた短剣はナイジェルに当たる前に溶けてなくなり、ミアの魔弓もかき消された。

炎の結界というべきだろうか。

ナイジェルの周りには熱を持った結界があるようだ。

それは当然、守りにも使えるだろうが。

攻撃にも使える。

「雑魚は退いてろ」

そう言ってナイジェルはミアに向かって右手を向けた。

すると結界がミアのほうへ伸びていく。

ミアも危険を感じて、下がりながら魔弓を放つが止められない。

仕方なく、大きく距離を取った。

すると、ミアがいた場所はドロドロに溶けていた。

「厄介ですわね……!」

「これは困りましたな」

セバスとミアは言いながらも攻撃を続ける。

あくまで二人の役目は牽制だからだ。

相手をしてもキリがないとナイジェルも判断したようで、体勢を整えたエルナへ向かっていく。

また強烈な一振り。

それを今度はエルナも受けとめた。

重さがわかっていれば、耐えられるといったところか。

だが、打ち合いは不利だった。

俺がいる以上、エルナは機動力を使うことはできない。相手の得意な状況で戦うことになる。

強烈な一振りに対抗するため、エルナも強烈な一振りを放つ。

攻撃対攻撃の構図になる。

だが、エルナの剣が弾かれる場面が目立ち始めた。

ナイジェルの攻撃が苛烈さを増し始めたからだ。

だが、それでもエルナはナイジェルと鍔迫り合いまで持っていく。

「その程度か? 勇者!」

「うるさいわね、こっちも予定があるのよ」

そうエルナが言った時。

伏兵が現れた。

従業員に扮していたリンフィアが槍を構えて、ナイジェルに近づいたのだ。

そしてリンフィアは槍を回す。

相手に睡魔を与える特殊効果。

それがリンフィアの槍にはある。

達人相手にも効果は薄いが、効くには効く。

問題は範囲が限定できないことだろう。

エルナにも睡魔が襲う。

「小細工を……!」

このまま眠らせる気なのだと判断したナイジェルは、一気に押し切ろうとする。

どこまでも攻撃的な男だ。

だが、そうであってくれて助かった。

「ご苦労」

俺の一言を受けて、店の屋根から飛び降りてきたジークが返事をする。

「楽な仕事だぜ」

「なにぃ?」

ジークは俺の前にある机に着地する。

その手には腕輪型の魔導具があった。

ガチャリとナイジェルの手に腕輪が装着される。

一気にエルナを押し切ろうとしていたナイジェルには成す術はない。

殺意のある攻撃なら対処のしようもあっただろうが、ジークがしたのは腕輪をつけるだけ。

そこに殺意はない。

「何だ、これは!?」

「続きは向こうで楽しんでくれ。歓迎の準備は整っているはずだ」

ヒラヒラと手を振ると、ナイジェルは魔剣に力を込めて攻撃しようとしてくる。

だが、その前にナイジェルの姿は消え去ったのだった。

「さて、俺たちも後を追うぞ」

「その前に着替えさせて!」

いいながらエルナがドレスを片手で押さえている。

暴れたせいで、紐が切れてしまったらしい。

まったく、剣を持つと剣士に切り替わるんだから、困ったもんだ。

俺は着ていた上着を放り投げて告げる。

「馬車で待ってる」

「ここで着替えてくれてもいいんだぜ?」

「ここで死んでもいいんですよ?」

空気を読まずにジークが呟き、後ろからリンフィアに槍を突き付けられている。

馬鹿な奴だ。

笑いながら俺は店を出る。

ゆっくりしても問題ないだろう。

転移先にいるのは正真正銘、帝都最強タッグだからな。