作品タイトル不明
第四百五十七話 近衛剣礼
昼。
帝都にたどり着いた俺を出迎える者はいない。
堂々と大通りを馬車が通っていく。
民たちは日々の生活をしている。
凱旋ではない。失敗して送り返されたわけだから、民に伝える必要もない。
民たちは貴族の馬車が通っているなとしか感じていないだろう。
「帝都は前より賑わっているようですね」
「さすがに一年もあれば復興するだろう。ここは皇帝のお膝元だからな」
「その言い方だと他のところはまだ復興できていないんですの?」
「形ばかりの復興はされているだろうけどな。元通りになるのは時間がかかる。建物が元通りになったからといって、それで復興とは言えないからな」
活気が戻り、人の往来が戻り、そして痛めた心が癒えて、それ以外の様々なことを乗り越えて、ようやく復興と言う。
帝都の復興が早いのは、人の行き来が活発だからだ。立ち止まればおいていかれてしまう。
だから人々はたくましく、立ち上がるのが早い。
忙しい毎日が悲しみを忘れさせる。
「建物だけでも復興できるあたり、帝国はすごいですわね」
「そうだな。藩国じゃまだまだ建物すら追いついていない。まぁ、戦火による損害よりも圧政による損害のほうが大きいのが原因だけどな」
「素早く出来上がったものは、崩れるときも一瞬ですから。急がず、焦らず、藩国はトラウゴット陛下の下でゆっくりと再建されていくのでしょう。帝国と比べても仕方ありません」
フィーネの言葉に俺とミアは頷く。
藩国には藩国のペースがある。
トラウ兄さんの在位中に国として自立できるかどうか。そういうレベルの問題だ。
もちろん帝国は支援するだろう。
北側に藩国があれば、皇国と王国は警戒せざるをえない。
帝国側に立っているだけでいいのだ。それが圧力となる。
帝国軍が藩国を通って侵攻してくるかもしれない。そう思えば、防備を広げなければいけない。
そんなことを考えていると、馬車が城へとたどり着いた。
降りたところで、周りには人がいない。
「おいおい、出迎えもなしか? あいつめ……」
「伝えられていないのでは?」
「そんなことあるか? フィンも来たのに、レオに伝えられていないなんてこと」
言いかけて、俺は言葉を切る。
こちらへ走ってくる近衛騎士がいたからだ。
「アルノルト殿下。皇帝陛下がお呼びです」
「さっそくかよ……」
出迎えがない理由はこれか。
さっさと呼び出して、説教とは良い趣味をしている。
なんて思いながら、俺はフィーネとミアと別れて玉座の間へ向かった。
■■■
近衛騎士に先導されながら、俺は玉座の間へ向かう。
一年ぶりの帝剣城に変わりはない。
玉座の間へ向かう一本道の手前。
そこで近衛騎士が立ち止まった。
「どうした?」
「自分の先導はここまでです。これからはお一人で」
「なんだ? こんなところで先導が終わりなんて聞いたことないぞ?」
「今日は特別ですので」
そう言って近衛騎士は去っていく。
何がどうなっているのやら。
ため息を吐きながら、俺は一本道を歩いていく。
そしてすぐにあの近衛騎士が先導をやめた理由がわかった。
「やれやれ……」
呟きながら俺は歩き続ける。
その先にいたのは白いマントの騎士たち。
さきほどの近衛騎士たちとは違い、意匠が入っているマントだ。
つけられるのは帝国近衛騎士団でも隊長のみ。
それが十三人。
左右に分かれて立っていた。
「近衛騎士団の隊長たちが勢ぞろいか。父上が自ら出陣でもするのか?」
俺の質問に誰も答えない。
仕方ないので一歩踏み出すと、俺から見て一番奥にいる騎士団長、アリーダが呟く。
「総員抜剣」
全員が一斉に剣を抜いた。
そして切っ先を床に当て、十三人が膝をついた。
ようやく意味を理解して、俺は目を丸くする。
これは儀式だ。
しかも近衛騎士団の隊長たちが行う最上位の儀式。
隊長たちはめったに膝をつかない。
皇帝直属の騎士だからだ。
そんな近衛騎士たちが剣と共に膝をつく儀式がある。
近衛剣礼。
国を救った英雄くらいにしかしない儀式だ。
「殿下のご帰還をお祝いいたします」
全員が口をそろえてそう言った。
誰の差し金だか。
埒が明かないので、俺は近衛騎士たちの間を通っていく。
そして最後のほうになって呟く。
「お前の差し金か?」
「違うに決まってるでしょ?」
一年ぶりの会話にしては、ずいぶんとあっさりしたものとなった。
膝をつくエルナは呆れたようにため息を吐いた。
まぁ確かに、エルナがいくら求めても許可は降りないだろう。
「説明してもらえるか? アリーダ団長。誰がこんな居心地の悪い儀式を用意したんだ?」
近衛騎士たちの道を通り抜け、俺は立ち上がったアリーダに訊ねる。
アリーダは剣を鞘にしまいながら、玉座の間の扉に手をかける。
本来ならば近衛騎士団長がやることではない。
門には担当の近衛騎士がいるからだ。
何から何まで最上位待遇。
どうなってる?
「トラウゴット陛下から親書が届きました」
「トラウ兄さんが?」
「第七皇子アルノルトは藩国において著しい成果を上げ、宰相として最大限の仕事を成し遂げた。この功績は遥か先まで帝国に益をもたらす功績である。藩王として最上位の出迎えを要請する、と」
「あの人は……」
呟く俺を見て、アリーダはフッと微笑む。
そして。
「陛下がお待ちです」
言いながら扉が開かれた。
玉座の間。
そこの最奥。
玉座には父上が腰かけていた。
その横には宰相のフランツ。
そして手前には二人の皇子が並んで、俺を見ていた。
「――任務ご苦労。よく帰った、アルノルト」
玉座に腰かけながら、父上が告げる。
そしてニヤリと笑うのだった。