軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十二話 口実作り

ミアが来てから数日。

すでにミアは北部に帰っている。俺の手紙を持って。

ミアの力が必要なのは藩国に行ってからだし、テッドをラインフェルト公爵の下へ送るのは今のほうがいい。

現在、ラインフェルト公爵はリーゼ姉上の補佐という形で藩国を統治している。

藩王以下、重鎮たちはほとんど捕まり、帝国の牢獄に送られている。時期が来れば処刑されるだろう。

そのため藩国には統治者がいない。そこを治めているのがリーゼ姉上の軍だ。

しかし、軍事力だけではどうにもならないことがある。そこを補っているのがラインフェルト公爵だ。トラウ兄さんと俺が行った後も、しばらくは力を貸してくれる手筈になっている。

今ほど勉強になるときはないだろう。

だからこそ、早めにミアを北部に帰した。

それは良いのだが。

「まったく……どうしてこうなった?」

俺は机の上に積まれた絵を見ながら呟く。

どれも即興で描かれた似顔絵だ。

「ミア殿への対応を見て、素朴な村娘が好きだと勘違いしたようですな。自分の血縁で近い雰囲気を持つ女性を縁談相手として送って来ているのでしょう」

「人の話を聞いてないのか……?」

あれほど言ったというのにまだ俺の縁談を諦めていないとは。

しつこいにもほどがある。

「仕方ないですな。あなたはレオナルト様の兄君。王国との戦争でさらなる戦果をあげればエリク殿下よりもレオナルト様のほうが帝位に近づきます。エリク殿下はここ最近、戦場に出てはいませんからな。混乱期においては武王のほうが求められます。そうなると、あなたは皇兄。しかも自分の力も証明してしまった。貴族としては何とか婚姻を結びたいと思うのは当然でしょう」

「随分と激しい手のひら返しだな。手首が壊れるんじゃないか?」

「あなたは前から狙われていました。しかし、障害があったのです」

「障害?」

「フィーネ様とエルナ様です。お二人があなたに近いので、縁談の話を持っていくだけ無駄と考えていた。しかし、あなたが断わった。だから彼らにもチャンスがあると思ったのでしょう」

「勇爵家と公爵家で駄目ならチャンスはないと諦めてほしいもんだがな……まぁ帝位争いに乗り遅れている貴族ならそんなもんか」

俺との縁談をもくろんでいる貴族たちは、中立の貴族たちだ。

帝位争いも終盤に入ったのにいまだに方針の定まっていない家といえる。

ここまで来たらとことん中立を決め込むべきだ。

俺たちの勢いを見て、俺たちに関わろうとするのは自分たちの安売りでしかない。

終盤になった時に、少しでも勢力を拡大したい帝位候補者が動くのを待つべきだし、そういう展開にならないなら諦めるべきだ。

素早く動けなかったのが悪い。

しかし、彼らはそうは思えなかった。

まだ五分五分だから乗り遅れていない。そんな風に思っているんだろうが。

勢力が大きくなった今、中堅層の貴族では大した足しにもならない。

「どうなさいますか?」

「断るのは簡単だが……ちょうどいい。放置しておいてくれ」

「何かに利用されると?」

「大した役にも立たないが、口実には十分だ」

「なるほど」

俺の言葉を理解したセバスは何度か頷くのだった。

■■■

さらに数日後。

俺の部屋にノックもせずにエルナが入ってきた。

「アル! どういうことよ!?」

「ノックくらい……いや、もういい。それで? 何の用だ?」

「何の用だ? じゃないわよ! 地味目な村娘が好みとか噂が流れて、貴族たちが似顔絵を送り込んでるらしいじゃない!」

「そうだな」

「早く断わりなさいよ! なんで放置してるの!?」

「断っても送ってくるんだから仕方ないだろ?」

「本気で断われば送ってこないわよ!」

本気というのはこれ以上、送ってきたら処罰すると宣言するということだ。

さすがにそれでも送ってくる猛者はいないだろう。

だが。

「俺としてはもう少し送ってくれないと困るんだよ」

「何でよ!? まさか選り好み!? 噂どおり地味な子が好きなの!?」

「そこに好みは関係ない。必要なのは量だ」

「最低ね……一夫多妻が許されるのは皇帝だけよ?」

「どんな想像してんだよ……今やってるのは口実作りだ」

俺の言葉にエルナが首を傾げる。

まったく。

「口を滑らすなよ?」

「大丈夫よ」

「不安だ……まぁそろそろ平気だと思うが。これだけ縁談話が舞い込んでくるのは異常事態だろ? これでも皇子だしな。中堅層の貴族が皇帝を通さずに縁談を持ってくる時点で、ちょっと侮られているともいえる」

「たしかに勇爵家や公爵家とは立場が違うものね。で? それがどんな口実になるのよ?」

「帝国で起きたことは藩国でも起きかねない。そうは思わないか?」

「たしかに藩国の貴族も帝国の皇族と繋がりたいと思うでしょうね」

「その通り。それで俺の業務が妨げられたら面倒だ。だから、以前の状態に戻す」

「以前の状態?」

「フィーネを俺の傍に置いておく。そして藩国に連れていく口実に使う。帝都にフィーネを残してはおけないからな。下手をすればレオは即座に国境に舞い戻る。絶好の標的になりかねない」

「まさかフィーネを女避けに使う気?」

「向こうも俺を男避けに使える。フィーネにも大量の縁談が届いているようだぞ」

最近、フィーネはあまり俺の傍にはいない。

空いている時はテレーゼ義姉上のところに行っているからだ。

テレーゼ義姉上には悪いが、俺の傍に引き戻させてもらう。

「俺とフィーネの関係が良好なら無理をする貴族は格段に減る。そう説いてフィーネを連れていく」

「でも一度縁談を断わった相手よ?」

「それでも傍にいれば影響力がある。あとは適当に噂を流せば終わる。藩国の貴族もわざわざフィーネを連れていったら縁談を持ち掛けたりはしないだろう」

「……なんか私が負けたみたいで嫌だわ」

不満そうな顔でエルナが呟く。

なんでこう、何でもかんでも勝ち負けで判断するんだろうか、こいつは。

「じゃあ近衛騎士をやめろ。それなら俺も遠慮なくお前を藩国に連れていける」

「そんなのできるわけないでしょ? 悪魔関連の問題が出てるのに……」

「わかってるじゃないか。昔どおり、お前が傍にいるなら縁談なんて来ない。だが……互いに立場ができた。昔のように、どこでも一緒の幼馴染というわけにはいかない」

「……私の代わりがフィーネってことね?」

「そうなるな」

「それなら納得してあげるわ」

そう言ってエルナは不満を引っ込めて踵を返す。

あれで納得できるんだからすごいな。どういう判断基準で動いているのやら。

「とりあえず一難去ったな」

「あとは皇帝陛下への説明ですな」

「疲れた顔をして会いに行けば平気さ。父上としても庇護者がいない状況でフィーネを帝都には置いておけないと思うだろう。もしも悪魔との全面戦争になれば、父上も戦場に立つだろうからな」

「退魔盟約ですな。悪魔の侵攻が確認された場合、各国は最強戦力を送り込む。五百年間、使われなかった盟約ですが」

「SS級冒険者のみで片が付くなら、それが一番だ」

犠牲は出ないほうがいい。

しかし楽観視できる状況でもない。

そんなことを思いながら俺は窓から静かに外を見たのだった。