軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百三十二話 疑わしき国

「まずは集まっていただきありがとうございます。各国の陛下方」

『手短に話せ。急を要するから呼んだのじゃろう?』

形式的な挨拶から入ったクライドに対して、皇王がそう急かす。

クライドはその言葉に頷き、俺に視線を向ける。

そして。

「悪魔が現れた。人を依り代として、人間社会に紛れている」

簡潔に俺は事態を告げた。

その場にいた王たちの表情が一変した。

『詳しく話してもらえるかな? シルバー』

王太子が俺に話を促す。

お前がこの中だと一番怪しい癖に、と心の中で呟きながら俺は話を進める。

「帝国内にあった魔奥公団の拠点を壊滅させたとき、人を依り代とした悪魔が現れた。口ぶりから察するに一人というわけではないだろう」

『シルバー……つまり討伐したと?』

「そいつは討伐した」

アルバトロ公王の質問に答えると、王たちの中に安堵の空気が流れ始めた。

そんな空気を引き締めるように父上が口を開く。

『我が国で悪魔が出現するのは二度目だ。偶然ではあるまい』

「その通り。拠点の中にあった資料を見るかぎり、ここ最近の帝国での事件には何らかの形で魔奥公団が関わっていた。悪魔を利用して、帝国を攻撃しているとみるべきだろう。もしくは悪魔に利用されているかだが、どちらでも一緒だろう」

「危機であることには変わりません。大国に攻撃を仕掛ける以上、それなりの戦力を有していることは間違いありません。悪魔が再び、大陸に攻撃を仕掛けているのです」

五百年前の再来。

王たちの間で動揺が走るが、全く動じない奴が一人。

『ふむふむ、つまりやっつければよいのだな? シルバー』

「簡単に言わないでもらおう。帝国南部で召喚された悪魔より数段手強かった。そして向こうは組織。壊滅させるにはSS級冒険者クラスの実力者が何人も必要になるだろう」

『でも負けるとは思っておらぬであろう? この仙姫が力を貸そう。必要ならいつでも呼ぶがよい!』

「お力添えに感謝します、仙姫殿。冒険者ギルドとしてはAAA級以上の精鋭を動員し、魔奥公団の討伐にかかろうと思います。できれば迅速に。これ以上、悪魔が増えないうちに」

「奴らは悪魔を召喚する方法を確立しており、その依り代には生きた人間が用いられる。ぐずぐずしていると国の中枢に潜り込まれてしまうだろう。見た目は人間だ。向こうが普通にしていたら気付くのは難しいだろう」

『なるほど……確かに大陸の危機じゃな。だが、現在のところ標的になっているのは帝国だけのようだが?』

「あの奇妙なエヴォリューション・スライムが自然発生したと本気で思っているのか? 皇王」

『向かう先は帝国であった。あれも帝国攻略の一環と見れるじゃろう』

確かに危機は迫っている。しかし直面しているのは帝国。

ほかの国は大した被害を受けていない。

こうなると難しい話になる。

『冒険者ギルドが帝国に協力するのは問題ないでしょう。しかし、それに大陸中が協力するとなると別の話では?』

王太子がそう言って薄く笑う。

協力への対価は危機の排除。相手が相手だ。自国の戦力を送り出して、帰ってこないなんてこともありえる。

各国の王たちはそれが心配なのだ。

自分が損をしたくない。

できるなら帝国だけが弱体化してほしい。そういう気持ちが透けて見える。

「たしかに今のところ、積極的な活動範囲は帝国ですが」

『標的が帝国ならば冒険者ギルドで帝国を守ればいい。そうは思いませんか? シルバー』

王太子が俺に冷たい目を向けてきた。

熱量の欠けた目だ。

底が知れない不気味さがある。

だが、それがなんだ?

冒険者にとって不気味は止まる理由にはならない。

「〝かもしれない〟……冒険者がモンスターを討伐する時の文句だ。人を攻撃するかもしれない。危険かもしれない。可能性の段階で冒険者はモンスターを討伐する。これからの被害を減らすためだ。ご存じか? 王太子」

『もちろん』

「ならばこれも了承していただけるな? 魔奥公団は現在、王国に拠点を移している。大陸に危険を及ぼすかもしれないから、冒険者ギルドによって徹底的に調査する。多少の被害は大陸のためだ。諦めてくれ」

俺の言葉に王太子の表情が固まった。

ほかの王たちも顔色が少し悪くなった。

暴論と言えるだろう。

だが、それを振りかざして俺は連合王国の聖竜を討伐した。

あの時点で何もしてなかったが、十分に民の脅威になりえたからだ。

悪魔もそう。いるだけで脅威だ。ゆえに排除しなければいけない。それは五百年前からの教訓だ。放置して大挙して現れたら勝てる保証がない。

裏でコソコソと動くのはまだ完全ではないから。

掃討するなら今だ。

『シルバー、君は我が王国を疑っているのかな?』

「無論だ。帝国が弱体化して利を得るのは王国と皇国。そして帝国で起きた反乱に乗じて、王国は攻め込んだ。藩国と連合王国を巻き込んでな。帝国を攻撃する犯罪組織と、帝国の隙を窺っていた王国。手を組んでいると考えるのは飛躍しすぎか?」

『隣国が弱体化したら攻め込むのは基本だ。その理由までは知る由もない。こじつけはやめてもらおう』

「だが、非協力的だ。疑わしい国が非協力的。疑いが深まるのは仕方ないのでは?」

『我が国が悪魔と手を組んでいるというなら、もっと大々的に協力してもらう。中途半端なことなどしない。こうやって反撃が来るのがわかっているのだから』

悪魔の存在が知れれば、王国が真っ先に疑われる。

この会議があるからだ。

自分ならもっと賢く立ち回る。そういう理論で王太子は俺の追求を躱す。

だが、そういう理論で来るなら。

「なるほど。確かにその通りだ。非礼はお詫びしよう。しかし、魔奥公団が王国に拠点を移しているのは事実だ。賢い王太子ならば大陸のためにどうすればよいかお分かりだと思うが?」

『……我が国は現在、帝国と戦争中だ』

『大陸のためならば停戦もやむを得ん。早々に軍を退こう』

父上が王太子の逃げを潰す。

王太子は軽く父上を睨み、そしてため息を吐く。

『やれやれ……停戦するというなら捜査を許可しよう。好きにするといい』

「だそうだぞ?」

「すぐに冒険者ギルドより人員を送ります」

『あまり暴れないでほしいものだ。冒険者ギルドはいつも手荒い。終わったあとに王国の地形が変わっている、などというのはないと約束してもらえるかな?』

「相手によるだろうな」

「善処しましょう。では冒険者ギルドよりSS級冒険者三名を中心とした人員を送ります。異論はありませんね?」

王たちから異論はでない。

現在、拠点が王国にある以上、捜査は既定路線だ。

懸念だった帝国と王国との戦争も停戦となる。

これで異論を唱えれば悪魔に与していると見られかねない。

『しかし、すべての拠点を壊滅させることに成功したならば好きに動かさせてもらいます。構いませんね? ギルド長』

「すべて終わったならば国に干渉はしません」

『感謝します。だそうですよ? 皇帝陛下』

『そういうことなら我が帝国も自由にやらせてもらおう。すべてが終わったならば、な』

王太子と父上が睨み合う。

停戦は所詮停戦。

そこから講和会議に入るだろうが、条件がまとまらなければ再戦だ。

そして二人ともまとまるとは思っていない。

『SS級冒険者の人選はどうするつもりじゃ? ギルド長』

「ジャック、リナレス、エゴールの三人を向かわせます。東の抑えはノーネームに任せ、中央には転移能力のあるシルバーにいてもらいます」

『賢明じゃな。ノーネームを送り出せと言われたら困っていたところじゃ』

『心にもないことを。大規模な儀式魔法の開発に成功したと聞いたが? しかも転移関係の』

『耳が早いのぉ。仙姫』

『うむ! 耳が良いからな!』

ピコピコとオリヒメが自慢げに耳を動かす。

それに対して皇王は呆れながら呟く。

『しかし、それは未完成じゃ。反動が大きすぎる。とてもじゃないが使う気にはならんよ。まぁ、どうしてもノーネームが必要というなら考えなくもないがのぉ』

「その時はお願いするかもしれません」

クライドはそう皇王に頭を下げる。

そして。

『では詳細が決まり次第、連絡を。これより前線の軍を退かせます』

『こちらもそうしよう。使者を出す』

『いいでしょう。お待ちしています』

そう言って王太子と父上が姿を消す。

それを見て皇王も姿を消し、続々と王たちが姿を消していった。

『ではな! シルバー!』

「では、またいつか」

俺はオリヒメに別れを告げる。

残ったのはロジャーだけだった。

『ご配慮に感謝します。ギルド長』

「皇帝陛下からの申し出です。感謝なら帝国に……しかし、帝国と連合王国の秘密会談とは。何事もなければよいのですが」

『大丈夫だと思いたいですが、それは王のみぞ知ることです』

そう言ってロジャーも姿を消す。

こうして賢王会議は終わりを告げたのだった。