軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百九十七話 再び空へ

イーグレット連合王国。

三つの島からなる王国で、中央の大きな島が国の中心だ。

その中心には巨大な王都が存在する。

しかし、王都は今、大きく二つに割れていた。

現王と第一王子は、第二王子ウィリアムに敗戦の責任を押し付けて、その首をもって帝国と休戦しようと考えていた。

しかし、心ある貴族や大臣はそれに反対し、城では日夜激論が交わされていた。

今まで連合王国を守護していた三体の聖竜のうち、二体はシルバーによって討伐された。軍事力の衰えは明白であり、戦に長けたウィリアムを処刑するなどもってのほか。

それが反対派の意見だった。

一方、現王と第一王子は、ウィリアムが個人的友情を優先して、国益を損なったと主張した。それに対して反対派が反論する。

ゴードン皇子を援助しようと決定したのは現王であり、ウィリアム王子は反対していた。王命ゆえに帝都へ向かい、その後、連合王国のために死力を尽くして戦った。

そんな王子を処刑でもしたら、連合王国の将兵は反旗を翻すだろうと。

どうにか帝国と休戦したい現王と第一王子だったが、自国で反乱が起きては本末転倒なため、処刑を強行するわけにはいかなかった。

ゆえにウィリアムは王都から少し離れた小さな村にて謹慎を言い渡されていた。

「まだ決まらないか……」

「はっ」

ウィリアムに知らせを届けにきたのは竜騎士だった。

竜王子と呼ばれるウィリアムは、連合王国中の竜騎士から信望を集めている。

そのため、謹慎中でも情報には困らなかった。

ウィリアムが動かなくても、竜騎士たちがウィリアムに届けるからだ。

本来なら止めるべき監視や護衛も、ウィリアムが処刑されるなど間違っていると思っていたため、むしろ率先して竜騎士たちを招いていた。

まだ十代前半の頃から、ウィリアムは国のために前線に立ち続けてきた。

王国との戦争中、ウィリアムは竜騎士団を率いて最後まで戦った。

それがあったから連合王国軍は本土に撤退できた。そのことを忘れている兵士はどこにもいなかったのだ。

軍部は完全にウィリアムの味方だった。

ウィリアムが竜に跨れば、すべての竜騎士がウィリアムを支援するだろう。

だが、ウィリアムはまだ動かなかった。

言われるがまま謹慎を受けいれた。

「殿下、準備は万端です。あとは殿下次第です」

「そうか」

ウィリアムは小さく答えるだけで、他には何も言わない。

そして竜騎士を置いて自分の家を出てしまった。

小さな村にはウィリアム以外にも、ゴードンの妻であるビアンカと帝国の皇族であるヘンリックがいた。

どちらも政治的に重要な立場なため、こうして動きを制限されている。

だが、そこにビアンカの娘がいなかった。

連合王国へ到着寸前に、ウィリアムが部下に託したのだ。

幸い、ゴードンの娘のことは広まっていないので怪しまれることはなかった。

「ヘンリックはまだ中か?」

「はっ、いまだに外に出てこられません」

撤退の際、ヘンリックはウィリアムの傍にいた。

その後は苦労の連続だった。

当たり前だ。あれは敗走だった。楽な敗走などありはしない。

その中でヘンリックは多くのことを経験した。

それゆえにヘンリックは塞ぎ込んでしまった。

「ヘンリック? 私だ。入るぞ」

一応礼儀としてノックしてからウィリアムが部屋に入る。

だが、すぐにウィリアムは礼儀を捨てた。

部屋の中でヘンリックがガラスの破片を持っていた。

その先は自分の喉に向かっていた。

「何をしている!?」

ウィリアムは咄嗟にガラスを弾いた。

その際に手が軽く切れるが、ウィリアムは気にしない。

「……死なせて……ください……」

「馬鹿を言うな! 死んでどうなる!?」

「僕が死ねば……ウィリアム王子は助かるかもしれません……帝国に僕の首を差し出せば……」

「愚か者! 自分の首にそんな価値があると本当に思っているのか!? あの皇帝が反旗を翻したとはいえ、自分の息子の首を見て喜ぶとでも!? 火に油を注ぐだけだ!」

「じゃあ……どうしろって言うんです!?」

「生きろ! 生きて罪を償え! 罪悪感に耐えきれず、死ぬことなど許さん!」

「そんなこと……」

ヘンリックはそのままうずくまって泣き出した。

もう何もかも嫌だった。このまま世界から消え去りたいと心の底から思っていた。

撤退の際、ヘンリックは多くの経験をした。

傷だらけの兵士たちがどんどん脱落していった。

ヘンリックも飢えと渇きで死にそうになった。元々、城で安全に育てられた皇子だ。苦労を知らないヘンリックには耐え抜くことなど不可能だった。

それでも無事にここまで来れたのは、周りが助けてくれたからだ。

帝国の皇子だから助けたわけではない。ウィリアムの指示でもない。

ただ助けたいから周りの兵士はヘンリックを助けたのだ。

倒れたヘンリックを交互に背負い、兵士たちは無事に船までたどり着いた。

生かされたヘンリックだったが、そこからが地獄だった。

無知ゆえにヘンリックはどこか兵士の命を軽く見ていた。

盤上の駒のように考え、扱っていた。だからあっさりと見捨てられた。

しかし、気づいてしまった。

そんな駒のように扱う兵士たちも一人の人間であり、彼らにも家族がいるという当たり前の事実に。

何千という兵士を死なせた。何千という家族を悲しみに陥らせた。

奇しくもヘンリックも家族を失った。

自分たちを生き残らせるために、ゴードンは足止めの突撃をかけた。

その姿を見ながらヘンリックは撤退した。

あの時、感じたのはまさしく痛みだった。

その痛みを多くの家族に与えてしまった。

後悔がヘンリックを襲い、遅れて罪の意識がやってきた。

「僕なんか……死んだほうがいいんだ……!」

「死にたいなら死ねばいい。だが、何も成さずに死ぬことは許さん」

「僕に何ができるって言うんです!? 戦場で多くの兵士を死なせた皇族の出来損ないで、命をかけても何も解決できない僕に! 何ができるって言うんだ!?」

「何ができるかどうかは、やってみなければわからない。お前は何をした?」

「僕は……」

「お前がやったことは塞ぎ込み、自分には何もできないと自分にレッテルを貼っただけだ。償いもせずに死ぬのか? それがどれほど愚かなのか、わからないのか?」

「……償いなんて……何をしたらいいか……」

のうのうと生きることなど許されない。

今にも怨嗟の声が聞こえてきそうだ。

死を望まれながら生きる。その果てしない道のりに気が遠くなる。

だが、ウィリアムは決して自殺を許さなかった。

「いつか……死んだ兵士たちが誇れるお前になればいい……。どこまでいっても彼らは死んだのだ。お前のミスだったとしても、彼らは死んだのだ。もはや彼らに続きはない。お前が代わりに続きを歩け。すべてを背負って、殺した分だけ人を救え」

「僕はあなたのように強くはない……!」

「私も……強くはない。こんな状況になってもまだ悩んでいるからな……」

「え……?」

「……ゴードンは家族を守ってくれと言い残した。その意味をずっと考えていた。妻と娘、そしてお前。三人を守ってくれという意味だったのか? それなら逃がせば済む。しかし、もっと広い意味だとするなら……私は友の家族のために私の家族を討たねばならない。それが許されるのか? 何が正しいのか……ずっと考えていた」

だが、答えは出た。

そう言ってウィリアムはヘンリックの腕を掴み、立ち上がらせた。

そして。

「生きている者にしか続きは歩けない。お前が償いをするように、私も私ができることをしよう。どんな経緯があろうと……私が率いた軍が負けたのだ。死んだ者は私のせいで死んだ」

「あ、あなたは違う! 大勢を守った!」

「それが戦争だ。指示に従って、負けたのだ。彼らには私を責める権利がある。だが、私は死なない。友のために、散った部下たちのために、この国のために。最善の道を歩こう」

ウィリアムが外に出ると、そこにはロジャーがいた。

鎧に身を包んだ完全武装だ。

「殿下が遅いので……お迎えにあがりました」

「ご苦労……今から飛び立とうと思っていたところだ」

「それはよかった。皆、待ちかねています」

そう言ってロジャーは空を見上げた。

そこには無数の竜騎士が滞空していた。

その光景にヘンリックは茫然とする。

これほどの竜騎士の大軍は見たことなかった。

「ヘンリック。お前の償いについては一緒に考えてやろう。だが、私にはやることがある。しばし待て」

「ウィリアム王子……」

「私は私の友を裏切らぬ。最期の言葉通り、友の家族は私が守ろう」

ウィリアムは愛竜に跨ると、空に上がった。

そしてロジャーから槍を受け取ると、その槍を振るって号令を発した。

「全軍前進! 目標は王都! 国王の首を取る!」